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フットサル バルドラール浦安デフィオ “障害の有無を越える”

  • 2021年10月20日

「チョキ!チョキ!」「タ!」
フットサルのコートで繰り広げられていた独特なサインプレーです。これはサッカー歴20年以上の私も見たことがない場面でした。

「障害の有無で、線を引いてほしくない」障害の有無に関わらず、工夫を重ね、互いの特長を生かしながらプレーし、健常者のリーグでトップを目指すチームを追いました。
(首都圏局/記者 生田隆之介)

目指すは“1部リーグ昇格!”

千葉県浦安市に拠点を置くフットサルチーム「バルドラール浦安デフィオ」は17人のメンバーのうち7人は聴覚障害や知的障害、精神障害などがあります。
デフィオが所属するのは千葉県フットサルリーグ3部。昇格を重ねれば、最終的にはプロの日本フットサルリーグ「Fリーグ」にもつながるリーグです。

フットサルには、障害者のチームが参加する大会もありますが、デフィオはあえて、このリーグで1部昇格を目指しています。

チームを設立した、泉洋史監督(35)は特別支援学校の教員として働くかたわら、クラブチームでフットサルの選手として活躍していました。
チーム設立の背景には、特別支援学校の生徒が「障害があるから」とみずから遠慮したり、周りが距離をとったりして、障害のある生徒が部活動に入れなかったり、スポーツをしたくてもできなかったりする状況があることを知ったといいます。

そこで、所属クラブの助けを借りて、2014年に「聴者と聴覚障害者の融合」をテーマに掲げたチームを設立。チーム名は聴覚障害を意味する「deaf(デフ)」と「挑戦」を意味するスペイン語「desafio(デサフィオ)」をかけあわせ、「デフィオ」と名付けました。

泉洋史 監督
「障害があるメンバー、ないメンバーでつくる私たちのようなチームが通常の試合に出場して上を目指すことで、『障害があっても一緒に試合ができるじゃないか』とか『障害がある人ともコミュニケーション取れるじゃないか』ということが、周りの人にも実感してもらえるのではないかと思っています」

フットサルに欠かせないコミュニケーション どうやって?

最初に集まったメンバーは、聴覚障害がある9人を含む12人。サッカーの4分の1ほどのコートでプレーし、めまぐるしく展開が変わるフットサルで、欠かせないのは「コミュニケーション」です。ほかのチームと対等に勝負するには、試合中に全員が戦術をスムーズに共有する方法が必要でした。キャプテンの安川憲幸選手(37)はチーム発足当時を振り返り、次のように話します。

キャプテン 安川憲幸 選手
「健常者だと声で指示できるんですけど、やはり耳が聞こえない人だと、ジェスチャーやアイコンタクトだとかでコミュニケーション取らなきゃいけないので、はじめは苦労しました」

コートを動きながらチェックするのは指文字のサイン

そこで取り入れたのが…。手話で使う「指文字」です。サインプレーに応用したのです。
ボールを持っている選手がセットプレーの際などに、頭上に指文字を掲げて、チーム全体に声をかけます。

「ア」の指文字

例えば、「ア」の指文字を掲げるとどのようになるかというと…。
「ア」は「アイソレーション」という戦術の名前の頭文字です。

サインが出ると、コートの片側半分に3人の選手が移動。逆側のゴール前にスペースを作ります。

そのスペースを使って細かくパスを交換。前線へ素早くボールを運び、ゴールを狙います。

複数の選手が一斉に動くこの戦術。選手全員が瞬時に理解して動き出さなければなりません。そのため、メンバーはコートを動きながらも、指示を出す人を常にチェックしています。こうした「指文字」によるサインはおよそ10種類にのぼります。

“どのような障害の人でも参加してほしい”

聴覚障害のメンバーから始まったチームでしたが、その後、どのような障害の人でも参加を受け入れるようになりました。

去年の春に特別支援学校を卒業したばかりの池田翔吾選手(20)は知的障害があり、試合中の状況の変化にすばやく対応するのが苦手です。しかし、このサインプレーは池田選手にとっても、なじみやすいものだといいます。

池田翔吾 選手
「戦術とかも最初は全然頭に入らなかった。サインプレーでこう動くというのが分かったから、じゃあ次、相手がこう来たらこう動けばいいんだよねという感じでプレーに広がりが出てきた」

ミーティングも工夫 全員が納得いくまで

ミーティングの方法も工夫しています。ミーティングでは撮影したプレーの動画を見て、互いに思ったことを端末の“チャット”のようにコメントを送り、意見を交わします。
聴覚障害などで、やりとりが難しい選手も、こうした方法であれば考えなどを伝えやすくなります。

試合前夜、オンラインで行われたミーティングでは、選手たちは動画を見ながら細かい動きまで丁寧に確認しました。

質問が出ると、監督やほかの選手がそのたびに動画を止めて、全員が納得いくまで、やりとりを繰り返します。試合に向けて、この日のミーティングは1時間以上に及びました。

“すべてが器用にできなくてもチャレンジする”

迎えた試合当日、この日の相手はリーグ2位の強豪です。池田選手は、練習で身につけたプレーを確実に実践する力があることを買われ、攻撃的なポジションで起用されました。

序盤はデフィオが立て続けに得点を決め、試合を優位に進めましたが時間とともに徐々に押されはじめ、2点リードされて前半を折り返しました。

5分間のハーフタイム。通常はベンチで体を休めながら作戦を確認するところですが、デフィオはコート上に出て、選手どうしで大きく身ぶり手ぶりを使いながら、修正点を話しあいます。短い時間で、作戦を共有するための工夫です。

後半に入り、さらにリードを広げられ、迎えた終盤。池田選手が何度も相手ゴールに迫ります。味方が出した勢いの強いパスに反応し、相手の裏をかいてゴール前に飛び出してシュート。

残念ながら、わずかにゴールをとらえることはできず、試合は5対13で敗れました。

何度も練習した、得意な攻撃の形を繰り出した池田選手。すでに次に目標を見据えていました。

池田翔吾 選手
「練習どおりの流れで来たので、あとはそこをどういうふうに冷静に決めるかというのが今後の課題です。今後は、個人の目標として、あと5点は決めたいと思います」

お互いの特長を理解しながら成長を続けるデフィオ。泉監督はチームの姿を通して「多様性」の大切さを感じてほしいと考えています。

泉洋史 監督
「池田選手はすべてが器用にできないかもしれないが、前線でシュートを決めることが自信につながり、それを周囲が理解して生かそうとしてくれている。違いがあっても工夫で一緒にプレーできるし、それぞれの違いを受け入れ、生かしあったり高めあったりするということは、フットサルだけではなく他の世界にもつながることだと思う。私たちがチャレンジする姿を見て、例えば壁にぶつかっている人たちに、障害があってもなくても一緒に、コミュニケーションをとって互いを高めあえるんだということを感じてもらえたらと思っています」

取材後記

身振り手振りや大きな声、何度でも説明する…。手話や動画だけでなく、さまざまな方法でコミュニケーションをとる姿が見られました。
泉監督も、実際に障害のある人と一緒にプレーするまでは「どう関わったらいいのだろう」と不安があったといいます。しかし、一度やってみると、工夫しだいで同じようにプレーできたことに驚いたそうです。
「練習着、持ってきてくださいね」。私が取材に訪れた際に言われたことばです。誰でも、どんな人でも一緒にプレーできる。そんな彼らの自信が伝わる印象的なひとことでした。

  • 生田隆之介

    首都圏局 記者

    生田隆之介

    2014年入局。長野局、札幌局を経て首都圏局。これまで災害や行政取材を主に担当。 幼稚園から高校までサッカーに没頭。東京に転勤後、週2回は社会人サッカーに身を投じている。

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