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台風被害から2年の千葉・鋸南町 ブルーシートがなぜ今も?

  • 2021年10月11日

2年前、関東地方に大きな被害をもたらした台風15号と19号。
台風15号で甚大な被害を受けた鋸南町では、当時多くの家屋が損壊して屋根にブルーシートがかけられていました。被災から2年たった町を訪ねると、今なおブルーシートがあちこちで目に入ってきます。復旧作業が終わらない町で不安な生活を送る人たちの声を聞きました。
(首都圏局/ディレクター 金谷隼一)

2年たってもブルーシート 進まない復興

鋸南町は、台風15号と19号によって全世帯の実に7割近く、2230世帯が被災しました。
その状況は大きく報道され、およそ5000人ものボランティアが復旧作業に当たりました。

今もブルーシートの屋根があちこちに残る

2年たった今、町を歩くといまだにブルーシートで覆われた屋根をいくつも目にします。修繕が終わっていない住家はおよそ200戸、空き家などを含めるとその数はさらに多いといいます。なぜ修復されないままなのか。その理由を知りたいと町内で今も活動を続けているボランティア団体「鋸南復興アクセラレーション」を訪ねました。
この団体は、町の人から家屋の修繕をしてほしいという依頼を受けると、現場の状況を確認してほかの団体に作業を委託する役割を担っています。防災に関する情報発信や、お茶会を開くなど地域コミュニティの活性化にも取り組んできました。

副代表の笹生さなえさん(43)は、3人の子どもを育てながら地域の魅力を発信するライターとして活動していました。台風15号では自宅の窓ガラスが割れるなど、自身も被災。それでも被災状況や被災時の工夫などをSNSで発信し続けたそうです。

笹生さなえさん
「外部のボランティア団体がいなくなったあとも地域で継続して支援する人が必要だと考え、今まで続けてきました。復興はまだまだ道半ばですね。町全体を見ると2年たってもまだまだ全部終わったとは言えません」

復興阻むのは「修繕費」

一時期より数は減ったものの、被災から2年たった今でもまだ毎月10~20件ほどの依頼があるそうです。ボランティアを依頼してくるのは、さまざまな事情で行政の支援を受けることができず、経済的に修繕ができない人や、業者による修理の順番を待っている人たちだといいます。

この日、笹生さんが行ったのは「アウトリーチ」。町の中を自らまわり、被災家屋が無いか聞き込みを行うというものです。
修繕ボランティアの存在自体を知らない人や、これまでにもボランティアを頼んでいて、何度も頼むことに気が引けている人など、依頼を待っているだけではキャッチできない声があるからです。しばらく町中を車で走っていると…屋根が破損している空き家を発見しました。

この空き家を所有しているのは60代の女性です。話を聞くと、台風によって屋根瓦が破損してしまったそうです。強い風が吹くと、残った瓦が飛んで隣家に損害を与えてしまうのではないかと女性は心配していました。

役場に相談したものの、住んでいる家ではないため修復するための補助金は出ないと言われたといいます。解体を希望する場合は助成金を受け取ることができるものの、解体後は農地か住居として使用するという条件を提示され、経済的な理由から断念せざるを得ませんでした。2年間、どうにかしたいと思い続けながら手が出せずにいました。

女性

お隣さんに迷惑をかけてしまうから、なるべく被害が出ないように少しずつ片付けて。全部解体したいですが先立つお金がないから我慢しています。もう自然に壊れるのを待つしかない。それしかないです。

笹生さんと女性が相談した結果、後日ボランティアが瓦の回収と屋根の補強を行うことになりました。
町の担当者に話を聞くと、災害直後の緊急時に適用される災害救助法では、行政ができる助成金などの支援は人が住んでいる家、住家に限られると言います。

鋸南町 復興支援室の担当者(当時)
「リソースや制度の問題から、私たちができる支援には限界があります。空き家については、法律でも責任の所在が所有者にあると明確に定義されているため、台風被害であっても町役場では手が出せないのです。一方で、行政の手の届かないところに関してはボランティアの方々のほうが福祉の分野とも連携して個別に町民に寄り添えるので、町としてはボランティアの方々と連携し、活動を支援することで復興を支えていこうと考えています」

雨漏りする家で暮らし続ける女性

さらに笹生さんは鋸南町の山間部に向かいました。
台風15号によって屋根瓦と扉が飛ばされたという家の中を見せてもらうと、天井はこの状態。雨漏りのせいでカビが大量に発生してしまいました。

この家に1人で住んでいる70代の女性です。話を聞くと、家がこんな状態でも住み続けるつもりだといいます。
女性の夫は2年前から町内の病院に入院しています。コロナの影響で面会もままならない状況ですが、何かあったときには駆けつけたいと考えているからです。夫と長年手がけてきたししとう栽培の農業用ハウスも手放す判断ができないといいます。

70代の女性
「お父さんが入院しているから私一人じゃ何も決められない。具合も悪くなっていて、それも気になるしね。車が運転できるうちは病院と行き来できるから。ししとうのハウスも土地もほうっておけないです」

女性の家が建っているのは、土砂災害特別警戒区域に指定された急傾斜地です。
家を再建する場合、国が定めた構造規制をクリアする必要があり、建設費用が高額になってしまうそうです。自身の年齢を考えると、家の再建に多額のお金をつぎ込むことはできないと女性はいいます。

鋸南町の土砂災害警戒区域

せめて家の修繕をしたいと行政に相談したところ、被災状況の判定は「一部損壊」。50万円ほどの補助金が出ますが、屋根や天井の修繕には不十分な金額です。しかも、町には建設業者が少なく、修繕ができるのは2、3年後になるといいます。
女性は雨漏りとカビに悩まされながらもこの家で暮らし続けてきたのです。

ボランティア頼みの支援には限界が

女性の状況を把握した笹生さんは、すぐボランティアに声をかけ修繕を行いました。可能な限り耐久性の高い補強をするため、屋根全体をトタン板で覆う改修も行いました。

しかし、こうした活動にも限界があるといいます。
「鋸南復興アクセラレーション」の活動資金は国の助成金です。資材費や団体運営の人件費、施設の維持費などをそこからまかなっています。しかし、助成金の給付期限は2022年3月に迫っているのです。

笹生さん
「当初は復興が2年で一段落できると思っていたのですが、実際はまだまだ終わりそうにありません。私たちの人件費もかかるし、修繕費は住民の方に負担いただかないというのが前提になっているので当然資材費もかかります。まだまだ需要があるのに、資金の面で規模を縮小せざるを得なくなります」

復興道半ば どう支え続ける?

こうした状況を変えていくために、笹生さんたちが取り組んでいるのが「ネット募金による資金調達」と「活動を担う地域住民の育成」です。
ボランティア団体に頼るだけでなく、地域の住民同士が不安や困りごとを共有できる町作りを行い、ネット募金で集めた資金で修繕を行っていこうと考えています。

笹生さん
「助成金はこの3月で終わります。私たちの活動も復興とともに縮小していき、自分の生活を大切にしながら息の長い活動をしていきたいと思っています。ボランティア団体としても、ゼロにはせず細くても小さくてもゆっくり回り続けている状態にしておき、いざというときは大きく動ける瞬発力をつけていきたい。それが地域の防災・減災につながっていくと思っています」

取材後記

この取材を通じて印象に残ったのは、誰一人取り残すまいと強い使命感を持って活動を続けるボランティアメンバーたちの姿でした。

自ら助けを求めることができない被災者を見つけ出し、支援するボランティアに対して
「いつうちの瓦が飛んで加害者になってしまわないかずっと心配だった。救われた」
「もう雨漏りを心配せずに寝ることができる」

こうした言葉を多くの町の人が口にしているのを聞きました。

一方で、ボランティアの存在なしには成立しない復興の形に疑問を感じています。
現行の法律や制度では、経済的な理由により家の修繕や解体ができない被災者に復興支援の手が行き届いていません。鋸南町ではボランティア団体が長期的なアウトリーチをすることで、こうした被災者を救うことができていました。しかし、鋸南町のような例は全国的に見て多くはなく、災害が発生する度に復興から置き去りにされる被災者がいることがうかがえます。
災害が多発する日本だからこそ、手厚く被災者を支えていく、または復興支援に大きく貢献するボランティアの活動を支える制度作りをしていく必要があるのではないか、取材を通じてそう感じました。

  • 金谷隼一

    首都圏局 ディレクター

    金谷隼一

    2021年入局。大学時代は分子生物学を専攻。現在は暮らしに役立つ知識を取材中。

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