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コロナに感染した妊婦の出産 母親が語る体験「赤ちゃん ごめんね」

  • 2021年10月1日

「コロナ、陽性です」
出産予定日を過ぎ、ようやく赤ちゃんに会えると思っていたその日に、突然告げられた言葉。
一時は酸素の投与が必要になるほど症状が悪化する中、私が抱き続けたのは、謝罪と感謝の思いでした。

「不安すぎて泣ける」 突然の陽性判明

赤ちゃんの名前もすでに決めて、誕生を心待ちにしていた

私(30代女性・都内在住)は、新型コロナの感染が急拡大した8月、第2子の出産を控えていました。予定日を1週間以上過ぎ、子宮口もすでに開き始めていてお産はいつ始まってもおかしくない状態でした。陣痛を促す薬を投与して赤ちゃんを出産することになり、念のため入院前にPCR検査を受けました。

「もうすぐ、おなかの赤ちゃんに会える」
そう思っていたとき、突然、検査結果が陽性だったと告げられました。
手足の力がすとんと抜けたような感じで、頭が真っ白になりました。

さらに、その病院には赤ちゃんのケアを行うNICU(新生児集中治療室)がないため、「陽性になった妊婦の出産は対応が難しい」とも言われました。

「不安すぎて泣ける」 気持ちを吐き出すと家族が励まし続けてくれた

受け入れ先は見つかるのか。さまざまな不安が胸をよぎりました。
私は家族にLINEで状況を伝えることで、気持ちを落ち着かせていました。

当時は、連日4000人以上の感染者が確認されていて病床もひっ迫していました。
「こんなことになって、赤ちゃんに申し訳ない」
「ちゃんと安全におなかの外に出してあげたい」
そんな気持ちで、待ち続けました。

「搬送先が決まった」と言われたのは、ちょうど日付が変わるころです。
陽性と告げられてから、およそ6時間がたっていました。
あわただしく救急車に乗り込み、自宅から離れた墨田区内の病院に搬送されました。

赤ちゃんは保育器に 感染さえしなければ

3700グラムを超える大きな赤ちゃんだった

病院に搬送してもらって帝王切開で出産することができたのは不幸中の幸いでした。でも、幸せだった第1子の出産のときと気持ちはまったく違いました。

帝王切開も立派なお産です。でも、私がコロナに感染しなかったら自然分べんで産んであげられるはずだったのに、と考えてしまいました。今でも、思い出すと涙が出そうになります。

産声を聞くと安心しましたが、感染を避けるため赤ちゃんには一切触れることができず、保育器越しに少しだけ顔をみると、すぐに別々の病室に移されました。

さらに私はその後、当初軽かった症状が悪化し、一時は酸素の投与が必要な状態になりました。
しゃべるのも息苦しく、つらい状況で、おなかの傷も痛んでまったく眠れません。
赤ちゃんへの「ごめんね」という申し訳なさと、この先、自分の命はどうなってしまうのだろうという不安も感じていました。

さすってくれた肩 「あなたのせいじゃない」

入院中、そんな私を支えてくれたのは、病院の看護師さんや助産師さんでした。
血圧を測りに来た看護師さんに、ひとこと「つらいです」と言ったら、ぽろぽろと涙が出てきてしまったとき…。
陽性の私の体に触れることは感染リスクもあるのに、ずっと肩をさすってくれました。

「コロナにかかったのはあなたのせいじゃない」
「悪いくじを引いたようなものだよ」
かけてくれる言葉が、救いになりました。

退院の直前まで赤ちゃんには会えませんでしたが、助産師さんたちが毎日のように、赤ちゃんの写真を撮って病室まで持ってきてくれました。

「日齢2日目 朝は元気にバタバタと早起きしていました!」
「日齢5日目 腹ペコちゃんで1時間半で起きます^^」

1日ごとに顔が変わっていく赤ちゃんの表情や様子。助産師さんがその日の出来事を書き添えてくれていて、元気に育ってくれている赤ちゃんにも、病院のスタッフの方たちにも、「ありがとう」と感謝の気持ちでいっぱいでした。

私のような思いしてほしくない リスク避ける行動を

まだ出産から1か月ほどしかたっていない大変な時期に、女性は取材に応じてくれました。「私のような思いをしてほしくない」という思いからでした。
感染が急拡大した第5波。千葉県では、自宅療養をしていた妊婦の入院先が見つからず、自宅で出産した赤ちゃんが亡くなる痛ましいケースが起きていました。
女性はその時のことをこう話します。

「千葉のニュースを出産直前に見たときも、同じ妊婦なのにどこか他人事のようでした。でも、感染すると本当につらかった。
リスクをゼロにすることはできないけど、妊婦やその家族のかたには、できる限り感染のリスクを避けて過ごしてほしいです」

第6波を前に 自治体も対策進める

第6波に備えて、自治体は対策を進めています。
東京・墨田区では、区内にある賛育会病院に、感染した妊婦や子どもを受け入れる専用病床を7床確保しました。都が入院調整を行っても受け入れ先が見つからない場合などに、対応することを想定しています。

この病院は、これまで新型コロナの対応にあたる「重点医療機関」ではありませんでしたが、第5波では受け入れ要請が相次いだことを受け、方針を変更。
コロナ患者の受け入れを始め、感染した妊婦21人が入院しました。
30代の女性を深夜に受け入れたのも、この病院です。
NICUがあることから、第6波に向けて、今後も妊婦を優先的に受け入れていくことにしています。

賛育会病院 産婦人科 山田美恵部長
「妊娠中にコロナに感染したらどうなるのかと不安を感じる人は多いし、妊婦はコロナではなくても、搬送が困難なケースがみられます。第6波でさらに感染が拡大すれば、なかなか受け入れ先が見つからないことが起こってくると思うので、感染して困っている多くの妊婦に対応していきたい」

取材後記

当時を振り返り、時折ことばを詰まらせながら語ってくれた女性。
通常でさえ精神的にも肉体的にも負担感が高まる産前・産後に、コロナに感染してしまった女性の気持ちを思うと、胸がいっぱいになりました。

感染した妊婦の対応にあたった医療従事者からも、搬送や治療に関する課題だけではなく、母親たちの心のケアの必要性が聞かれました。特に初産の場合は、入院中に授乳やオムツ替えなどの赤ちゃんのお世話の仕方を十分に覚えられないまま、不安ななかで自宅での育児がスタートすることになります。
第6波に向けて、感染した妊婦の心と体をどう守っていくのか、取材を続けたいと思います。

  • 石川由季

    首都圏局 記者

    石川由季

    2012年入局。大津局・宇都宮局を経て2020年から首都圏局。 福祉や医療の取材のほか、墨田区の行政取材を担当。

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