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通学路事故で長女失った風見しんごさん“ルール破る大人が命奪う”

  • 2021年9月17日

千葉・八街市で起きた児童5人死傷の交通事故。そのニュースを見て「ことばを失った」と語るのは14年前、長女を通学路の事故で亡くしたタレント・俳優の風見しんごさんです。
「交通ルールを守る子どもたちが、ルールを破った大人に命を奪われるのは理不尽すぎる」。車に乗る大人たちの意識を変えることで子どもの命を守ろうと、交通ルールの順守をうったえる活動に14年間をささげてきた風見さん。今の思いを聞きました。
(「通学路の安全」取材班/首都圏局ディレクター 有賀菜央)

子ども犠牲になる理不尽 何度繰り返すのか

Q.八街の事故のニュースをどんな気持ちでご覧になっていましたか?

どうしても交通事故はドライバーが鉄の箱で守られていて、いわゆる交通弱者である子どもや高齢者が犠牲になることが多いです。もちろん車同士の事故ではそれで命が失われることもありますが、対歩行者、特に朝の通学時間帯だとやっぱり一番は子どもたちが犠牲になってしまう。

僕の子どものころは野球をしている子どもたちがボールを取り損ねて、それを追っかけて道路に飛び出す、そういうシーンがテレビで描かれていた時代でした。でも今の子どもたちは車社会の中で育ってきていて意外とルールを守っているんです。もちろん朝元気にはしゃいでる子もいます。子どもらしく、友達とおはようって言いながら、ちょっとふざけ合って学校に向かう。そのせいで命の危険にさらされるなんてあっていいはずがありません。
大人が作ったルールを守っている子どもが、ルールを破った大人のせいで命を落とさなきゃいけないのが本当に理不尽な出来事だと思います。八街の事故もそうですが特に子どもが犠牲になるたびに毎回、ことばを失います。

娘奪った通学路の事故 地獄だった

風見さんは2007年、通学路の交通事故で長女のえみるさん(当時10歳)を亡くしました。
えみるさんは青信号で横断歩道を渡っていたところを右折してきたトラックにはねられました。自宅から100メートルほどの現場で、風見さんは事故に遭った娘を目の当たりにしました。

“交通事故って、こんな地獄なのか”と。妻と現場に駆けつけ、娘をトラックの下から引きずり出しました。もちろん血も流れていて、テレビで見る戦場のようでした。そこに居合わせた全ての人が地獄の中に立たされている、そんな空気感だったのを覚えています。
娘が事故に遭うまでは、申し訳ないことですがここまでのことだと知らなかった。連日起きている交通事故の一つ一つがこんなに悲惨だと知って、改めて恐怖を感じました。

なぜ動けないのか…後悔と歯がゆさ

えみるさんは、朝は車が通れないはずのスクールゾーンから出てきたトラックにはねられました。当時のことを振り返って、風見さんはもっとできたことがあったはずだと悔やんでいるといいます。

事故があった14年前はスクールゾーンという認識がまだまだ緩かった。多くの子どもの命が犠牲になって、今ではスクールゾーンに工夫を凝らして朝は車が入れないガードを出すようになっているところも増えました。でも当時はそういうものがなくて、娘はスクールゾーンから出てきたトラックにはねられたんです。それを思うと、もう…。言葉が出ないですね。なぜもうちょっと早く動けなかったのかなと。
娘が事故に遭った現場は、保護者の皆さんが歩車分離の信号に変えてもらいたいとずっと声を上げてきて、今では信号が変わっています。でも変わるまでに9年かかりました。
もちろん予算や対策を行う順番もあると思いますが、PTAの皆さん、保護者の皆さんが声を上げた場所には赴いて状況を把握して、とりあえずここは早急に手を打とうというのがどうしてできないのかなと、八街のニュースなんかみると本当に歯がゆいですね。

八街の事故現場も以前から危険性が指摘されていた

そしてもうひとつ、今でも娘に申し訳ないって思っていることがあります。
参観日や運動会などの行事以外で、娘と一緒に学校に行きながら“ここに気をつけろよ”って言ってやったことが何回あっただろうと。本当に数えるほどだったなと。
「お父さん仕事忙しいんだよ、今日もテレビ局行かないといけないし」。今から思うと時間はいっぱいあったはずです。僕はすごく反省しましたけど娘は帰ってこない。だから今の親御さんにはぜひそういう時間を作ってほしいと思います。

僕はこの14年という時をかけて、自分の中に沸き上がる感情をどうやって抑えるか、どうやって対処するかをどうにか学習してきました。日々の生活においては“立ち直ったね”って周囲の皆さんには見られるかもしれませんが、悲しみや、恐怖や、後悔。とにかく全ての気持ちはどんなに時間がたっても薄れることはないということを今、改めて感じています。

車に乗る人が意識変えて 訴え続けた14年

被害を繰り返してほしくないと、風見さんはこの14年間積極的に交通安全の啓発活動に取り組んできました。子どもの命を奪うのは、大人。その大人の意識を変えることこそが、子どもの安全を守る一番の対策なのだと言います。

海外に行くと、車のレーンと歩行者が歩く道の間に街路樹帯が1本通っていて、車と歩行者を切り離す対策が進んでいると感じます。日本は、国土も狭いのですべての通学路でそうした対策を取ることは難しい。そうなると変えられるのは「車」と「車に乗る人」です。自動車メーカーでは歩行者を守るシステムが研究されて自動ブレーキの開発もどんどん進んでいます。車は変わってきています。あとはハンドルを握る僕らの意識です。

今は極力ハンドルを握らないようにしていますが、どうしても月に2回ほど車に乗る機会があります。仕事の時間に遅れそうになったり渋滞がひどかったりすると、やはりちょっとイライラして“こっちに抜けて早く行こう”と思ってしまいます。
そんなときは助手席に置いてある娘の写真に目を落として「5分遅れてもいい、取り返しがつかないことが起こるよりは遅れて怒られたほうがいい」って思うようにしています。

風見さんが車に置いている写真 えみるさん(右)と妹

大事なお子さんがいる方は、ぜひ車の中にお子さんの一番すてきな笑顔の写真を置いてください。僕にとってはもう帰ってこない子どもですが、でもそこに愛する人の笑顔があるって意識すると多少なりとも優しい運転になる気がします。

僕がデビューしたころは一杯飲んでから運転して帰るお父さんがいたようなレベルでした。シートベルトに対する意識も高くありませんでした。それから今までの間に事故でたくさんの方が犠牲になって、令和になった今の意識は昭和の時代とは大きく変わっています。
ただ、変わることにはいつも犠牲が伴います。だから少しでも、少しでも短い時間で変わってほしい。子どもの犠牲が1人も出ないうちに変えられたら幸せだなとつくづく願っています。

 
  • 有賀菜央

    首都圏局 ディレクター

    有賀菜央

    2015年入局。名古屋局、静岡局を経て2019年から首都圏局。 これまでに家族問題や不妊治療に関心を持ち取材

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