WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 通学路の安全対策 “待たずに自分たちでやる” 徳島からの投稿

通学路の安全対策 “待たずに自分たちでやる” 徳島からの投稿

  • 2021年9月10日

千葉県八街市で児童5人が死傷した事故のあと、私たちは通学路の安全について投稿を募り取材を進めています。多くの人が訴えていたのは「行政や警察の対策がなかなか進まない」ということでした。そうした中、NHKに寄せられたあるメールに目がとまりました。
「学校、保護者、行政の担当者が集まって危険箇所を確認し、改善すべき点は最短で1週間で改善されています」
1週間で改善?そのスピード感に驚き、早速電話で連絡を取って秘けつを伺いました。
(「その通学路、安全ですか?」取材班 千葉放送局/記者 福田和郎)

“最短1週間で解決” その秘けつは

通学路に関するこれまでの記事を読んでNHK千葉放送局にメールをくれたのは、なんと徳島市に住む久田勇さん(53歳)です。久田さんは、通学路の危険な場所を早ければ1週間で改善してきたといいます。その方法が参考になればと連絡をくれました。

福田記者

ご連絡ありがとうございます。最短1週間で通学路を改善ということですが、いったいどのような取り組みをしているのですか?

久田さん

目の前でできることから進めていくことを大切にしています。当然、お金のかかる対策も含めてすべての場所で速やかにやってもらうのが理想ですが、いつ事故が起きるかは分からないですよね。行政や学校などと危険な場所について情報を共有し、打てる対策はすぐに打つようにしています。

草刈りに1か月!? だったら自分で

久田さんが対応した問題の通学路がこちら。小学生は徒歩、中学生は自転車で通学し、バイクも通ります。ことし5月の様子をみると、道路脇の草が通学路にはみ出ていて通行の妨げになっていました。

久田さんたちが調べてみると、草が生えている土地は県や市の所有であることがわかりました。早速、担当課に連絡したところ「草刈りの日程調整に1か月ほどかかる」との回答だったといいます。
「1か月も待てない」
久田さんは市などの許可を得たうえで、地域の仲間2人とともに草を刈り取ることにしました。およそ1キロの範囲を4時間半。出たゴミは翌日、県と市が回収しました。

 

自分たちで刈り取ったというのは驚きました。なぜ自分たちでやろうと思ったのですか?

 

当然市や県がやるべきですが、子どもたちが毎日通る場所なので「1か月も待つことはできない」と。だったら、事故が起こる前に自分たちでできる対策を取ろうということになりました。自治体の動きが遅いときには、許可を得て自分たちでやるという選択肢があることが確認できました。私たちの場合は待ちきれなくて自分でやってしまいましたが、道路を管理する自治体に訴えることで、時間はかかっても対応はしてもらえるのではないかと思います。

関係者すべてを巻き込んでスピード解決

草刈りであれば、住民たちだけでもできます。しかし、ガードレールや道路標識など市民だけではできない対策もあります。
そんなときはどうするのか。久田さんは「みんなを巻き込む」ことで解決できるといいます。
その方法を生かしたのが、こちらの現場です。通学路であることを示すグリーンベルトですが、時間の経過で塗装が剥がれてしまっていました。

そこで、久田さんたち地域住民の呼びかけで、ことし3月現地調査が行われました。
参加したのは、県、市、警察、学校、保護者。調査の段階からすべての関係者に参加してもらいました。一緒に調査した結果、市や警察の担当者が「ドライバーに通学路であることが十分伝わらない恐れがある」と判断。新学期が始まる4月上旬には塗り直しが市によって行われました。問題意識を共有したことで、素早い対応につながったのです。

危ない場所には新たな“停止線”を

久田さんたちが改善したもう一つの現場がこちらの交差点です。
細いT字路ですが、子どもと車が出会い頭に衝突するおそれがあり、不安を感じていたところでした。

そこでとった対策が「指導停止線」を引くことでした。
「指導停止線」は安全確認を行うことが好ましい場所に設けられるもので、法的に定められた「停止線」と違って、取り締まりの対象にはなりません。そのため、公安委員会の決定などの手続きを経なくても引くことができます。

手前の破線2本が指導停止線

停止線を新たに引こうとすると時間がかかりますが、指導停止線は市独自の判断で市内4か所に表示することを決め、わずか1か月後には完成しました。
久田さんに改めて聞きました。

 

私たちのもとには、「行政や警察がなかなか動いてくれない」という訴えが多く寄せられているのですが、久田さんの地域はどうしてこんなに早く対策が進むのですか?

 

通学路のことだけではなくて、普段から行政と連携して地域の課題に取り組んでいることが大きいと思います。警察とも一緒に学校で交通安全教室を開いたり、地域の見回りなどの防犯活動を行ったりしています。行政や警察の人たちには「自分の子どもがこの道を歩くなら?」という視点で対策を考えてもらいたいです。まだまだほかの地域から学ぶべきことはあるかもしれませんが、自分たちにできることが形になりつつあるかなと思っています。

地域の結びつきが強い地方ならでは、という部分もあるかもしれませんが、日頃から情報交換や連携の場を作って問題意識を共有していくやり方は他の地域でも役立ちそうです。
徳島市や警察の担当者にも、話を聞いてみました。

市の担当者
「住民の意見がまとまっているため、行政としては対策を進めやすいです。安全対策によって利便性が損なわれる場合もあるので、反対意見があって住民がまとまっていないとなかなかうまくいかないこともあります。対策を進める上では、住民の方々の間である程度の一体感や合意があることが重要だと思います」

徳島中央警察署・漆川交通課長
「徳島県警では、危険箇所をなくすためにも地域住民、道路管理者、学校関係者との合同の通学路点検を実施し、各機関が協力して必要な対策を実施しています。この際、久田さんたちのように地域の声を集めて要望を出してもらうことは効果的な対策のため非常に重要です」

安全支える「不断の見直し」

8月下旬。2学期が始まるのを前に改めて通学路の点検が行われました。
点検を行ったのは、日頃から久田さんとともに活動している小学校のPTA会長、岸上学さん(42歳)です。

この日、通学路の様子はいつもと違っていました。まず見に行ったのは通学路にかかる橋です。台風の後だったため、橋桁に大量の流木がたまっていたのです。このままにしておくとゴミなどが積み重なってさらに橋をふさいでしまったり、子どもたちがのぞき込んで川に落ちたりする恐れがあると判断し、市役所に連絡して撤去してもらうことにしました。

橋の右側にたまっている流木

次に見に行ったのは、新たに住宅を建てている区画です。現在、学区内では2か所で住宅街の建設が進んでいるそうです。岸上さんは工事業者に声をかけ、このあたりの道路が通学路になっていることや登下校の時間帯、まもなく始業式が行われることなどを伝え、工事車両を安全に運行してもらうよう依頼しました。

地域の開発や災害など、常に環境が変わり続ける通学路。日常的に危険性をチェックし続ける必要があり、そのためには見守る目を増やさなければ安全が保てないと岸上さんは考えています。
そこで、PTA会長になった去年6月以降、有志を募って交代で出勤前などに定期的に通学路の点検を行うことにしました。気づいた情報を保護者、学校、市役所などと共有しながら改善に結びつけています。

岸上さん
「PTAの会長になるまでは、通学路がどのような状況になっているかは知りませんでした。しかし、子どもたちの命を預かる身となって、安全に通学をしてもらうためになんとかしようと思うようになりました。見回りをして顔を知ってもらうことで、保護者からも『あそこが危ない』と自然と情報が入ってくるようになっています。小さなことですが、積み重ねて地域全体の意識が向上すればいいなと思っています」

取材後記

お話を聞かせて頂いた徳島市の地域では、住民が主体となって行政を巻き込み、通学路の安全を守ろうとしています。久田さんや岸上さんたちは、子どもたちを守りたいという一心で活動を続けているのがよくわかりました。地域のつながりが弱くなっているといわれる中にあって、住民の力が子どもたちを支えていると感じます。確かに、労力はかかりますが、不断の点検と対策が通学路の安全を向上させているのだと感じました。

 
  • 福田和郎

    千葉放送局 記者

    福田和郎

    2006年入局。社会部などを経て現在千葉県警キャップ。趣味は猫。

ページトップに戻る