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支援者 担当記者と話すヤングケアラー 現場からの報告

  • 2021年9月9日

支援の現場を通じて感じるヤングケアラーの子どもたちの姿、取材で感じる疑問や課題などについて、実際に支援を行っている支援者と、担当記者に話を聞きました。
(8月17日にNHK千葉放送局で開いた「NHK千葉局フォーラム」を元に再構成しました)

<話を聞いた人たち>
・中核地域支援センター長生ひなた 相談員 佐藤億子さん
千葉県内の公立高校で養護教諭として務めたあと、平成27年から支援センターの相談員として働く。養護教諭時代に出会ったヤングケアラーを含め、さまざまな事情を抱えた子どもたちの支援を継続して行いたいと活動を続けている。
・NHKさいたま放送局記者 大西咲…ヤングケアラーを継続的に取材
・NHK報道局国際部記者 山本健人…イギリスのヤングケアラー支援策などを取材
<司会>
新井信宏 NHK千葉放送局アナウンサー

 

取材と支援 2つの現場で見える子どもたちの実態とは
新井アナ

取材と支援、2つの現場で見える現状を聞いていきます。まず大西記者、取材の現場で見えてくるヤングケアラーの子どもたちについて教えてもらえますか。

大西記者

ヤングケアラーと一言で言っても、介護やケアをしている相手が親や祖父母、それにきょうだいなど、対象となる相手の年齢がそれぞれ違うこと、また体の状態も様々ですので、これをすれば解決するといった正解がありません。
また子どもたちは、本当は心に不安を抱えていたり、SOSを出したいと思っていたりする子も多いのですが、学校では気丈に明るくふるまっていることがほとんどで、見つけ出すことが非常に難しい側面もあります。

私たち大人が“見ようとしないと見えない子どもたち”ですので「この子大丈夫かな」という視点で気にかけなければ、支援どころか気づいてすらあげられない子どもたちでもあると感じています。

大西記者

佐藤さん、支援の現場ではどのように見えていますか。

佐藤さん

実際に支援をしている家庭の1つに、障害がある親と4人の子どもたちが暮らしている家庭があります。子どもたちは不登校になっていて「どうして学校に行かないの?」と聞くと、家事をやらないといけないから、ということでした。学校に行かない日が続くと、授業についていけなくなり、さらに学校が嫌になるという悪循環が生まれます。親からも頼りにされ、また子ども自身も、家のことをやることが自分の役割だと捉えているようにも見えました。

その家庭の背景には困窮も1つの問題としてありましたので、まずは生活保護などの制度につなぎ、また福祉制度で利用できるものを導入し、子どもたちには基礎学力を身につけさせるため学習支援も取り入れました。

そして何より、子どもたち自身に、自分の時間が取れず、どこにも持っていきようのない気持ちをどこに吐き出したら良いのかという強いいらだちが見て取れましたので、そういった話を聞いていました。

大西記者

佐藤さんは、子どもだけではなく、家族全体を支援しているというのが1つポイントだと思います。なぜそのように支援されているのでしょうか。

佐藤さん

やはりヤングケアラーの背景には、各家庭の課題が必ずあると思っています。ですからその課題の解決なしには、ヤングケアラーの子どもたちの“荷物”を降ろせないという状況はどこの家庭にもあると思います。
家庭が抱えている課題を少しでも解決、あるいは改善することで、子どもたちの負担を軽減できるのではないかと考えております。

山本記者

お話を伺っていて、ヤングケアラーの背景にある家庭の課題は、切り離せない問題なのかなと改めて感じました。イギリスでは10年ほど前から、ヤングケアラーの親など、家庭を支援することが、ひいてはヤングケアラーの負担を長期的に減らすことにつながると、10年ほど前から考えられています。
親や家族が公的なサービスにつながるようサポートする活動も活発に行われています。そういった支援が日本でも広がっていってほしいと思っています。

新井アナ

子どもたちからすると自分が「ヤングケアラー」と呼ばれる存在だということも分からないでしょうし、その言葉も知らないまま、とにかく家族の介護やケアをしている子どもたちを見て、どのように感じていますか。

佐藤さん

子どもたちは、決して本音を語らないといいますか、自分のつらさを話そうとしません。ほとんどの子どもたちがそうです。それはもしかしたら、家族だから自分が介護やケアをして当たり前という気持ちもあると思います。それは日本古来の考え方だと思うんですね。家族が助け合って生活していくのは当たり前だし、尊いことだと、観念的に私たちは身につけていると思います。そういった理由で話せない、あるいは話す必要がないと思っているのかもしれません。

ですから、自分からは話さないのですが、私はむしろ子どもたち自身が強がっているようなメッセージを発信しているような気がしています。実際に、連携している学校の生徒の話を聞いても、決して弱みを見せていないような感じがします。

大西記者

そうした本音を話せない子どもたちに、佐藤さんたちが支援の中で特に力を入れていることはどのようなことですか。

佐藤さん

私たちは「何か話したい時は、いつでも来てね」と常々声かけしています。ただ最近は、それも難しい状況です。昨今の新型コロナウイルスの影響もありますが、年々相談者が増え、限られたスタッフ、そして相談室などのスペース上の問題でも限界が来ています。

ただ大人の事情で子どもの声が聞けないということは避けたいので、今、子どもに特化した支援の場所を設け「いつでも来てもいいんだよ、いつでも話を聞いてるよ、話していいんだよ」という場所の提供をしたいと思っています。

新井アナ

困ったときに駆け込める場所があるということは、子どもにとってとてもありがたいことだと思いますが、そこまでいかなくとも私たち大人が気づくヒントとして、子どもたちがサインを出しているということはないのでしょうか。

佐藤さん

私たち福祉の支援員、相談員ですら、街を歩く子の中から見つけ出せるかというと難しいんですね。私はこの問題は教育と福祉のそれぞれが連携しあって、子どもたちを見ていくということが必要だと思っています。

実際、支援しているヤングケアラーの子どもたちの多くが、地元の中学校や高校の先生からの相談から始まっています。教育現場だけではなんともしがたい問題を抱えているなと先生に察知してもらい、私たちのような福祉の事業所につないでもらうのはとてもありがたいことだと思っています。それがなければ、多くのヤングケアラーには辿りつかないかなと思っています。

先進地イギリスに日本が学べることは?
新井アナ

ここまで、千葉における現状を伺ってきましたが、ここからは国際部の山本記者に聞きます。なぜイギリスがヤングケアラーの先進地と言われているのでしょうか。

山本記者

イギリスは1990年代頃から、世界的に最も早い時期に家族のケアや介護を担う子どもたちがいるという実態を把握して、こうした子どもたちのための支援を制度化してきたことが背景にあります。
「ヤングケアラー」という言葉もイギリス発祥だと言われています。

具体的にどういった制度を作ったのかというと、法律の中でヤングケアラーは支援を受ける権利がある存在であると明確に定め、地方自治体に対しヤングケアラーを見つけ出して、適切な支援に結びつけることを義務づけています。また現場では、地方自治体から助成金を受けたチャリティー団体(ヤングケアラープロジェクト)が支援を担っていて、イギリス全土に300ほどあると言われています。

新井アナ

先進地として90年代から動き出している中でも、課題というのはあるんでしょうか。

山本記者

やはりイギリスでも「ヤングケアラーを見つけ出す」という点はずっと課題になっていて、現場の支援団体からもよく聞きます。ただ日本が参考にできる点を1つ挙げるとすると、イギリスはヤングケアラーを学校や医療機関で見つけ出して支援団体につなぐという、一連のプロセスを制度化している点です。

例えば、ある大人が病気や事故などで障害をもった際に、その人の家族構成を聞き取り、退院後に、その人の子どもが介護を担う可能性がある場合は、その家族の情報を支援団体につなげて、できるだけヤングケアラーを早期に見つけ出すということをしているのです。

新井アナ

「ヤングケアラーになるかもしれない」ということをある程度先読みして、支援団体につなげていくということなのですね。また日本でもイギリスでも、子どもたちを見つけることが一番の課題だということは一緒のようですね。

ヤングケアラーって“特殊”なの?
新井アナ

子どもたちもヤングケアラーになると思ってなっているわけではなくて、どのような家庭でも起こりうることなのかなと思うのですが大西さんは、どのように考えますか。

大西記者

世間的なイメージではやはり“特殊な子”といいますか、“自分とは違う家の子ども”というイメージがまだまだ強いと思っています。
ただ、父親と母親、そして子どもと、ごく当たり前に暮らしている家庭でも、例えば母親がある日突然、病気になり入院が必要になったり、病気が治ったとしても後遺症が残ったりして、家事や身の回りのことができなくなることは、可能性としてどの家庭にも起こりうることです。

そうした中で、子どもに日常の家事を頼まなければならなくなることもあるかもしれません。ですから、決して特殊なことではないということは、私たちがもっと発信しなければいけないと思っています。

新井アナ

佐藤さんは、大西記者が話したような子どもたちのケースを、現場で関わった経験はありますか。

佐藤さん

家族が病気になったというケースは最近ありました。まさに、お母さんが病気になって家事ができなくなり、高校生の娘さんが家事を担うようになるんですね。やはり娘さんにとっては、お母さんに言われたことはやらないといけないということで、自分の生活のリズムを崩しても家のことをしていました。

その結果、本当にいっぱいいっぱいになって「うちにいると仕事を言いつけられる。本当に嫌なんだ。きょうは家にいたくない」ということで、泣きながら事務所に来たことがありました。

新井アナ

家の手伝いをしていたつもりが、手伝いの範囲がどんどん増えていって、気付いたらそれはもう手伝いではなくなっていて、ヤングケアラーになっていると。本人も自覚が無いまま自分を犠牲にして、家族のために手伝いの範疇を超えたことをせざるをえないということですね。

私たちが目指すもの
新井アナ

ここまでは、佐藤さんには支援の現場で見えたもの、大西記者には取材の現場で見えたもの、山本記者にはイギリスの現場の事例について聞きました。その話を踏まえて課題解決に向けて今後どうしたらいいか、3人それぞれに聞いていきたいと思います。

中核地域支援センター長生ひなた 相談員 佐藤億子さん
「子どもたちは決して本音を吐露しないのですが、少しでも本音を話して、自分の弱みを見せてほしい、つらさを話してほしいと思います。そのことで、今子どもたちが感じている負担感を少しでも減らすことができれば、私たち大人としては、大きな役割を担えるのかなと思っています。
各家庭でヤングケアラーが担っている介護やケアの部分は、使える制度を利用して少しでも減らし、子どもが抱えている負担感というのは、私たち支援者がまずは心を開いてもらい話しを聞くことで、なんとか減らしたいなと思っています」

さいたま放送局記者 大西咲
「子どもたちは、みずから望んでヤングケアラーになったわけではありません。どの子にも、背景にはそうならざるをえなかった事情があります。私たち大人は、その背景が何なのか、考えなければいけません。また最近、『ヤングケアラーの子どもたちはかわいそうだから、そうした存在をなくすべきだ』といったコメントを見かけます。
もちろん、つらい、苦しいと思っている子はいるのですが、一概に“かわいそうな子”と決めつけることもできませんし、すぐに解決できる問題でもありません。
また病気や障害をもった家族が引け目を感じてしまうこともあってはならないことです。そういったことも含めて正しい情報を発信していく必要があると思っています」

報道局国際部記者 山本健人
「先ほどイギリスではヤングケアラーを学校や医療機関で見つけ出して、支援団体につなぐという一連のプロセスが制度化されているという事例を紹介しました。日本でも佐藤さんのように、ヤングケアラーの支援に一生懸命取り組んでいらっしゃる方がいます。
より多くのヤングケアラーがこうした支援につながるためには、学校現場や医療機関、あるいは地域のコミュニティーなどで、ヤングケアラーのSOSに気付く意識を全体的に高め、気付いた時につなげられるネットワークの体制づくりを、長期的に作っていく必要があると感じています」

メディアには何を求める?
新井アナ

最後に、私たちメディアが今後ヤングケアラーにどう向き合っていったらよいのか、佐藤さんの立場から聞かせていただけますか。

佐藤さん

メディアの力というのは非常に大きい一方で、一時的なブームで終わってしまうケースも過去にあったと思っています。制度化となると時間もかかりますし、子どもたちの支援も長い時間が必要です。一人の子の支援が終わっても、その地域にはまた別の子が、ヤングケアラーとして残っていて、支援を継続して行える場所が存在することを私たちは望んでいます。いつまでもつながっていられる、いつまでも居場所が確保される、そういう意味では、継続してこの問題を取り上げていってほしいと思っています。

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。

ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

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