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女性議員の働き方にもモヤモヤ 背景には“昭和な議会”と有権者の意識

都議選から考えるジェンダーギャップ2
  • 2021年8月24日

7月の東京都議会議員選挙で、女性候補特有の中傷やハラスメントを受ける選挙活動の実態を伝えた「都議選からジェンダーギャップを考える」。この記事を取材する中で、もう一つ強く感じた疑問がありました。それは女性議員たちの昼夜を問わない働き方です。
専門家によるとそれは「民間企業に当てはめれば、ありえない働き方」であると同時に、それを作り出しているのは、議会に残る昭和な空気とほかならぬ有権者の私たちだとも指摘します。議員の働き方、そして私たちの意識をアップデートするためにはどうしたいいのでしょうか。
(首都圏局/ディレクター 木村桜子)

“365日が政治活動” 4期目当選の女性議員

今回、杉並区から4期目の当選を果たした小宮あんり都議会議員(自民党)です。バリアフリーや防災に特化したまちづくりや、待機児童などの子育て問題、高齢者支援について取り組んできました。
日々の議員活動について尋ねると、あくまで小宮さん個人の例として1日のタイムスケジュールを教えてくれました。

【小宮あんり都議の一日】
早朝 7時~8時半ごろまで杉並区内の駅前に立ち、有権者にあいさつ
午前中 打ち合わせや会議、住民からの陳情の対応など
午後 都議会の本会議や委員会、会派の会議や来客対応
夜 地域のお祭りや会合などに参加

「議員として選んでもらい活動する以上は、地域の会合などに足を運び、住民の皆さんにさまざまな意見を伺って信頼関係を結ぶのは大切な仕事です。土日や早朝、深夜も関係なく議員として働くのは、大変なことというより“当然の役目”だと理解しています」

都議会の審議は深夜3時~4時ごろまで続くこともあります。小宮議員は独身ですが、「子育てや介護など、働き方に制限のある議員もいるので、議会の日程にゆとりを持たせるなど都議会全体で模索すべきだ」と考えています。
一方でいまの働き方は、選挙の勝敗がすべてを決める政治の世界で、女性議員の立場を確立するためにやむを得ないとも言います。

小宮あんり都議
「私が所属する自民党では男性が多く、しかも同じ選挙区で戦っています。ですから、男性たちと同等の活動をしないと選挙に勝てない可能性があります。女性議員にとって大切なのは、1期やって終わりではなく、2期目も当選し、成果を出すことです。2期目、3期目と議員活動を続けてはじめて、女性議員は自分の働き方を確立できるという部分があります。続けるためには選挙で勝つしかないので、政治活動・選挙活動のために365日手は抜けません。女性議員として、都民のための政策実現に全身全霊で取り組んでいます」

過酷な議員の働き方 政治参加の壁に

こうした働き方は、男性が多くを占めてきた議会では当然のこととされてきました。しかし、そこが変わらなければ、多様な人たちの政治参加は実現できないと専門家は指摘します。女性議員に対する調査や支援活動を行っている、お茶の水女子大学ジェンダー研究所の濵田真里さんです。

濵田さん
「“議員は24時間労働”だといわれ、政治の世界では許されていますが、民間企業の働き方に当てはめればありえない、アウトな働き方です。令和のいま、民間は変わっているのに議会の中になると突然昭和になってしまう。特に子どもや介護など誰かの世話をするケア役割を担っている人が政治参加をすることを阻む仕組み、風習が根強く残っています」

一方で、こうした働き方を下支えしているのが実は有権者であるという現実もあります。

「“Aさんは会合に来てくれるけど、Bさんは子育てがあるからって来てくれないね”と有権者が言ってしまえば、票を稼ぐためには参加しないといけないと議員も思ってしまいます。選挙は不安産業なので“他の議員がやっていること”をやらない選択をするのは難しいです」

妊娠中に初当選 過酷な現実に直面

女性議員の中には、議員活動と出産・子育ての両立を模索している人がいます。
任期中に妊娠、出産、育児を経験しながら2期目の今回、トップ当選を果たしたという足立区選出の後藤なみ都議会議員(都民ファーストの会)です。

2017年に初当選した当時、後藤さんは妊娠6か月でした。
政治活動は未経験。引き継ぐ地盤もありません。夫と話し合い、“おなかの子ども、母体を一番に考えた政治活動を行うこと”を目標に掲げ、議員としてのスタートを切りました。
当選から4か月後の2017年11月に長男を出産。12月に本会議を控えていたことから産後わずか1か月で議員活動を再開しました。

後藤なみ 都議会議員
「産後の1年間は本当につらかったです。仕事を頑張りたい気持ちと、産後で戻らない体調に葛藤を抱える日々でした。有権者の方からは『出産直後に仕事復帰するなんて、子どもがかわいそう』と言われたかと思えば、『議員なのに子どもを産むなんて、仕事をしないつもりか』とも言われました。議員の仕事と子育てに全力で向き合っていても、周囲にはなかなか理解されない状況がつらかったです」

“子育ての時間も大切にしたい” 議員のあり方を模索

そのころの経験を踏まえ、後藤さんは政治活動の軸を「子どもを真ん中に置くこと」に決めたといいます。

◯両立の工夫1 朝夕の時間は子育てに 議員の“当たり前”を見直す

朝の駅前での演説や、夜の会合に出席することで住民の声を聞くことが重要とされてきた議員の活動。しかしこれまでの“議員の当たり前”を見直し、朝晩の時間は子どもと過ごすために使おうと後藤さんは考えました。
住民の要望を聞き取る個別訪問や会合は、子どもが保育園に行っている日中に行うことにしました。夜の会合に参加する場合は、子どもの寝かしつけに間に合う時間に帰宅することもあるといいます。
さらに、TwitterやYouTubeなどネットも積極的に活用。活動の様子を動画などで紹介し、有権者との新しい接触の機会を作っています。こうした工夫を積み重ね、1期目の4年間に集めた住民の声は1万5000件以上。さまざまな政策の立案に生かしました。

◯両立の工夫2 家事・育児の分担は、夫と平等に
実は、後藤さんの夫も議員として活動しています。夫の晃一郎さんは、2019年に足立区議会議員に当選。会社員時代から続けてきた、3足のわらじ体制(区議・妻の秘書・父親)で後藤さんをサポートしています。夫婦で相談の上、対等に家事と育児を分担する仕組みを作り、夫と二人三脚で議員活動と育児の両立を目指しています。

 

 

「女性議員の中には、子育てと仕事の両立が難しく、実家の両親やベビーシッターに育児をお願いしているという方も多くいます。私たちはなるべく自分たち夫婦2人で仕事も育児も担えるようにしようと決めています。それはあとに続く女性議員のことを考えると、持続可能な働き方を作らなければいけないと考えているからです。今後は、子育てと政治活動、どちらも両立する議員のロールモデルを増やさなければならない。そのために、私が頑張らなければと思っています」

 独自の働き方を模索しながら2期目の当選を果たした後藤さん。しかし、子どもをもって働く女性議員への理解は、都議会の中ではまだ進んでいないといいます。

「ベテランの男性議員から、『子どもも小さいんだし、専業主婦になったら?』『女性はいいよなあ、子育てを理由に早く帰れて』と言われたことがあります。確かに子育て中のため、働き方に制約はあります。一方で、“子育ての当事者”だからこそ感じている課題を、政策に反映させることができます。これまで女性議員たちは、仕事か子育てのどちらかを犠牲にしなければ議員としての仕事を続けづらい状況にあったと思います。また現代社会でも同じ状況で葛藤している人はたくさんいます。だからこそ私は仕事も子育ても、どちらも犠牲にすることのない社会を政治の世界から作っていきたいのです」

女性支援を政策に掲げる男性議員がみた “女性議員の働き方”は

女性議員の働き方の問題を少しでも改善していきたいという男性議員もいます。江東区選出の細田いさむ都議会議員(公明党)です。細田さんは子育てとの両立に悩む女性議員の声を聞いてきた経験から、議会の開催時間を変更することに賛成しているといいます。しかしその一方で、働き方すべてを改めることに課題も感じています。

細田いさむ都議
「本会議のオンライン出席を認めてほしいという要望などもあり、議論すべきだと思います。ただしオンライン出席に関する規定を決める際は、表決方法も議案ごとに異なることや、オンライン投票の信頼性やこれまでのルールなど課題もあり、これらについても議論する必要があります。すべてを一度に変えるのは難しいかもしれません。さらに、議員の働き方や選挙の戦い方は、人によって全く違います。“これをやれば解決”という妙案がありません。とても難しい問題だと思います」

難しさを感じながらも、議員として女性たちからの切実な相談や陳情を受けてきた経験から、男性議員だからこそ議会改革のために声をあげ続けたいといいます。

「女性議員が安心して働くための環境整備がいまだ十分に整っていない都議会では、さらに女性活躍・子育て支援・ジェンダー教育に取り組むことが大切だと感じています。“働きやすい都議会にしよう”と男性・女性が一緒になってともに声を上げ続けていくことが必要です。自分自身、議会で多数派とされる中高年世代の男性であるからこそ、女性議員が政治の場で活躍するためにできることはなにか、考えなければならないと感じています」

“女性政治家を増やすためには、議会と有権者の努力が必要”

過去最多の女性候補が当選した都議会議員選挙。そこから女性の政治参加の現状を見てきましたが、選挙活動中に受けるさまざまなハラスメントや、妊娠・出産とおよそ両立できない働き方に、立ちはだかる壁の高さを改めて感じました。

それでも、ジェンダーと政治について研究している上智大学の三浦まり教授は、女性議員が増えた今回の都議選を、いままでの「男性中心の政治」を変えるチャンスだと捉えています。

三浦さん
「議会には『政治は男性のものだ』という意識がまだまだ強く残っています。そういった考えを持つ男性にとって、政治の世界に飛び込んでくる女性は“異物”であり、男性政治に物申す人たちを排除するために行われるのがハラスメントです。さらに、都議会をはじめとした多くの地方議会には、ワークライフバランスを気にしない人たちが作ったルールがいまだに残っています。
今回、都議会では女性議員の割合が3割を超えたからこそ、女性たちが率先して声を上げ、古い仕組みを変えていってほしいです。多様性の観点から、すべての人が無理なく参加できるような議会の日程を議員自体が決めるべきです」

また、女性が政治の世界で活躍するためには有権者である私たちのアクションこそが重要だと三浦さんは指摘します。

「いま、各政党も女性を増やそうと動いています。しかし、“従来の政治”を守りたい人々は“わきまえる女性”、つまりこれまでのやり方を尊重してくれる女性を探しているのです。有権者は見る目をもって、女性の有権者の声を届けてくれる女性候補者を選び、意思決定の場に入れていくことが大切です。男性中心の発想を転換していく、飲み会にいってなんぼとかいう今の権力構造の人たちではなく、自分たちの声を届けてくれそうな人を選ぶという投票行動が民主主義の実践のひとつであり、その先に女性議員も増えてくると思います」

  • 木村桜子

    首都圏局ディレクター

    木村桜子

    2012年入局。大阪局、神戸局などを経て2020年から首都圏局。保育や教育、ジェンダーの問題に関心を持ち取材中。

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