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海老名のモスク 在留外国人にコロナワクチン接種 その狙いは?

  • 2021年8月13日

新型コロナウイルスの急速な拡大が続いています。若者や在留外国人などあらゆる人たちにワクチンが行き届くようにするにはどうすればいいのか、各地で試行錯誤が続いています。こうしたなか、神奈川県海老名市では、外国人が多く集まる「モスク」で、地域の外国人向けの新型コロナワクチンの集団接種を7月から始めました。全国でも珍しいこの取り組みの背景と狙いについて取材しました。
(横浜放送局/記者 岡肇)

ワクチン接種会場はモスク

海老名市にあるモスクで、7月31日、新型コロナウイルスのワクチンの集団接種が始まりました。地域に住む外国人54人が接種を受けました。

その様子を見守るのは、モスクのリーダーの1人、スリランカ出身のシディック・ヌフマンさん(53)です。モスクを接種会場にすることを決めた海老名市との調整役を務めました。

シディックさん
「みんな喜んでいます。来た人の多くは、ことばの問題で分からないことばかりだったみたいで、とても助かっています」

在留外国人もコロナ禍

新型コロナの影響は、日本に暮らす外国人にも及んでいます。シディックさんも去年12月に新型コロナウィルスに感染しました。発熱や味覚異常に苦しみ、家族全員にも感染が広がりました。

さらに、ことし3月には親友のファイザル・ファリードさん(享年52)を新型コロナで亡くしました。同じ故郷出身のファイザルさんは、日本に来てからも長年支え合った仲だといいます。ファイザルさんが亡くなったとき、感染予防のため、遺体をモスクの施設の中に入れることはできませんでした。

ファイザルさんの遺体は透明のシートにくるまれたまま棺に入れられ、モスクの外の駐車場に置かれたといいます。

遺体が置かれた駐車場

シディックさん
「ファイザルさんは、新しく日本に来る人をいろんなことで助けてあげていて、みんなから頼られるとても優しい人でした。本当は、モスクの中で遺体をきれいに拭いて、白い服を着せてあげたかったのですが、新型コロナのせいで、透明な袋に入れられたまま、駐車場に置いてお祈りをしました。とてもつらく、今でも彼がいなくなったことを忘れることができません」

シディックさんが海老名市との調整役を引き受けたのも、自分と同じような思いをする人が、これ以上出てほしくないという強い思いがあったからです。

ことばや文化の違いを乗り越える

モスクでの集団接種を控えた7月28日、海老名市の職員と地元の医師会の医師らがシディックさんのもとを訪れました。集団接種が滞りなく行えるよう、細かな部分まで打ち合わせをしました。シディックさんは海老名市の担当者らに、言語面でもサポートできることを伝えました。

シディックさん
「医師の先生が問診するときは、ことばが分かる人についてもらいます。日本語、ウルドゥー語、タミル語、ベンガル語、英語が話せる人がいます」

市の担当者からは文化の違いから配慮すべきことがないか確認する質問も相次ぎました。

市の担当者

男性と女性が同じ日に接種を行っても問題はないですか。接種のときに腕をまくってもらうことになると思いますが。

シディックさん

大丈夫です。でも、女性が肌を隠せるように、カーテンで仕切りを作りましょう。

 

海老名市からの依頼を受けて、モスクでは予約のとりまとめも行っています。シディックさんのもとには、日本語に不安がある外国人からひっきりなしに相談が寄せられています。

モスクでの集団接種に参加できるのは、モスク周辺に住む外国人に限られていますが、希望者はすでに500人を超えています。なかにはモスクに通う人以外からも予約が入っているといいます。

シディックさん
「海老名市の人だけでなく、千葉や群馬、遠いところだと愛知からも問い合わせが来ています。夜の12時にまで電話がかかってくることもありました。海老名市に住むチェコの人とか、国や宗教は関係なく電話がかかってきて、名前や住所が送られてきます。この地域に住んでいる人たちは誰でもワクチンを打てるようにしたいです」

接種を受けた外国人は

集団接種の初日。事前の問診では、通訳を介すなどして様々な言語が飛び交い、日本語が不自由な外国人でも安心して、ワクチン接種できました。

医師

Have you had an allergic reaction before?(これまでにアレルギー症状はありましたか?)

外国人

No.(ないです)

 

接種を受けた外国人
「モスクはアクセスしやすい、みんなここで接種できてよかった」
「ことばの問題もあるので、モスクで接種できることは便利で、安心でした」

海老名市の狙いは

このモスクを利用する人は隣接する綾瀬市や座間市なども含めるとおよそ1200人。海老名市では今後もモスクと連携して、毎週土曜日に地域に暮らす外国人へのワクチン接種を進める方針です。
ことばの壁などでワクチンが行き届かない人たちの集団ができると、結果的に集団免疫が作れないからです。
こうした取り組みを進めることで、市民や地域全体を新型コロナから守る感染対策につながると海老名市では考えています。

海老名市 内野優市長
「ワクチン不足で市民の多くがまだ接種できておらず、今回の取り組みに批判的な意見もあると思っています。しかし、外国人であっても海老名に住んでいたり、出入りしていたりすれば、生活圏はみんないっしょです。日本人にだけ接種して、外国人に接種しなかったら、集団免疫は高まりません。接種率を上げるためにも、こうした機会を設けることは大事ですし、いっしょに街を築いているという共生の意識は必要だと思っています」

取材後記

新型コロナの感染が急拡大するなか、感染対策の切り札とされているのがワクチンです。しかし、その接種率は地域によって異なり、まだ接種ができていない人の中には不安を抱えている人も少なくありません。こうしたなか、どういった人たちから接種を進めるべきなのか、さまざまな意見が出ています。一方で、誰も取りこぼさず、ワクチンが行き届かない人たちの集団を作らないことこそ地域全体の感染対策につながるのだという海老名市の考え方は他の自治体にとっても参考になるのではないかと思いました。

  • 岡 肇

    横浜放送局 記者

    岡 肇

    平成24年入局。岐阜局、秋田局を経て30年から現職。県央地域や相模原障害者殺傷事件を担当。

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