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ヤングケアラー 国の支援策 どう見た?(3)専門家は

  • 2021年7月14日

国はヤングケアラーをめぐり、ことし5月、学校や地域などで早期に把握し、支援につなげる体制を強化することなどを盛り込んだ支援策を報告書にまとめました。この支援策について、ヤングケアラーを長年研究している専門家は、どのように受け止めているのか、聞いてみました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

長年支援訴えてきた専門家は

今回、話を聞かせてもらったのは、大阪歯科大学医療保健学部の濱島淑恵教授です。濱島教授は、国や自治体が調査を行う前から、独自にヤングケアラーについての実態調査を行うなど、長年にわたり研究に取り組み、支援の必要性を訴えてきました。

支援策は大きな一歩 でも…

大西記者

今回、国の支援策の大枠が決まったことについて、専門家の1人としてどのように受け止めていますか。

濱島教授

非常に大きな一歩だと思います。
ヤングケアラーをサポートしていくためには大きく2つの視点が必要です。
(1)子どもたちの存在に気付く
(2)見つけた子どもを継続的に支援

今回の支援策では、教育と福祉の双方の関係者に研修を行い、正しい知識を身につけてもらうなど、当事者の子どもを見つける点においては効果的だと思います。ただ、継続的にどう支援するかという視点は、残念ながらありません。だから、今回の支援策は「ゴール」ではなく「スタートライン」に立ったと見るべきです。

寄り添う「伴走型」の支援を

 

国がまとめたのは「支援策」ですが、支援するという視点が欠けているというのはどういう意味でしょうか?

 

「継続的に支援する」という視点がないからです。今回の支援策では、国が、学校にスクールソーシャルワーカーやカウンセラーを配置できるよう支援するとしています。
しかし、子どもたちは、小学校、中学校、高校と年齢によって所属する場所が変わります。学校単位だけで支援を考えると、所属する場所が変わるたびに支援者も変わることになってしまいます。また、学校に通えない子どもたちが、支援の対象から漏れてしまう可能性もあります。

 

だから、支援者が度々変わることは極力避け、こま切れの支援ではなく、常に寄り添って、一緒に走ってくれるような「伴走型」の支援のあり方も、今後検討してほしい点です。

 

継続的に支援に当たり、子どもたちと信頼関係を結ぶ上で、大切にしなければならない視点はありますか?

 

子どもたちが、介護やケアから「いかに離れることができるか」という視点も大事ですが、何が何でも介護やケアを「させてはいけない」ということでもありません。家庭によっては、その子どもが担う介護やケアがどうしても必要だというケースもあります。
介護やケアをしながらも学校に通えたり、自分の将来について考えたりすることができる環境を作るためには、どうしたらいいのかということを考えていく必要があると思います。

法律に裏付けられた制度に

 

継続的な支援にするために、今後必要なことはありますか?

 

まず何より、ヤングケアラーの支援を法律に裏付けられた制度にしていけるかが、とても重要です。制度的な裏付けが無い中で、自治体ごとにやってくれと言われても、自治体側も困ってしまうわけです。制度的な裏付けがあれば、自治体も十分な予算を付けて動いていけるようになります。
また、それが実現できれば、責任の所在も明確になり、毎年、取り組みを安定的かつ継続的に行っていけるようになるのです。

 

過去には、子どもの貧困や高齢者福祉なども全て、制度化されることで全国に広まりました。国が本当にヤングケアラーへの支援を考えているのであれば、法制化を急いでほしいと思います。

 

法制化すると、問題は解決に向かうのでしょうか?

 

ヤングケアラー問題の根本の原因は、家族による介護を前提とした今の社会福祉制度の矛盾にあります。家族による介護を前提としているから、家族が介護やケアをある程度やらないと生活ができない、精神疾患の人たちに医療や福祉のサービスが届かないといった現状があります。

 

今の制度を見直さずして、いくらヤングケアラーの支援に力を入れても、子どもたちは、大切に思う家族の介護やケアに関わることになります。ヤングケアラーの抱える問題を本当に解決しようと思うならば、その背景にある社会福祉制度の問題にまでメスを入れる必要があるのです。

効果検証し 継続的な改善を

 

支援策は今後、どのように運用していくことが望ましいでしょうか?

 

支援を行った結果、介護やケアを担っている子どもたちが減っているのか、そもそもの介護やケアを担う要因が解消されているのか、といった「支援の効果」も検証できる体制を国や自治体には実現してほしいと思います。
そうならないと、研修会を実施しました、理解者が増えました、ヤングケアラーがいたら一生懸命支援していきます、ということで終わってしまう可能性もあります。これでは、ヤングケアラーは増え続けることも十分ありえます。
自分たちがやっている支援が、本当に効果があるのかというところまで検証し、足りないところがあれば、改善していってほしいと思います。

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

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  • 大西咲

    さいたま放送局 記者

    大西咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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