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知的障害あっても都議選に “できると信じて一票を”

  • 2021年7月2日

東京都議会議員選挙は、7月4日、投票が行われます。東京・狛江市では、知的障害がある人にも投票に行ってもらおうという取り組みがすすめられています。
「選挙とは何か」を考えてもらうことで、気持ちに変化が生まれてきた人もいます。
(首都圏局/記者 直井良介)

イラストでわかりやすく 知的障害・発達障害の人向けの勉強会

先月20日、東京都議会議員選挙を前に、「選挙とは何か」を学ぶ勉強会が開かれました。対象は知的障害や発達障害がある人です。10代から50代までの5人が参加し授業を受けました。

講師
「学校や図書館などみなさんがよく使う場所は、みなさんから集めた税金で運営されています。こうした税金の使いみちを決めるのが、政治家です。自分にとって暮らしやすい世の中になるように、立候補する人の考えをよく聞いて投票に行きましょう」

授業はイラストが中心で、選挙の意義や仕組みを解説していきます。
障害の影響で集中が長続きしない人もいる中、始めから終わりまで、参加者の集中が切れる様子は見られず、真剣な表情で聞いていました。

軽度の知的障害がある男性

とてもよかったです。4日に投票に行きたいと思いました。

 

わかりやすい主権者教育の手引き

講師を務めたのは、ふだん、市の社会福祉協議会で障害者支援に関わっている加藤智美さん。こうした授業は初めての経験だったといいます。

授業の参考にしたのが、狛江市が作った手引き書「わかりやすい主権者教育の手引き」。
学校の教師や、加藤さんのような講師に向けて、狛江市が、専門家や市内の親の会や福祉作業所などとともに、去年発行しました。

「給食のメニューを決める模擬投票をする。多数決で決まる仕組みを知る」

難しい選挙の仕組みを身近なものに置き換えるなどして、知的障害者にとって難しい選挙の仕組みなどをやさしく教えるための方法が、75ページにわたって詳しく解説されています。

“投票に正解はない” 当事者の親の思い

狛江市とともに発行に関わった1人、森井道子さん。障害者が選挙に参加することに強い思いを持っています。

森井さんの娘、彩子さんは、重度の知的障害があります。音楽と読書が大好きです。

森井さん

好きなページをボロボロになるまで読むんです。言葉は話せませんが、好き嫌いの意思をはっきりと感じています。

5年前の参院選

森井さんは、事前に候補者の写真を一緒に見て彩子さんに意思を確認し、毎回、投票にいっています。
周囲に支えられながら毎回投票していますが、投票する彩子さんをみていた人に、通りすがりに一度だけ、「無理だな」とつぶやかれたことがあったといいます。

「知的障害者に正しい判断ができるのだろうか」と、判断能力を疑う声もまだまだあるといいます。

森井道子さん
「私たちだって投票したあとに、『あなたの1票は正しいですか?』なんて絶対聞かれないのに、なぜ障害があるからといって、最初からできないって決めつけられたり、『それって本当に大丈夫?』って心配されなきゃいけないのでしょうか。この人を選んだっていうその人の選択が正しいので、それが正解なので、ほかの人と比べる必要はないと思います」

初めての選挙に挑戦 尾端紳さん

勉強会で、ひときわ真剣に授業を受けていた尾端紳さん(19)。軽度の知的障害と発達障害があります。これまで選挙に行ったことはありませんでしたが、勉強会がきっかけで、都議会議員選挙に行きたいという意思を示しました。

尾端紳さん

これまでは、選挙が身近ではありませんでしたが、勉強会で身近になりました。

父・剛さん

障害の影響で、毎日、事前に決めたことをそのとおりにこなすことが心の平穏を保つ上で重要です。予定と違うことがあるとパニックを起こすこともあるので、誘ってきませんでした。自ら選挙に行くと聞いて驚きました。

この日、紳さんが投票当日にパニックを起こさないように、何時に投票所に行くかを決めました。そこで、剛さんは驚きました。

「誰に投票するか決めてる?」という記者の問いに対し、「○○さん!」と答えた紳さん。
両親が知らないうちに候補者の主張を聞き、投票先を決めていたのです。

新型コロナの感染拡大以降、大好きなカラオケや友人と会うことをやめていた紳さんは、候補者のコロナ対策を聞いたことが決め手となったと話します。

投票することの意味に納得できたことが初めて選挙に行く気持ちにつながったのだと両親は考えています。

父・剛さん

私たちが思っている以上に、選挙のことを理解していて驚きました。これまで、社会に支えてもらうことが多かったので、自分で選択して、社会参加してくれることは率直にうれしいです。

母・有子さん

当事者の親として、切実な思いがある人はいっぱいいると思います。弱い立場ではありますから、そこは考えながら、本人が投票に行くのはすごく大事ですね

各自治体の選挙管理委員会には、障害がある人の投票を支援するさまざまな制度があります。スムーズに投票をするためにも、自治体の選挙管理委員会に問い合わせてみてください。

  • 直井良介

    首都圏局 記者

    直井良介

    2010年入局。山形局・水戸局などをへて首都圏局。災害などを担当

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