WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 生理中のプール授業 先生・教育委員会に聞いてみた

生理中のプール授業 先生・教育委員会に聞いてみた

  • 2021年6月30日

先日、首都圏ナビに掲載した「生理中のプール授業を考える」。
記事を読んだ方からは、「なぜ生理で見学しているのに運動するよう指導をするのか?」「先生たちの生理に対する考えは?」など、学校の指導方針について知りたいという声も寄せられました。
現場の先生や教育委員会は、生理中のプール指導や生徒のケアについてどう考えているのか、話を聞きました。  
(首都圏局/ディレクター 木村桜子)

現場の教師 “生徒の生理 考える機会ない”

「勤務先の学校では、生理中のプール授業は見学させると聞いています。でも、これまでの教育活動の中で、生理について深く考えたことはありませんでした」

そう語るのは、さいたま市内の中学校に勤務する佐々木勇太先生(仮名)です。佐々木先生は、生徒の生活指導も担当していますが、生理に関する問題は、ほとんど扱ったことがないといいます。

佐々木先生(仮名)
「教員同士、生徒の生理について話すのは“宿泊行事と生理が重なった女子生徒がいたら、お風呂の時間を別に設けてあげよう”くらいです。生理中のプールについては、見学時にどんな指導が行われているか、自分は体育科ではないので把握していません。学校生活の中での生理のトラブルについても、対処法などについて教員同士で話し合ったことはありません。関心がある教員も少ないのではないでしょうか」

さらに佐々木先生が課題だと感じているのは、生徒に生理をどう教えるかについてです。
生理の仕組みについては、保健体育・家庭科などの授業で教える機会はあるものの、月経痛や月経不順などの症状については触れられていないといいます。
佐々木先生は“学習指導要領や教科書に載っていない内容を教えることがタブー化している”と感じる一方で、自分自身の知識の不十分さについても反省するところがあると話します。

佐々木先生(仮名)
「自分も恥ずかしながら、学生のころから性について勉強する機会が少なかったように思います。実際に女性と交際して初めて知ったこともある、という状態でした。性教育については、「教科書に載っていないから教えられない」という時代ではない。生理の問題を学校で考えてこなかったこと自体、問題だと感じています」

“私も『生理です』と言えない” 女性教師も苦労

さいたま市内の小学校で4年生のクラス担任をしている安藤早紀先生(仮名)です。

安藤先生の学校でも、児童の生理の問題について話し合われたことはないといいます。
受け持つクラスでは、2~3人の女子児童が初潮を迎えていて、プール授業と重なった場合は、見学させてあげたいと考えています。
一方で生理中のプール授業は、女性教師にとっても負担が大きいといいます。

安藤先生(仮名)
「うちの学校では、プール授業は4人の教員で指導する決まりです。そのうち2人は、子どもの安全を守るために水着を着てプールに入って指導しなければなりません。私自身、経血の量が多くて、生理痛もひどいことが多いです。もし自分の生理とプール授業が重なってしまったら、タンポンをつけ、痛み止めを飲んでプールに入るしかありません。男性の先生やふだん関わりの少ない先生には、“生理だから代わってください”とは言いづらいです」

そのうえで安藤先生は、教員も児童も生理について学ぶ場が必要だと話します。

安藤先生(仮名)
「“生理休暇が取れない”など社会で生理の問題を深刻に受け止めてもらえない理由は、学校できちんと教えていないからではないかと思っています。大学の教職課程でも“子どもの生理の対処法”について学んだことはありません。男の先生から“生理の問題をどう扱っていいかわからない”という戸惑いの声も聞いたことがあります。男性、女性、教員児童関係なく、“こういう症状がある”、“気になったら病院へ”など学ぶことで、もっと理解が進むのではないでしょうか」

生理中のプール指導 1都3県の教育委員会の見解は?

生理中のプール授業の指導について、学習指導要領(中学・高校)には、“体調を考慮すべき”とはあるものの、「月経」や「生理」に関する記述はありません。
さらに、国にプール授業の指導指針を尋ねたところ「月経中に泳がせるかどうかは、各自治体の教育委員会・学校に任せている」という回答でした。

そこで、1都3県の教育委員会に、自治体独自の指導方針などがあるか取材しました。
多くの自治体が「独自の指針はなく、指導や成績のつけ方は学校現場に任せている」という回答でした。そのうえで、見学指導・補講などのあり方についても聞きました。

●東京都教育委員会の担当者
「プール授業は、月経中であれば見学させる方針だと聞いています。月経中で見学した分の実技補講を行うかどうかは、子どもたちの状況に合わせて教員が必要と判断したのであれば、都から意見することはありません。また、水泳の時間に泳げなかったからといって、その学期の体育の成績が下がるということはありません」

●さいたま市教育委員会(小学校・中学校)の担当者
「市内の公立小・中学校には、日本学校保健会の『学校における水泳プールの保健衛生管理(平成28年改訂)』を指針として指導するように通達しています。『月経中のときは、清潔を保つなど衛生面に十分注意し、痛みや出血量が多い重い月経(月経困難症)の時は水泳を休ませることも考慮すべき』という内容です。見学させるかどうかなどの判断は、各学校・教師にゆだねられています」

●千葉県教育委員会の担当者
「月経中なら体力づくりとして軽い運動をさせることも判断としてあるのではないかと思います。もちろん、“生理痛がある”“体調が悪い”などの訴えがある場合は、無理な運動はさせず、配慮するべきだと思います」

●神奈川県教育委員会(高等学校)の担当者
「生徒からの見学の申し出があったにもかかわらず、プールへの入水を指導するような事例は聞いたことがありません。別の日に水泳の実技の時間を設けることや、レポート提出など補習の実施方法については、学校ごとに判断してもらっています」

●横浜市教育委員会(小学校・中学校)の担当者
「休みの日や放課後に水泳実技の補講日を設けて指導することは、教員側にとっても負担があります。それでも生徒のために時間を割いて指導をするということは、個人的には悪いことだとは思っていません」

また「『思春期の子どもの月経について、教員が学ぶ研修などを設けているか』尋ねたところ、いずれの自治体も「特に設けていない」、「保健体育などの性教育研修の場では、生理について取り上げていることがあるかもしれない」という回答でした。

思春期の生理 軽く扱わないで

取材した結果、子どもの生理にどう対応するかは、ほぼ学校現場に委ねられているようです。また、教師が生理についての知識を得る機会は積極的には設けられていないと感じました。

こうした状況がある一方で、子どもの生理は決して軽く扱ってよいものではないことが分かっています。
2016年9月に千葉県内の中学校と高校の女子生徒、およそ600人を対象に行ったアンケートでは「勉強や運動に支障のある月経痛がある」と答えた生徒はおよそ7割にのぼっています。

さらに、月経痛があると答えた生徒のうち43%が「我慢している」、35%が「薬を飲んで我慢している」と回答。「1日寝込む」と答えた生徒も2%いるという結果でした。

アンケートを行ったNPO法人「日本子宮内膜症啓発会議」の堀内吉久事務局長によると、
日常生活に支障をきたす月経は「月経困難症」と呼ばれ、子宮内膜症などの病気の原因となっている可能性があるといいます。海外の研究では、月経痛のある女性が、将来子宮内膜症を発症する確率は、月経痛のない女性の2.6倍であるという報告もあります。
また、プールに入ること自体は医学的に問題が無いものの、月経痛や過多月経で苦しんでいる生徒に無理をさせるのはよくないといいます。
さらに堀内さんは、もう一つ重要な問題があると指摘します。

日本子宮内膜症啓発会議 堀内事務局長
「考えなければならないのは心の問題です。プールから上がる時に経血がもれることがあります。経血を人に見られることは思春期の女の子にとってトラウマになりかねない経験です。月経の問題を「みんなあるんだから仕方ない」と過少評価してほしくありません。思春期の子どもたちが月経中どんな症状に苦しみ、不安を感じているのか、学校・教員側が積極的に月経について学んでほしいです。“月経中にプールに入れ”“見学している間も運動を”などと指導するよりも、学校内で教諭同士が連携し“月経の症状に悩みがあれば、病院へ行って診てもらったら?”と教える方が先なのではないでしょうか」

前回の記事には、40代・50代の方々からも「プール授業を生理くらいで休むなと言われた」「生理痛のつらさを理解してもらえず悲しかった」などの体験談が寄せられました。

長い年月がたっても、いまだに多くの人の心に傷として残っていることに胸が痛みました。
生理のことで困っていても、学校現場で対応してもらえないことや、プール授業などで運動を強制されることは、子どもたちにとって非常につらいことではないでしょうか。
教育現場にこそ、子どもたちとともに生理について考え、正しい知識を教える機会を設けてほしいと思います。

引き続き、皆さんからのご意見をお待ちしています。

投稿はこちらから

  • 木村桜子

    首都圏局 ディレクター

    木村桜子

    2012年入局。大阪局、神戸局などを経て2020年から首都圏局。保育や教育、ジェンダーの問題に関心を持ち取材中。

ページトップに戻る