国はヤングケアラーをめぐり、5月、学校や地域などで早期に把握して支援につなげる体制を強化することなどを盛り込んだ支援策を報告書にまとめました。この支援策について、元ヤングケアラーで、現在はヤングケアラーの支援に当たっている女性はどのように受け止めているか、聞いてみました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)
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今回話を聞かせてもらったのは、母親が精神疾患を患っていたため、小学校低学年の頃から母親の相談相手になるなど心のケアを担うとともに、食事や掃除といった家事もしてきた、チアキさんです。現在は、ヤングケアラー向けの情報発信を行うNPO法人「ぷるすあるは」で活動を続けています。記事の冒頭のイラストはチアキさんが描いたものです。
ヤングケアラーを支援する立場として、今回、国の支援策の大枠が決まったことについて、どう感じましたか?
やっと子どもたちに注目が当たってよかったと思いました。これまで子どもたちにヤングケアラーという「名前」が付かず、光が当たってこなかったので、子どもたちの支援に注目が当たり、本当にありがたいことだと思います。
一方で、子どもたちの中には、介護やケアをしているという自覚がないケースも多く、そういう子どもたちが取りこぼされないか、心配しています。
支援策では、まずヤングケアラーについて正しい理解を持ってもらおうと、子どもたちと関わる教育と福祉の両方の分野の関係者に研修を行うことにしています。
その点は、今までにない大きな変化だと思っています。私たちのような関係者の間では、ヤングケアラーということばがある意味ブームになっていますが、十分にアンテナを張れていない教員や福祉関係者もいると思います。
そもそもヤングケアラーという視点がなければ、そうした子どもたちにつながることもできませんから、まずヤングケアラーがいるということを知り、日頃からつながれるように努めることが最も大切です。そういう意味で研修は有効で、多くの人が支援のスタートラインに立てるようになるのではないかと思います。
研修を行うにあたって、重要な視点はどんな点でしょうか?
ヤングケアラーは、“家族の問題”と捉えられがちです。日本では、家族の問題は家庭の中だけで、何とかしようという文化があると思います。また、家族が介護をすることが、美化されがちな風潮もあると思います。もちろん、家族が介護することが悪いわけではありませんが、子どもが負担だと感じるほどの役割を担わせることはおかしい、時代の流れに合っていないことなんだというアプローチも必要だと感じています。そういう環境を作ることで、子どもたちも相談しやすくなると思います。
国は、保護者と学校、教育と福祉と連携して、子どもたちの抱える問題の解決を目指すスクールソーシャルワーカーなどの配置を支援して、相談体制を強化することも打ち出しました。
現状、スクールソーシャルワーカーは各学校に1人いるわけではなく、複数の学校を掛け持ちしているケースが多いです。ヤングケアラーの支援は、子どもたち、大人たちのどちらか一方だけを支援したのでは、問題は解決しません。
家庭をまるごと支援するという意味で、各学校にできるだけスクールソーシャルワーカーといった専門家を1人配置し、国が財政面を支援する取り組みはとても重要です。そうすることで、担任をはじめとする教員も心強いでしょうし、子どもたちにとっても、毎日会える人の方が話しやすいと思います。すべての学校に配置できない場合でも、スクールソーシャルワーカーがより多くの日数、各学校で活動できるようになってほしいと思います。
また、ヤングケアラーのいる家庭には、子どもが介護やケアを担うことを前提とせず、在宅向けの介護サービスを提供することを十分に検討するよう、国は自治体などに周知するとしています。
「周知する」ということで、どのくらい効果があるのか、うまく機能するのでしょうか。介護サービスを必要とする大人がサポートを受けることが可能になるのであれば、周知はもちろん必要です。ただ、周知をした上で、必要な介護サービスにしっかりとつなげ、それによって子どもたちが自分の時間を持てるようになり、子どもたちに余裕が出る、そこまでのパッケージでの支援が必要だと思います。
支援をする上で、子どもたちへ必要な配慮はありますか?
自分の体験も踏まえると、介護やケアをしていることを頭ごなしに否定しないでほしいと思っています。例えば「もうそんなことしなくていいよ」といった声かけは、子どもたちがしている介護やケアを暗に否定してしまい、自分たちのこれまでの頑張りは何だったのかと、疑問を感じることにつながりかねません。また「偉いね」「良い子だね」ということばも避けてほしいと思います。
決して悪気があるわけではないでしょうし、大人からすれば最大限のねぎらいのことばだと思います。私も「病気や障害のある家に生まれると良い子に育つよ、優しい子に育つよ」と何度も言われました。
ただ、当時はそうやって決めつけないでほしいと感じたのと、もっと「良い子」でいなければならないと思って弱音が吐けなっていた面もありました。大人として言いたくなる気持ちはわかりますが、そこは我慢してほしいと思っています。
支援が広がっていくことで、どんな社会になっていってほしいと思いますか?
今のヤングケアラーについての報道や支援の流れが、一時的なブームにならないことは、最低限望んでいることです。一時的なものではなく、持続的に関心を持ち続ける、取り組み続けるということを、いかに大人たちが子どもたちに示すことができるかが、私たち大人に課せられた課題だと思います。
病気や障害のある人たちは、いつの時代にも一定数いて、普遍的な問題です。ですから、ヤングケアラーの子どもたちは、すぐには減らないと思います。ただ、すぐに支援の効果が現れなくても、支援策は継続してほしいです。子どもに関わる様々な立場の人を巻き込みながら、支援を継続していってもらうことが、一番の望みです。
NPO法人ぷるすあるは「ヤングケアラーのみなさんへ」のページhttps://kidsinfost.net/2020/09/19/carer-2/
NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
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