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コロナのワクチン接種で注目の“練馬区モデル” 現場担う医師は

  • 2021年3月5日

新型コロナのワクチン接種で注目を集めているのが「練馬区モデル」と呼ばれる方式です。そもそも練馬区モデルとはなにか?これから始まる一般の人へのワクチン接種に向けて進められている準備の舞台裏から、現場の医師が感じている課題、そして患者への思いを取材しました。    
(首都圏局/記者 氏家寛子・ディレクター 梅本肇)

“早い 近い 安心”の「練馬区モデル」

74万人が暮らす練馬区で、想定している高齢者の接種は6週間でのべ21万回。1週間で3万5000回に上ります。この膨大なワクチン接種を確実にこなすため、接種会場のメインに据えたのが、区内のおよそ250の診療所です。

キャッチフレーズは、“早い 近い 安心”

練馬区資料より

医師や看護師の確保が簡単ではない中、公民館などで大規模に行う集団接種だけでなく、かかりつけ医も対応することで「早く」接種できる態勢を確保。「近く」の診療所ならば、電車やバスに乗って移動する必要もなく、感染リスクも抑えられると、区では考えたといいます。
さらに、かかりつけ医ならば従来のインフルエンザなどと同じ流れで接種の予約ができ、通い慣れている医師に診てもらうことは「安心」につながるのではないかといいます。
このように診療所での個別接種をメインに、集団接種会場がカバーするという方法は「練馬区モデル」と名づけられ、国も先行事例として注目しているのです。

区では4か所の拠点となる施設に(写真中の黄色の印)ディープフリーザーを設置し、それぞれの診療所に必要な数のワクチンを移送する計画です。

ワクチン接種を担う診療所は

こうした練馬区モデルのスムーズな接種の鍵を握るのが、診療所の協力です。
練馬区でワクチンの接種を予定している診療所のひとつ、「新田クリニック」。新田泰三院長は、ふだん患者を診ている「かりつけ医」がワクチンを接種することで、その患者にあったきめ細やかな対応をすることができると考えています。

新田泰三医師
「(カルテを見ながら)たとえばこの方は、メインは糖尿病があります。打ったあとは、少し安静にして長めの経過観察が必要かなと思っています。ここであればカルテもあるし、どういう病気にかかっているかがわかりますから、その方には特に重点的に気をつけようという細かい配慮ができると思います」

“いつもの先生から接種を受けたい” 

新田さんは当初、自分の診療所が接種の会場になることに前向きではなかったと言います。今回のワクチンはこれまで扱ったことがないほどデリケートで取り扱いが難しいからです。診療所に届いてから5日以内、一度使える状態にすると6時間以内に打たなければならないという点に負担を感じていました。

そんな新田さんの考えを変えたのが、「いつも診てもらっている先生から接種を受けたい」という患者の声でした。

新田泰三医師
「このくらい制約の厳しいワクチンは私はないと思うんですよね。無駄が出ちゃうんじゃないか?とか、キャンセルが出たらどうしよう?とか、いろんなことを考えて二の足を踏んでいました。けれども、患者さんたちが診察の時にいつも不安そうに『ここで打てるんですか』とおっしゃるんですね。皆さんそれぞれ持病があったりとかいろんな理由があるわけで。患者さんに背を押された形で決意しました」

取材で訪れたこの日も、新田さんは、診察中に患者から寄せられた今後の接種への不安を丁寧に聞き取って説明をしていました。

患者
「がんを患っていて発症して11年ほどになりますが、なにか影響がありますか。ニュースを見てもがんに影響があるのか伝えていないので」

 

新田医師
「それは全く心配ないです。基本的にはコロナウイルスに対する抗体ですから、がん細胞が増殖するとかそういうことは心配ないです」

準備進める中で課題も

ワクチンの接種の準備を進める新田医師が課題だと考えているのが現場への負担増加です。
この診療所では、1日あたり最大80人の接種が必要になると試算しています。通常の診療との両立も考え、昼休みも接種することにしています。新田さんは昼食も取れずに、朝から晩まで休みなく働く可能性も考えられます。そこで、診療所では看護師と医療事務のスタッフ2人を新たに雇用することにしました。

また、副反応への備えも欠かせません。
副反応の1つとして報告されている重いアレルギー反応の「アナフィラキシー」に備えて必要な薬や酸素吸入を行う機材も準備しています。

さらに、患者の不安を少しでも和らげたいとワクチンの副反応などについて、高齢者でも分かりやすく書いた説明書を自作し、接種の際に読んでもらおうと考えています。

新田医師
「アナフィラキシーは20万回の接種につき1回程度の割合とされ、普通はほとんど経験しないものですが、万全の体制は取りたいと思います。ワクチン接種で業務量は膨大になりますが、一人でも多くの人に接種してもらって感染を押さえ込み、この状況をみんなで乗り切っていきたいと思います」

円滑な接種のために

練馬区は、円滑な接種のためには接種を行う診療所と行政の信頼関係が欠かせないとしてこまめな情報提供や副反応が起きた際に大きな病院に救急搬送先として速やかに協力してもらえるよう要請するなどの取り組みを進めていきたいとしています。

住民接種担当課 中島祐二課長
「250すべての診療所の先生にきちんと理解をいただいてスムーズに接種していただくには、行政との信頼関係が不可欠です。先生が負担にならないよう、接種に専念できる環境もつくっていかなければなりません。すべての世代を対象にしたかつてないような大きな事業なので、1つ1つ課題に対応しながら協力して進めていきたいです」 

今後の動き

2月から医療従事者の先行接種が始まるなど具体的な動きは始まっていますが、国から自治体へのワクチンの具体的な供給量や日程は示されておらず、見通しが立たないのが実情です。状況によっては、今後、接種計画の見直しを余儀なくされる自治体も出てくるかもしれません。関心が高まるワクチンの動きを今後も注視していきたいと思います。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。岡山局、新潟局などを経て首都圏局に。 医療、教育分野を中心に幅広く取材。

  • 梅本肇

    首都圏局 ディレクター

    梅本肇

    2016年入局 大阪局を経て首都圏局に。 最近ではかつての戦争や新型コロナの取材を行う。

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