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新型コロナ 感染者が出た学校名は公表?非公表?

  • 2020年9月8日

「区からの広報文、なんで学校名が書いてないの?」
ふと疑問を感じ、感染者が出た学校名を公表しているか、東京23区そして全国の政令指定都市を取材しました。
すると「公表して感染拡大を防ぐ」「非公表にしてプライバシーを守る」
それぞれの自治体は、頭を悩ませていました。
(首都圏局 記者/戸叶 直宏・横浜局 記者/土橋 和佳)

23区 公表3 非公表18

「区からの広報文、なんで学校名が書いてないの?」
「学校名から個人が特定されたら、自治体の責任になっちゃうからじゃない?」
「でも区内には数十校あるんだから、学校名がないと地域全体が不安になるんじゃ…」

記者同士のこんな会話から、今回の取材はスタートしました。
児童や生徒、教職員が新型コロナウイルスに感染して休校や学級閉鎖になった場合、学校名を公表するかどうか、まず、東京23区に取材しました。

「公表している」と回答したのは、杉並区、荒川区、江戸川区の3つ
「クラスターの場合に公表する」としたのは、墨田区、足立区の2つの自治体でした。
残る18の区は「公表していない」と回答しました。
理由について、それぞれの自治体に聞きました。

公表

▼杉並区
休校などになった場合、公表。感染した子どもの部活動なども公表してきたが、どこまで公表するかは、今後も検討を続ける。

▼荒川区
休校や濃厚接触者が多数いるなど、社会的影響が大きい場合に公表。地域の不安解消のためにも出した方がいいと考える。

▼江戸川区
区の公表基準に準じ、個人が特定されない場合は公表。用務員や介助員が感染した際は、個人が特定されるとして公表しなかった。

クラスターの場合、公表

▼墨田区
クラスターのおそれがある場合、公表。生徒4人が感染した際も公表した。

▼足立区
クラスターが発生した場合に公表。これまで発生していないので公表したことはない。

非公表

▼千代田区
小中学校の数が少なく特定されやすいため、「区立学校」としか発表しない。クラスターの場合は公表を検討する。

▼江東区
自分の子どもを心配するあまり、学校名以上の情報を特定しようとする行為が起きるおそれがあるため非公表。

▼中央区
学校は不特定多数の人が利用する施設ではなく、感染経路を追えるので非公表。

▼品川区
公表すると、好奇の目にさらされ地域差別につながるなど、デメリットが大きいため非公表。

▼世田谷区
公表しても地域での感染予防効果は薄いため非公表。

▼目黒区
学校に出入りする人は限られ、濃厚接触者は特定できるため非公表。爆発的なクラスターの場合、公表をどうするかという懸念はある。

▼渋谷区
プライバシーを考慮し、感染の経過について発表することには消極的な立場。

▼板橋区
感染の経過など、可能な限り発表しているが、学校名がわかると、塾などを休んでいた期間でほかの学校の子どもに個人が特定されるおそれがあるため非公表。

国の見解は

厚生労働省は感染者の情報の公表について、感染拡大を防ぐため積極的に公表する必要があるが、不当な差別や偏見が生じないように個人情報の保護に留意しなければならないとする基本方針を示しています。しかし、「学校名」を公表するかどうかの基準はなく、判断は自治体などに委ねられています。

非公表から公表に切り替えた自治体も

非公表から公表へと、対応を切り替えた自治体があります。川崎市です。
川崎市ではことし7月に、児童や教員に感染者が出て発表した際に、学校名を非公表としました。

 

市がまとめた保護者からの意見

すると、保護者や地域住民から学校名や感染した児童の学年を問い合わせる電話が相次ぎました。

「誰が濃厚接触者かわからず不安なので、子どもを外で遊ばせないようにしてほしい」

また、感染者が出た学校と別の学校に子どもを通わせている母親によりますと、保護者の間では、感染者を特定しようとする動きが起きたり、デマも広がったりしたということです。そして、数日でどこの学校で感染者が出たか特定され、情報が広まったといいます。

 

宮前区の母親
「周囲の保護者はパニックのようになっていて、感染した人が誰なのか詮索が始まったほか、その小学校に通う児童のきょうだいがどこの幼稚園に通っているかなどの情報まで流れてきた。あやふやな情報も飛び交っていて、不安を抱えるなかで人の心の闇を見たような気持ちになりました。みんな、自分で判断できるような材料がほしいんだと思います」

“今も悩んでいる”

川崎市は、学校名の非公表がかえって風評被害や地域の混乱を招いたとして、7月20日からは濃厚接触者がいる可能性が高く学校を休校にする場合は、原則、学校名を公表することに切り替えました。ただ、個人が特定されてしまう可能性が高い場合は非公表とするなど、個別のケースに応じて判断するとしています。

川崎市教育委員会指導課 猫橋則文担当課長
「対応には苦慮したが、間違った情報が地域社会に出回ると、かえって子どもたちが傷つき、地域の不信感を招いてしまうと考え公表に踏み切った。判断がよかったのか今も悩んでいるが、今後も周囲への影響の大きさや混乱を収束させる上で効果があるかどうかなどを考えて、総合的に判断したい」

冷静に受け止めて

自治体によって分かれる公表、非公表の判断。情報開示のあり方に関する国の検討会で座長を務める国立感染症研究所の西條政幸さんは、双方の判断に理解を示します。

西條政幸部長
「公表によって感染拡大が防げるかというと、地域での対策は変わらないため、非公表の判断は理解できる。一方、地域で流行があるのか知りたい人たちの気持ちに配慮して公表するという判断も受け入れられる」

その上で、行政が、公表の方法や範囲などを細かく検討し、その判断の理由も説明するとともに、病気の特徴をあわせて伝え、無用な心配、差別、迫害は必要ないことも丁寧に説明することで患者や地域の安心感も高まり、行政への理解も深まっていくと話しています。また、公表・非公表のいずれにも差別や特定行為などのリスクがあるとした上で、地域や社会も冷静に受け止める必要があるとしてこう呼びかけます。

西條政幸部長
「不安になることは理解できるが日常生活の中で感染してしまう病気で、決して特別なことではない。私たちは、差別やいじめなどはあってはならないということを繰り返し、考えていく必要があるし、感染した方々に寄り添う考え方でいかないといけない」

全国の政令指定都市 公表11 非公表9

NHKでは全国の20の政令指定都市にも、同じように対応を聞きました。すると11の自治体が公表、9が非公表でした。このうち、詳しく理由を説明してくれた自治体の回答を以下に掲載します。

公表

▼仙台市
市が把握できていない接触者が申し出る可能性があるので公表。

▼千葉市
複数の濃厚接触者が出た場合など休校の際には公表。

▼新潟市
休校にした場合、校名を伏せていても特定されてしまう。間違った情報やデマが飛び交うリスクを考えれば公表する方がいい。

▼京都市
学校は地域にとって影響が大きく感染防止の観点からも地域に知らせる必要がある。

▼堺市
休校にした場合、地域の人にはわかるし、通学の見守り行う人などには知らせる必要がある。

非公表

▼さいたま市
個人の特定につながることを防ぐため。子どもが学校に復帰した場合、差別の対象になってしまう。

▼横浜市
必要以上に情報を出すと逆に混乱すると考え、非公表。

▼相模原
市個人のプライバシーや人権への配慮から、非公表。校内でクラスターが起きた場合は地域社会への影響も考慮して公表が必要かどうかを判断する。

▼静岡市
個人情報の保護や人権への配慮から非公表。他市の動向は情報収集しているが、方針を変える予定はない。

▼浜松市
公表することで特定しようとする行為が始まり、ひぼう中傷につながるおそれがあるから。校内でクラスターが起きた場合は保健所の指示に従う。

▼名古屋市
市の方針として個人の特定につながる情報はなるべく出さない。休校の場合も、「市内の小学校」などと発表し具体的な区も特定しない。

▼岡山市
公表することで感染防止につながるのか疑問。感染者を特定する行為は、子どもの人生に大きな影響を与えてしまう。

取材をしてみて

「地域の不安は高めたくないが子どもたちが特定されるような情報は出せない」という自治体の葛藤。
我が子を守るためにデマをかきわけて情報を求める保護者。情報公開の判断1つで、地域は大きな影響を受けていました。

「現状では、差別が懸念されるので、学校名は出せない。ただ、今後、ウイルスへの理解が進んで気兼ねなく発表できるようになるのが行政として望ましい姿だと思う」

印象に残ったある区の担当者のことばです。

 

NHKでは、新型コロナウイルスの教育現場への影響について今後も取材していきます。
ご意見や情報はこちらまで。(ニュースポストリンク)
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/

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