シュトボー
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. シュトボー
  4. 浸水想定区域の学校 浸水対策進まない理由に“1000年に1度の壁”

浸水想定区域の学校 浸水対策進まない理由に“1000年に1度の壁”

  • 2022年7月7日

避難所としても使われることもある学校の浸水対策が進んでいません。進まない理由のひとつが、“1000年に1度の壁”、1000年に1度の最大規模の大雨などの想定でした。
現状で「できる対策」は何か。「できる対策」でどんな被害を防ぐことができるのか。浸水対策の現場の動きをまとめました。

学校の浸水対策 “1000年に1度の壁”

全国の3万7000ある公立学校のうち、浸水想定区域にある学校が7500校近くに上る一方で、施設内への浸水対策を講じているのは15%にとどまっていることが、去年初めて明らかになりました。

多くの自治体はハザードマップを参考にして対策を考えますが、想定しうる最大規模の大雨、1000年に1度クラスの大雨などを想定しています。これをもとに浸水対策を行おうとすると、大規模な土地のかさ上げなどが必要になるなど、予算面や技術面の課題から対策が進んでいないのが現状です。
いわば“1000年に1度の壁”です。

その一方で、最大規模の水害に備えた対策は難しくても、可能な対策から取り組んでいる自治体もあります。

1500万円で止水板 200年に1度には効果期待

東京・大田区の大森第四小学校は校舎の建て替えにあわせ、3年前から去年にかけて区の予算を1500万円近くかけ、高さ90センチほどの大型の止水板を3か所に設置しました。
1000年に1度の大雨で想定されている2メートル程度の浸水があれば防ぐことはできませんが、200年に1度の大雨までは被害を防ぐ効果が期待できるということです。

それによって給食室を浸水から守ることができれば、被災後も給食を早期に再開でき、家庭や児童への影響を最小限にできるとみています。

大田区では小中学校全体のうち7割以上にあたる65校が浸水想定区域内にあり、3年前の台風19号で住宅への浸水被害が相次いだことを教訓に、避難所の役割も果たす小中学校の浸水対策を大きく見直しました。
現在は、発電機や紙おむつなどを備蓄する防災倉庫を校舎の2階に移設するなど、区をあげてできる対策から取り組んでいるということです。

大田区教育施設担当課 田中佑典課長
「対策をやればやるほど費用がかかるという現実的な問題もあるため1000年に1度の大雨をハード対策ですべて防ぐのは難しいと思いますが、台風19号のような大きな災害がいつきてもおかしくないので、危機感を持って学校や地域にあった対策を考えていく必要がある」

2億8000万円で高床に 1日440ミリで被害なし

可能な範囲でハード面の対策を講じた結果、被害を最小限にとどめた学校もあります。佐賀県嬉野市の塩田中学校は過去に50年に1度の豪雨で近くの川が氾濫し、学校が1メートル程度浸水する被害にあったことから、7年前の校舎の建て替えの際に高床構造を取り入れました。

市が、国の交付金も使いながらおよそ2億8000万円の予算をかけて設置したもので、地面から1階の床までの高さは2.6メートルあり、その上に教室や職員室などが配置されています。
対策の結果、1日で440ミリ近くの雨が降った去年8月には校舎の床下が70センチほど水に浸かったものの、教室などに被害はなかったということです。

一方で、嬉野市によりますとほかにも浸水想定区域内に学校があるものの、多額の費用がかかるため同様の対策をとるのは難しいということです。

“10年に1度の想定も活用し対策検討を”

文部科学省の有識者会議は、対策の推進に向けた中間報告を6月にまとめました。この中では、10年に1度といった頻度で起きる浸水の想定も活用し、比較的取り組みやすい対策を検討することが重要だとしています。

文部科学省は、浸水対策の費用を補助する国の制度の活用を促すとともに、今年度末をめどに、具体的な対策の手引きを盛り込んだ最終報告をとりまとめる方針です。

専門家 “費用対効果の高い対策から取り組みを”

文部科学省の有識者会議の委員を務める国立研究開発法人建築研究所の博士、木内望さんに聞きました。

木内望さん
「ハザードマップのもととなる1000年に1度の水害だけに着目して対策を行おうとすると技術面や費用面の課題などから思考停止して、何も対策が打てなくなってしまう。まずは現実的な100年や50年に1度の浸水に対して可能な対策を現実的な予算の中で講じていくことが必要だ。学校施設は子どもたちの学びの場であると同時に周辺住民の避難所としての役割も果たしている。まずは費用対効果の高い対策から取り組むことで、校舎の被害を抑えたり復旧を早めたりできるなど大きな効果が期待できる」

ページトップに戻る