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災害時の車中泊避難 安全に過ごす工夫は? 宮崎大地アナが体験

  • 2022年2月24日

災害時の避難方法のひとつ「車中泊避難」。車の中で寝泊まりをする避難のことです。
多くの人がこの避難方法を選択するのですが、一方で、エコノミークラス症候群や低体温症など、気をつけなければいけないこともたくさんあります。
そこで私が冬の夜に体験してみました。実際にやってみると想像以上に過酷でした…。
(アナウンサー/宮崎大地)

“抜き打ち”の車中泊避難体験

アナウンサーが防災に体当たりで挑むこのコーナー「#防災やってみた」。
今回私が呼ばれたのは、渋谷のNHK放送センターの駐車場です。

「被災した後の状況を想定した体験をする」こと以外何も聞かされていません。
そこに今回の企画の発案者 庭木櫻子アナウンサーが内容を説明しました。

庭木アナ

宮崎さんには、これから車中泊避難を体験してもらいます。地震直後、ガソリンはほぼ残っていないと想定します。ですので、宮崎さんにはこれから3時間、この車の中でエンジンをつけずに過ごしてもらいます。

この日、外の気温は7度でした。私に車中泊の経験はありません。エンジンがかけられないから寒くならないか、寒さでトイレに行きたくならないか、狭い車内で身体が痛くなったらどうしようなど、正直、不安ばかりが頭に浮かびます。

なぜ「車中泊避難」?

今回この「車中泊避難」の体験がなぜ必要なのか。
災害が起きると、多くの人がこの避難を強いられることになる可能性があるからです。

熊本地震時の様子

平成28年の熊本地震では、家族やペットなどさまざまな事情で避難所に入らなかった多くの人が、駐車場などに車を止め、車内での避難生活を送りました。
そして、この「車中泊避難」により、エコノミークラス症候群などで体調を崩す人が相次いだのです。中には亡くなった方もいました。

いま、コロナ禍で避難所の人数が制限される中、車中泊避難をする人が増える可能性があると指摘する専門家もいます。そうしたなか、安全に車中泊避難をするにはどうすればいいのか、アナウンサーが身をもって体験することで考えたいと思ったのです。

今回の体験は、日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授に安全面の監修をしてもらいました。
マイナス20度という極寒の北海道での車中泊避難を検証するなど、さまざまな研究を積み重ねてきたエキスパートです。

車中泊避難体験で気がついたこと

今回準備されたのは、冬場の車内で一晩過ごすのに家庭にありそうな最低限必要だというグッズのみです。

毛布に段ボール、携帯用のトイレ、新聞紙、アルコール消毒液、お菓子に、乾パン、カイロ、毛糸の帽子、粘着テープなどです。

いよいよ3時間の車中泊避難体験が始まりました。
最初どうしていいかわからず、広そうな後部座席に行ってみます。「うう…思ったより狭い…」前途多難だと感じました。

今回の体験でつらかったことを先に4つあげます。「寒さ」「人の視線」「狭さ」そして「トイレ」です。

つらかったこと1「寒さ」

まず感じたのが「車内の寒さ」です。
これはもちろん予想していましたが、日が落ちると急激に寒さが増してきました。ダウンやニットなどの防寒具は身につけていたものの、時間を追うごとに車内はほぼ外気と分からない気温に。徐々に手や足の感覚がなくなっていきます。

実験の終了間際には、頭に毛糸の帽子をかぶり、手にはカイロを持ち、そして毛布で全身を覆わないと耐えられないほどでした。実はこの時、手や足の指先だけでなく、膝や腰など体のあちこちで寒さを感じるようになっていました。そしてその寒さのせいもあり、だんだんと体力が奪われていくのも分かりました。

つらかったこと2「人の視線」

意外につらかったのが「人の視線」です。
車内にいると、人が近くを通るたびに、外の足音や視線が気になってきます。これが、意外なストレスでした。実際に避難生活をするとなると、その生活が長引くにつれ、日に日にストレスが溜まってくるのではないかと感じました。

新聞紙で窓を覆ってみました

少しでも快適に過ごせるように、目隠しを窓に設置しようとしたのですが、これがなかなかうまくいきません。まず段ボールを使って目隠しを作ろうとするのですが、工作が苦手なこともあり、全然窓枠にはまりません。
30分ほど格闘したのですが、結局諦めることに。かわりに新聞紙で代用してみると、寒さ対策にはなりませんが、何とか目隠しを作ることができました。

つらかったこと3「狭さ」

はじめに感じた「狭さ」です。
5人乗りの乗用車ですが、いざ寝ようとすると私一人でも思いのほか車内が狭く、うまく寝られません。最初は後部座席に寝ていたのですが、足が伸ばせず後半からは助手席に移動し、できるだけ足を伸ばして過ごしていました。ただ、開始から2時間ほどたつと体にある変化が・・・。

上半身を中心に体のこわばりを感じるようになりました。頻繁にふくらはぎをもんだり、ストレッチを繰り返したりしましたが、あまり効果はありませんでした。
この車内で長期間過ごすとなると、さらに家族が一緒でさらに狭いと、かなりのストレスを感じるのではと思いました。

つらかったこと4「トイレ」

そして、とても困ったのがトイレです。
根本教授のアドバイスから、定期的にペットボトルの水を飲むようにしていたのですが、避難体験をしてわずか1時間ほどしたら、トイレに行きたくなりました。しかし、「携帯トイレ」がトランクの中に入っていたのですが、その使い方がわかりません…。

今回は、見守る仲間たちにSOSを出し、特別に建物のトイレを使用しました。携帯トイレも平時に使っておかないと、いざという時に使えないことを痛感。今度家にある携帯トイレを一度使ってみなければと改めて思いました…。
さて、そうこうしているうちに、3時間の車中泊避難体験が終了。3時間でもつらく感じたので、やはり、どうすれば快適に過ごせるか、健康を保てるかを事前に考えておいた方がよさそうです。

「どうすれば快適に?」専門家に聞いた

体験終了後、車中泊避難のコツを監修してもらった根本教授に聞きました。
私がつらかった4つの項目ごとに対策を挙げていきます。(記事の最後に車内に準備しておきたいグッズ一覧を掲載しています)

【「寒さ」対策は事前の準備と食べ物で】
まずつらかった「寒さ」の対策です。今回はガソリンが残っていない想定でしたが、ガソリンをこまめに満タンにしておくことで暖房を使うこともできます。(ただし、雪が積もっている地域では一酸化炭素中毒に注意)
さらに、体温を保つためには毛布より「寝袋」が有効だということです。

私も実際に寝てみましたが、冬用の寝袋は暖かく、毛布に比べて快適でした。ただ、寝袋には夏用と冬用があるので注意が必要だそうです。
また、カイロは暖をとるのに有効ですが、低温やけどの恐れがあるため、長時間、直接肌にあてないように注意してください。
さらに、体温を保つためには、食事によるエネルギー補給も大切。ふだん備えるものとしては、車内は乾燥しているため、乾パンなどの乾いた食品より、湿り気のある食品がおすすめだそうです。根本教授は、特に「ようかん」を勧めていました。中には、5年以上保存できる商品も開発されていて、保管もしやすくなっています。

【「人の視線」対策は段ボールがおすすめ】
次に「人の視線」の対策。これについては、私がおこなった新聞紙を窓に貼る対策をほめてもらえました。根本教授は「窓の目隠しは、車中泊避難で最初にしないといけないこと」だと言います。

一方で、目隠しには、本当は段ボールの方がおすすめだということ。プライバシーを守ることに加え、保温効果も高いためだそうです。工作が苦手な私は体験のとき、うまく段ボールを貼ることができませんでしたが、皆さんは試してみてください。
事前に段ボールやテープなどを車内に準備しておくことも大切だと感じました。

【「狭さ」対策の一例も段ボール!?】
「狭さ」の対策について、根本教授はとても大切だと言います。
長い間、座ったままの同じ姿勢でいると、「エコノミークラス症候群」になり、命に関わるおそれもあるためです。
このため、少しでも横になれるような環境を作ることを目指すことが必要です。例えば、私が体験に使用した5人乗りの乗用車。後部座席のシートを倒したり、段差を段ボールで埋めたりすることで、車内で横になることができました。こうした工夫を車ごとに考えておくことが大切です。

また、寒い中ではつらいのですが、なるべく体を動かすことが大切です。頻繁に外に出られない場合は、ふくらはぎをもんだり、足の指をグーパーグーパーと繰り返して動かしたりするとエコノミークラス症候群防止の効果があるそう。実際にやってみると、ふくらはぎがポカポカしてきて、血流がよくなったように感じました。

さらに根本教授が強調していたのは「運転席では眠らないでほしい」ということでした。仮にエンジンをかけた場合に運転席を使うと、寝ているときに知らずにアクセルを踏み込んでしまい、車の火災などにつながる可能性があるということです。

【「トイレ」対策 実はいちばん大切!?】
そして、私が困った「トイレ」の対策。根本教授は、実は車中泊避難で最も大切なことだと指摘します。
まずその前提として、車中泊避難をするときは、できるだけ水分を補給する必要があるといいます。エコノミークラス症候群は、血液が固まることで起きるとされているためです。体験では、事前に根本教授からなるべく飲むように言われていたので、車内の乾燥も手伝って多めに水を飲むようにしました。それが、トイレに行きたくなる要因なのですが…。

ただ、根本教授は「絶対にトイレを我慢しないでほしい」と言います。そのためにも、携帯トイレの準備や使用方法の確認。それに避難する際に、できるだけトイレに行ける環境を作っておくことが大切だと感じました。

専門家「家庭の事情に応じて備えを」

根本教授は繰り返し「車中泊避難」は、なるべくほかに避難の手段がないときにするものだと強調しています。ただ、車が身近な存在である地方などでは、その手段を選ぶ人が多いことも事実。そのため、少しでも日ごろから、車中泊避難をせざるを得なくなったときに備えることが大切だと話していました。

車中泊避難に詳しい日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授
「家庭の事情、それぞれの事情に応じて、まずは備蓄や備えをしていただき、そのうえで、できれば一度練習をしてみてほしい。そうすることで、万が一の時にようやく生かすことができると思います」

今回の体験を通して

私も「車が生活に欠かせない」地方での生活が長いので、車中泊避難はひとごとではありません。
今回わずか3時間の体験でしたが、時間を追うごとに疲労感が増し、寒さも手足だけでなく、全身で感じるようになりました。また、夏になるとまた状況が大きく違うと思います。車中泊避難が必要になった場合に備えるにはどうすればいいのか、改めて考えてみようと思いました。

そして、今回の「つらい」体験を、災害の時に放送で呼びかける車中泊への注意点に生かしていきたいと思います。
「トイレが心配だとは思いますが、こまめに水分補給をして、できるだけ体を動かしてください」
こうした言葉は、より実感を込めて伝えられそうです。

最後に、車中泊避難にあると便利なグッズ一覧をつけました。皆さんも是非一度、チェックをしてみてください。

「冬の車中泊避難にあると便利なグッズ一覧」
□カイロ
□暖かい帽子・手袋などの防寒具
□毛布
□新聞紙
□粘着テープ
□段ボール
□寝袋
□水
□お菓子(チョコやクッキー系、ようかんなど) 
□除菌用のティッシュ
<その他>
□手回しラジオ
□シガーソケット用の携帯充電器 
□ゴミ袋
□足用カイロ
□温かいスリッパ
□ヘッドライト 
□懐中電灯  
□アイマスク  
□耳栓  
□圧縮袋 
□携帯トイレ  
□体をふく事ができる大きめのボディシート 
□箱ティッシュ など
協力:日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授

  • 宮崎大地

    アナウンサー

    宮崎大地

    2004年入局。大阪放送局や長野放送局などを経て現所属。エンターテイメント業界などを取材。これまでに新海誠監督や野田洋次郎さんなどのインタビュー番組を制作。

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