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横浜や川崎を流れる鶴見川 命を守るための3つのポイント

  • 2021年8月6日

首都圏各地の川のリスクをお伝えする「かわ知り」。
今回は、横浜市や川崎市、東京 町田市を流れる「鶴見川」です。全国の一級河川の中で最も流域の人口密度が高く、流域にはおよそ200万人が暮らしています。もし氾濫したら大都市に大きな被害をもたらす危険性があるこの川で、命を守るための3つのポイントをまとめました。
(首都圏局/ディレクター 阿部和弘)

横浜など大都市を流れる鶴見川

東京 町田市を源流に、市街地や工業地帯を蛇行しながら流れて東京湾に注ぐ、全長42.5キロの鶴見川。
流域の自治体は東京都の町田市と稲城市、神奈川県の川崎市と横浜市で、都市化が進み市街地が8割以上を占めています。また河口付近には京浜工業地帯が広がり、首都圏の社会や経済の基盤となる場所を流れています。

「暴れ川」で進む「総合治水対策」

かつては「暴れ川」と称され、1958年の狩野川台風や1966年の台風など、何度も水害に見舞われてきました。こうした経験を受け、この流域で全国でもいち早く進められたのが、「総合治水対策」です。

およそ5000の雨水をためる調整池

対策は、およそ40年にわたり、国、自治体、そして住民が、まさに一体となって進められてきたと言います。
例えば、雨水をためるための場所をおよそ5000か所にわたり整備。
さらに、市街化が進む中で、上流の自然を守ることで、流域の保水機能を上げていきました。流域全体で水害への備えを進めてきたのです。
こうした対策も功を奏し、近年では、大きな水害は発生していません。

ただ、対策が進んできた鶴見川ですが、国は、もし最大規模の大雨が降った場合には、中流から下流を中心に広範囲で浸水すると想定しています。

それでは、水害から命を守るために、どう備えたらいいのでしょうか。

ポイント(1) 「多目的遊水地」に水が入ったら危機感を

まず注目してほしいのが、ラグビーワールドカップで決勝の舞台にもなった「横浜国際総合競技場」がある一帯。実は巨大な「遊水地」として整備されてきた場所です。

鶴見川の水位が一定の高さを超えると、遊水地に水が流れ込む仕組みになっています。最大で東京ドーム3杯分という大量の水をためることができます。
実際、2014年の台風18号や2019年の台風19号でも、この競技場に水が貯留されました。

平成26年 画像提供 国土交通省京浜河川事務所

このように、過去には氾濫を防ぐための遊水地などが機能して水害が防がれてきました。
しかし、国土交通省京浜河川事務所の太田敏之副所長は、ここに水が入る時には、流域が守られているだけでないと警鐘を鳴らします。

太田敏之副所長

遊水地に水が入ったということは鶴見川の水位が非常に上がっていて、危険が迫っているという1つの指標となります。

遊水地に水が入る時は、遊水地の脇にある「亀の子橋」の水位観測地点で、「避難判断水位」に迫る状況です。遊水地は、川の水位の上昇を抑えますが、水位が下がるわけではないので、特に下流に住む方は、遊水地に水が入ったら、強い危機感を持ってください。

亀の子橋の水位や遊水地に水が流れ込んでいるかどうかは、国土交通省のホームページやNHKニュース・防災アプリなどでリアルタイムの水位・映像を確認することができます。

ポイント(2) 鶴見川と多摩川の間の地域は注意

次のポイントは、鶴見川だけでなく、近くを流れる多摩川にも注目する必要があるという点です。川崎市幸区などの土地の低い地域では、鶴見川の流域でも、多摩川からあふれた水が流れ込む危険性があるからです。

2019年の台風19号では、鶴見川は氾濫しませんでしたが、多摩川では浸水被害が出ました。その理由のひとつが、川の特徴にあります。

比較的短い鶴見川は、降った雨がすぐに川に集まり水位が上がる特徴があります。一方多摩川の全長は鶴見川の3倍に及び、流域の面積も広いため、下流の水位の上昇は、鶴見川とは変わってくるのです。

これは鶴見川と多摩川、それぞれが最大規模の大雨で氾濫した場合の浸水想定です。

鶴見川と多摩川の間の地域では、鶴見川のすぐ脇でも、多摩川の氾濫で浸水が発生するおそれがあります。また、場所によっては多摩川が氾濫した場合の方が、浸水が深くなる場所もあることがわかります。

次の地図でどちらも色が付いている地域の人は、特に2つの川の状況に注意してください。

ポイント(3) 支流の具体的な危険を知る

鶴見川には主なものだけでも10の支流があります。
真光寺川と麻生川、恩田川、梅田川、鴨居川、早淵川、矢上川、大熊川、砂田川、それに鳥山川です。こうした支流にも、それぞれ氾濫のリスクがあります。

このうち横浜市北部を流れる早淵川沿いでは、住民が動き出しています。
合流地点にほど近い高田地区に住む井堀聖士さんは、かつては何度も水害にあってきました。対策が進んだいま、危機感が薄れているといいます。

井堀さん

この何十年もの間、大きな水害が起きていないので気が緩んでいて。想定外のことが起きた時にどう備えるか、みんながそういう意識を持たないといけない。

町の人に、危機感を持ってほしいと、井堀さんは町内会の会長らとともに、国や区に相談し、過去の水害や避難する基準などをまとめたパンフレットを作りました。
井堀さんは手渡すときに、近くの川の氾濫危険水位を確認するよう伝えています。

井堀さん

台風や大雨などの時にどうすればいいんだということを、きちっと日頃から準備しておけば慌てないですむ。準備っていうのは絶対に必要だと思います。

鶴見川のかわ知り 3つのポイント

この記事では以下の3つのポイントをお伝えしました。

治水対策を進めてきた中で、住民の危機感が薄れている。
この数年、同じような状況にある川で氾濫が発生し、多くの犠牲が出てきました。対策が進んだことで氾濫の危険がなくなったと考えるのではなく、備えを進めていくことが大事なのだと、今回の取材を通じて感じました。

また、3つめの「支流の具体的な危険を知る」も重要です。川のリスクについては大きな川に目がいきがちですが、ことし7月上旬の大雨では、神奈川県の「中小河川」で水位が上がり、周辺に被害が出ました。
今こそ、身近な川のリスクを確認しておきたいと思います。

「川の防災情報」 https://www.river.go.jp/index
「NHKニュース・防災アプリ」 https://www3.nhk.or.jp/news/news_bousai_app/
  • 阿部和弘

    首都圏局 ディレクター

    阿部和弘

    2010年入局。秋田局、報道局、名古屋局を経て2020年から首都圏局。 これまで震災や災害などの現場を取材。

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