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路線バス廃止 政令指定都市のさいたま市でも 乗合タクシー導入したけれど

  • 2024年6月17日

「すぐ満員になると困るかな」「不便だよね。出歩けないから」
人口134万人の政令指定都市、さいたま市。4月から岩槻区と隣の蓮田市を結ぶ路線バスが廃止されました。市は急きょ、乗合タクシーの導入を決定。住民の足はなんとか確保されたものの、生活への影響を訴える声も上がっています。

さいたま局 記者/藤井 美沙紀

岩槻~蓮田 路線バス廃止で乗合タクシーに

さいたま市岩槻区の東武野田線岩槻駅。
路線バスも多く行き交う駅前に現れたのが、4月から導入された「乗合タクシー」です。

「おりづる号」と名付けられた乗合タクシーは、岩槻駅とJR宇都宮線の蓮田駅を結んで、1日10往復運行されています。

乗客
「前は大きいバスでしたけど、乗る人が少ないからしかたないですよね」

岩槻駅と蓮田駅の間には、3月まで大型の路線バスが走っていました。
国道122号の旧道に沿うような約6キロの区間で、人口が密集しているわけではありませんが、住宅や物流施設、病院が点在する地域です。
コロナ禍以降、乗客は減っていたものの年間6万人余りの利用がありました。

しかし、バス会社は運転手不足の深刻化や収支悪化を理由に、1年ほど前に廃止を決定。
さいたま市は、このままでは「交通空白地区」になってしまうとして、ほかのバス会社に代わりの運行を打診しましたが、すべて断られてしまいました。
そこで急きょ「乗合タクシー」として、地元のタクシー会社に運行してもらうことになりました。

さいたま市交通政策課 村川宗央課長
「これまでも運転手不足が叫ばれていたところで、2024年問題による労働規制が重なって、路線バスの廃止につながってしまった。さいたま市は人口130万の大きい街なので、こんなことは起こりえないといいなという憶測もあったのですが、代替えの確保をどのようにしていくかというのを考えなければいけない局面になったというところです」

定員はわずか9人 不便を訴える声も

乗合タクシーになっても料金や停留所、便数は大きくは変わりません。
ですが、ワンボックス車で運行される乗合タクシーの定員はわずか9人。
数十人が乗れた路線バスとは比べものになりません。

車内に荷物置き場はなく、スーツケースやベビーカーを乗せるのは一苦労です。

少し混雑する車内にスーツケースを持って乗り込んできた女性は、娘の結婚式に出席するために、初めて乗合タクシーを利用したそうです。座席に座り、足の前のスペースにスーツケースを置いていました。

スーツケースを持った乗客
「一番後ろの席だったので足元に置けたからよかったんですけど、ほかのお客さんに迷惑かなと思いました。乗るときには『どうしようかな』と思いました」

子どもを抱きかかえて、たたんだベビーカーと大きなかばんを持った女性が乗車してきたときは、それほど混雑していなかったため、かばんは空いている席に置けました。
しかし、通路に置いたベビーカーは、降りる人がいるたびに動かさなければならず、申し訳なさそうな様子でした。

応援タクシー

最も混雑する朝の通勤時間帯には、乗り切れない人が出ることもしばしばあります。
こうした場合は、乗合タクシーのドライバーが、他のタクシーを停留所まで呼びます。
そして、駆けつけた“応援タクシー”が、乗り切れず停留所に残された利用者を乗せて、乗合タクシーをあとから追いかけます。

取材した日の朝、岩槻駅には、応援タクシーが10分ほど遅れて到着しました。
鉄道の運転見合わせが発生した場合なども、乗合タクシーに乗り切れない人が出て、応援タクシーが出動することがあるといいます。

応援タクシーを利用した乗客
「満員で乗れなかったから、あとから追加で来てもらいました。すぐ満員になると困るかな。蓮田からの便だと結構人が乗るので」

土日は運行なし 買い物に困る住民も

停留所の表示

また、乗合タクシーの運行はさいたま市のガイドラインで原則、平日のみとなっているため、土日祝日の運行がなくなりました。その影響を受けている人もいます。

さいたま市岩槻区に住む細井洋さん(87)は、数年前に運転免許を返納しました。
いまは買い物に行くため、2~3日おきに乗合タクシーを利用しています。

土日の運行がなくなったため、毎週金曜日にはスーパーに食料をまとめ買いに行くことが欠かせなくなっています。荷物をたくさん運べるようにと、新たにキャリーバッグも購入しました。
この日は、蓮田駅前のスーパーに行くため8時台の便に乗車しました。

週末を過ごすため、野菜や果物、パンなど3日分の食料品などを買って、10時台の便で帰宅しました。
細井さんは週末は出かけずに、家にこもっている日が多くなったといいます。

細井洋さん
「不便は不便だよね、出歩けないから。どうにもならないね、車がないと。土日は来ないんだから仕方ない。我慢するしかないでしょう」

タクシー会社 運行開始後も続くドライバー研修

一方、乗合タクシーを運行するタクシー会社も、ギリギリの態勢でのスタートとなりました。

乗合タクシーの車両は通常のタクシーと大きさが異なるため、こうした車両の運行経験がある運転手を新たに採用しようと募集しましたが、なかなか見つからなかったといいます。
なんとか専任の運転手2人を確保して4月の運行開始に間に合わせましたが、安定的な運行のためにほかのタクシー運転手がカバーできるよう、運行開始後も研修が続いています。

指導する運転手
「バス停に止めるときにあまり左に寄せていかないでください。ステップが出るので」

研修中の運転手
「気を遣うのはお客様の降りる場所ですね。間違わないようにしないといけないので、しっかり停留所を覚えて、安全を一番に考慮して運転したい」

さいたま市 “今後も路線バス廃止の可能性” 対応検討

さいたま市役所

この乗合タクシーについて、さいたま市と蓮田市は今年度を実証期間と位置づけていて、赤字分を負担するとともに、利用状況を踏まえて今後の運行体制を検討していくことにしています。
さいたま市内では、ほかにも乗合タクシーの路線がありますが、今回のように廃止された路線バスの代わりに急きょ、乗合タクシーを導入したのは初めてです。乗合タクシー導入のガイドラインでは、こうした場合の対応を決めていませんでした。

さいたま市内では、運転手不足などを背景に、ほかの路線バスでも減便が相次いでいます。
市は、今後も路線バス廃止が起こりうることを視野に入れて、来年度までにガイドラインを見直し、地域交通全体を見据えた検討を進めることにしています。

さいたま市交通政策課 村川宗央課長
「今回起きたように、バスがなくなってしまうことも起きる可能性があります。地域の方々と相談しながら、いろいろな皆様の力を借りて、移動が楽になるように、不便にならないよう取り組みを進めていきたいと思っています」

取材後記

私も岩槻や蓮田にはたびたび足を運んできましたが、都市近郊のこの地域で路線バスが姿を消し、交通空白地区の懸念が浮上するとは思ってもいませんでした。

運転手不足や人口減少がさらに深刻化していくなかで、どのような解決策を見いだしていけるのか、引き続き取材していきたいと思います。

  • 藤井 美沙紀

    NHKさいたま局 記者

    藤井 美沙紀

    2009年入局。秋田局、国際部などを経て現職。さいたま市出身で、故郷の取材は2年目。

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