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パソコンやタブレット端末の故障相次ぐ 修理・保険費用は6億円超に 1人1台「GIGAスクール構想」の現場は

  • 2024年04月15日

修理会社に積まれた小中学生用のノート型パソコン。
埼玉県の21市で1万5000台が故障し、保守費用は6億円余りに。
小中学生に1人1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」で見えた課題を取材しました。

各地で端末の故障相次ぐ

久喜市の修理を行う店舗

埼玉県久喜市に店舗をかまえる、精密機械の修理会社です。

取材したことし3月、画面が割れたり電源が入らなくなったりしているタブレット端末やノート型パソコンが大量に積まれていて、従業員たちが修理作業を進めていました。

修理待ちの端末

会社によりますと、ここ数年、こうした故障にともなう端末の修理の依頼が相次ぎ、ことし1月中旬には久喜市からおよそ400台もの修理を受注し、そのすべてが小学校や中学校に1人1台導入されている端末だったということです。

修理作業続く

店舗のスタッフだけでは対応しきれず、茨城県にある本社からも人を動員し、2月末の納期に間に合わせたということです。修理の原因はひび割れなど「液晶パネルの破損」が最も多く、全体のおよそ60%を占め、次いで「ネジの外れ」が多いといいます。

修理会社「エイド」 山下浩平 社長

修理会社「エイド」 山下浩平社長 
「端末の中に砂鉄がびっしりとくっついているものもあり、小学生が使うとこういうことも起こるんだなと感じたこともありました。昨年度末には修理する台数がかなり増えた印象があり、使用年数がたつにつれて故障の数も増えると予想され、今後さらなるピークが来るかもしれないなと思っています」

教育現場は対応に苦慮

端末活用した授業

同じ久喜市にある鷲宮中学校です。国語や数学だけでなく、美術や体育などほとんどの授業でタブレット端末を使っています。プレゼンテーションのための動画や画像を作成することなどもあり、端末の活用が授業に意欲的に参加することにつながっているといいます。

ノートではなく端末にメモ

教育のICT化を先進的に進めている久喜市では、3年前(2021年)、小中学校で児童や生徒が1人1台活用できるよう1万台あまりの端末を導入しました。市は、子どもたちに積極的に活用してもらおうと、学校での学習にとどまらず端末を毎日自宅に持って帰ってもらって家庭学習にもいかしています。

破損して傷ついた端末

その一方、液晶画面が割れるなどの破損も相次いでいます。取材した生徒からは、「教室を移動する際に誤って落としてしまった」とか、「端末を開いたらいつの間にか画面が傷ついていた」という声が聞かれました。特に、移動教室などが重なる場合は持ち歩く教科書やファイルが多くなってしまうため、手が滑って落としてしまうことが多いといいます。

 

端末はさまざまな学びの場に

久喜市教育委員会によりますと、ことし2月1日の時点で市内の小中学校で、破損などのため修理中の端末はおよそ450台あり、こうした修理費用は昨年度(2023年度)までの3年間で7390万円余りに。そのすべてを市が負担しました。

授業ごとに教員が呼びかけ

市は、少しでも故障を減らすため、端末の上に物を置かないことやふたは真ん中をやさしく開くことなど、使い方の指導を教員が授業のたびに行っています。ただ、さまざまな場所に端末を持ち歩いてどんどん活用してもらおうとすればするほど故障のリスクが高まるという側面もあり、悩ましいといいます。

久喜市教育委員会 GIGAスクール推進室 山本純室長 
「端末の破損や故障の数がかなり増えてきている状況ではありますが、子どもたちの学びを止めないように、支障が出ないようにするためにも、修理もそうですし端末の更新を見据えた取り組みを進めていきたいというふうに考えています」

故障は1万5000台以上 関連費用は少なくとも6億円超に

破損や故障は各地で相次ぐ

こうした故障はどのくらい生じ、対応のためにどれだけの費用が必要になっているのか。NHKが埼玉県の人口10万人以上の21の自治体に昨年度(2023年度)の端末の使用状況についてアンケート調査したところ、回答があった20の市で合わせて1万5000台あまりの端末が破損するなどしていたことが分かりました。

埼玉県の21市を対象にアンケート

また、破損や故障をした端末の修理や、あらかじめ備えて加入する保険などの保守費用は、このうち17の市で少なくとも6億円を超えることも分かりました。

内訳を見ると、修理費用は合わせて2億1000万円余り、保険費用が3億9000万円余りとなっていて、いずれも国からの補助金などがないため、自治体がみずから負担しているということです。

自治体からは懸念の声も

取材した自治体からは、こうした状況についてさまざまな声が寄せられました。

「日常的に持ち歩いて使う以上、故障は避けられない。無償かつ無制限の故障対応の保険への加入が重要だが、費用が高額なのも課題の1つ」

「GIGAスクール端末の保守は全国的な問題であるから、第2次GIGAスクール構想において一定程度の保守を補助額に含めるなど、国にて適切に対応いただきたい」

「端末の故障処理を含む管理予算に対して国の補助金が必要である」

国は“予備機の購入補助”で対応も…

文部科学省のWEBサイト

国は、小中学生に1人1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」を進めています。文部科学省によりますと、2019年度以降各地で端末の導入が進み、昨年度末(ことし3月末)までに全国の小中学校でほぼ整備されているということです。

また、全国のすべての自治体などを対象に行った調査では、自治体によってばらつきがあるものの、去年7月までのおよそ2年4か月の間に全体の5%ほどにあたるおよそ51万台で端末の破損などが確認されたということです。

一方で、こうした対応のために各自治体が投じた費用がどのくらいにのぼるかについてはこれまでに調査したことがなく、分からないとしています。

補正予算で基金設立も

整備されて数年が経過した端末の更新費用に加え、修理や交換が必要になった場合も児童や生徒が端末を使えるようにあらかじめ「予備機」を購入しておくための費用として、国は、去年(2023年)2600億円余りの補正予算を計上し、各都道府県ごとに基金を設立することにしています。

「GIGAスクール構想」進める文部科学省

こうした状況について、文部科学省の学校デジタル化プロジェクトチームは、 
「端末の日常的な活用が進む中、児童や生徒の学びを止めないためにも、まずは故障に速やかに対応できるようにすることが非常に重要です。自治体からの要望やこれまでに把握している故障率を勘案し、昨年度(2023年度)の補正予算で端末の更新を進めるための基金を各都道府県につくることとし、15%分の予備機の購入も補助の対象としています。十分な予備機を購入することで、修理に備えた保険などのコストの軽減も見込めると考えています」とコメントしています。

専門家からはさまざまな意見

専門家からはさまざまな意見が聞かれました。

「GIGAスクール構想」に詳しい東京学芸大学 高橋純教授 
「導入からこれまでは新型コロナによる影響もあり、端末の整備に必死で故障まで目が向かなかった部分もあったのではないか。情報化が遅れていると言われる日本ゆえの複雑で複合的な問題がまさにいま、あらわになっていると思う。故障に対応する予備の端末の購入にも15%をあてることができる国の予算をうまく活用した故障への対策を取ることが今後、非常に重要だ。自治体の間で情報共有しながら充実した学びにつなげる環境作りを進めることが求められている」

教育行政に詳しい千葉工業大学 福嶋尚子准教授 
「想定より早く端末の導入を進めざるを得なかったとはいえ、財源の確保や条件整備をどこまで自治体が担う必要があるかなどをしっかりと検証しないまま財政的な負担が生じる形になっている印象だ。配備した端末をきちんと活用しようとすればするほど故障はやむをえず、どこが費用を負担してどのように対応していくべきなのか練り直す必要がある」

教育のICT化に詳しい放送大学 中川一史教授 
「導入された端末をとにかく使ってみるというフェーズから、うまく活用できるようにするフェーズへと移行してきているが、それにともなって端末の紛失や故障にともなう修理や補償の多さへの対応などの課題も見えてきている。故障を減らしたり費用を抑えたりするために自治体ごとのさまざまな工夫が見られるが、社会状況に照らせばこうした端末環境の整備や活用は待ったなしだ。端末が壊れるから使わないというわけにはいかないので、維持管理に関わる財政支援についても、国には視野に入れて欲しいと思っている」

  • 江田剛章

    さいたま放送局 記者

    江田剛章

    2013年入局。
    徳島局、名古屋局、社会部をへて、去年8月から現職。

  • 粕尾祐介

    さいたま放送局 記者

    粕尾祐介

    2019年入局。
    事件事故やさいたま市政、災害など幅広く広材。

  • 春日部支局 記者

    溝田由子

    春日部支局で地域の話題や自治体などを幅広く取材。

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