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小川和紙 世界が認めた埼玉県特産品 海外の芸術家からの注目が

  • 2023年12月05日

埼玉県小川町や東秩父村は1300年前から続く和紙の産地。ここで作られる「小川和紙」の最高級品は「細川紙」と呼ばれ、ユネスコ無形文化遺産に登録されていますが、和紙を作る職人は減る一方です。
そんな小川和紙の魅力に、いま海外の芸術家からの注目が集まり始めています。

さいたま局記者/藤井美沙紀

“和紙の里”で魅力を伝えるイベント

11月、埼玉県東秩父村で和紙の魅力を紹介するイベントが開かれました。豪快な書道アートのパフォーマンスが披露されたり、和紙を使って髪飾りやミニランタンを作るワークショップが開かれたりしました。使われているのは、地元で作られた「小川和紙」です。

和紙で作った髪飾りとミニランタン

1300年続く和紙づくり どう守るか課題に

東秩父村では1300年前から和紙づくりが行われてきました。原料にこうぞの木の皮だけを使い、伝統的な手すきで作られた小川和紙の最高級品は「細川紙(ほそかわし)」と呼ばれます。

素朴で温かみのある風合いが特徴で、2014年に島根県の「石州半紙」や岐阜県の「本美濃紙」とともにユネスコの無形文化遺産に登録されました。

しかし、和紙を作る担い手は年とともに減っています。最高級品を作る職人として認められるまでにはおよそ10年の経験が必要で、村では若手の和紙職人の育成を進めています。

和紙職人 市村太樹さん
「手すき和紙に関わる人は少なくなってしまいましたけど、地域の伝統なので、しっかり
身につけて、守っていきたいと考えています」

和紙の魅力を海外へ 新たな需要を模索

こうした「地域の宝」に光を当てたいと考えたのが、埼玉県日高市に住む翻訳家の武蔵聖子さんです。10年ほど前に地元の特産品を海外に売り出すビジネスを考えていたときに、小川和紙と出会いました。

武蔵聖子さん
「他の和紙に比べたらあまり知名度がないけれど、これは誇るべき伝統工芸だし、だんだん伝統工芸が廃れていくなかで、何かできればと思いました」

小川和紙の知名度を上げて、その良さをアピールしようと考えた武蔵さん。7年前に英語のオンラインショップを開設して、海外での需要開拓に乗り出しました。

武蔵さんのオンラインショップ

すると、海外の芸術家から注文が寄せられるようになりました。絵の具やインクを乗せた際に鮮やかな色が出ることなどが、評価されていることに気づきました。

武蔵聖子さん
「紙の材質にこだわる人たち、発色にこだわる人たちがだんだん自然に集まってくる。特にアーティストの人たちは質のいい紙を求めているので、もっと知ってもらえれば、もっともっと需要が増えると思うんですね」

つながった芸術家 広がる愛好家の輪

武蔵さんはもっと小川和紙を使ってもらおうと、芸術家が集まる国内外のイベントにも足を運んでPRしてきました。そうしたなかで知り合ったのが、長野県軽井沢町に住むオーストラリア人の版画家、テリー・マッケーナさんです。

風景画などを制作しているテリーさんは、比較的近くで質のいい和紙が作られていることを初めて知りました。表面が滑らかで、細かなデザインも表現できることが気に入ったといいます。

テリー・マッケーナさん
「小川和紙を知らなかったので、最初、あまりにも上質なことに驚きました。本当に良い和紙で、間違いなく自分の作品に使えるし、使いたいと思いました」

丈夫さが特徴の小川和紙は何回も色刷りを重ねる版画に向いていると、テリーさんは好んで使っています。また、自身が開いている版画の体験教室でも、小川和紙を使うようになりました。

撮影 Uma Kinoshita

テリーさんの紹介で、ことし6月にはオーストラリアから芸術を学ぶ大学生たちが東秩父村を訪れ、紙すきを体験しました。

芸術家と職人の交流 産地の活性化へ

テリーさん自身もたびたび産地を訪れ、武蔵さんを通じて小川和紙に関わる人たちと交流を深めています。

自分の作品の魅力を高める和紙を見つけたいテリーさんは、この日、職人に、刷った際ににじみにくい加工を施した和紙がほしいと相談しました。

テリーさん

ずっと版画を作りやすくなります。※礬水(どうさ)を引くのは、紙を強くするためです。

和紙職人
市村さん

それだけ需要があるならやっていかないと。

(※礬水~にじみ止めの一種)

和紙職人 市村太樹さん
「実際に使っていただいている方なので、そういう方の意見を聞くのはすごく勉強になりますし、自分にもフィードバックして、よい和紙を作れるようになっていきたいです」

テリー・マッケーナさん
「木版画のアーティストにとって和紙は大切な素材なので、その作り手と関係を築けることはとてもいいことです。将来的には、和紙職人の方に『私の作品にぴったりな、この紙を作って』と相談できるような関係性を作っていきたいです」

武蔵聖子さん
「小さい地域なので、この和紙がどのように活用されて、どのようにありがたいと思ってもらっているのかとか、世界に目を向けていくことで、いま衰退している産業が新しい芽を吹いて新しい形で発展できたらと思います。この土地の和紙を愛してもらえる、そういうつながりが世界中に広がっていくといいなと思っています」

取材後記

海外に出向いて小川和紙をPRする武蔵さんの活動は、新型コロナの影響が収まったことで、10月から本格的に再開しています。また、小川和紙の産地に海外から芸術家や学生を受け入れる活動も増やしていく予定です。

武蔵さんは、照明器具やついたてといったデザイン性の高いインテリア製品などの分野でも、小川和紙の需要を広げていきたいと話しています。

海外からの視点によって改めて「発見」される日本の伝統産業の新たな魅力。産地に還元されることで、その文化への関心が国内でも高まる一助になることを期待したいと思います。

  • 藤井美沙紀

    NHKさいたま局記者

    藤井美沙紀

    2009年入局。さいたま市出身で、秋田局、国際部などを経て現職。 和紙でできたレターセットが子どもの頃から大好きです。

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