新年度が始まり、4月から小学生になった子どもたちも多いと思います。県内の通学路にはどのような危険が潜んでいるかご存じですか。
子どもが直面する課題などを考えるNHKさいたま「子どもプロジェクト」で、専門家をゲストに迎え、県内の危険な道路と子どもの安全を守るための対策について話を聞きまし
「ひるどき!さいたま~ず」2023年4月21日放送
番組では、埼玉大学大学院理工学研究科の久保田尚教授をゲストに迎え、話を聞きました。久保田教授は、交通工学が専門で、通学路や身近な生活道路の交通安全について研究を続けています。
危険な通学路について、ふじみ野市に住む視聴者の方からNHKに投稿が寄せられました。
ふじみ野市のとある道路は、朝、小学校の登校時には車の通行が規制されているスクールゾーンになっていますが、進入してくる車が後を絶たないといいます。
投稿内容
子どもたちはスクールゾーンを通り学校に向かって道を横断しますが、車を優先して渡っています。いつ事故が起きてもおかしくない状況です
現場を取材した海老原記者、なぜ車が進入してしまうんでしょうか?
通学路の300メートル東に幹線道路の国道254号線・川越街道が通っていますが、国道に合流する道路が毎朝渋滞します。これを避けようと、スクールゾーンが抜け道になっているんです。学校に通う子どもの保護者も、毎朝見守りを行っているんですが、改善にはつながっていません。
鉄道の路線がたくさん走っている埼玉県内ですが、久保田さん、車で通勤・通学する人の数というのもかなり多いですよね。
埼玉県は案外車社会なので、車で通勤される方、あるいは駅まで送迎をしようとする車、いろんなタイプの車が町中をいっぱい走っているというのが現状ですね。
やはり、子どもたちだけだと会話が楽しくなってしまって、周りの音とか車に気づかないということはよくありますよね。
危険な通学路は、ここだけではありません。この近くに、ふじみ野市が管理する道路があるんですが、幅が3メートルたらずしかありません。当然、この幅では歩道を確保することはできません。このため、子どもたちは、縁石に乗ったり道路脇のブロック塀に体をぴったりつけるようにしたりして車をよけているそうです。
さらに、その場所は、川越街道の抜け道になっていることに加え、ふじみ野駅にまっすぐ行ける道になっていて、混雑のもう1つの理由になっているそうです。
駅に行く車が多い、まっすぐ行ける道だからという話がありましたね。埼玉だから多いということなんでしょうか?
昭和40年くらいから、いわゆる高度経済成長期に入り、極めて急激な人口増加があったわけですね。例えば昭和45年から昭和50年までのたった5年間で県内で95万人増えたんです。家や学校をつくるのが大忙しで、幹線道路までなかなか手がまわらなかったというのが正直なところです。結果的に、住宅はいっぱい建ったけれども、道路がちゃんとしていないというのが根本的なベースとしてあるわけですね。
通勤圏がどんどん広がっていったというのがあるわけですね。ふじみ野市もそんな環境にあったんですか?
そうですね。基本的に、県内では、東京から放射状の道路が優先的につくられ、ふじみ野市でいうと国道254号線になります。それと平行してバイパスもつくられて、今も工事中ですけど、できている分もあると。問題は、東西方向の道路が全く不十分であるということです。鉄道も放射方向ですから、結局、駅に向かう道路がきちんとしていないということになっているわけですね。
○○バイパスというのが埼玉県は非常に多いですもんね。
そのとおりですね。問題は、その旧道とバイパスの間の東西方向の道がまだまだ貧弱であるということで、結局そこにある住宅地に抜け道として車が入ってくるということですね。
そうした中で、ふじみ野市は、さらに取り組みを進めている部分もあるんですね。
先ほど、ふじみ野市では登校時、保護者が見守っているとお伝えしましたが、下校時は人手が足らない保護者に代わって、町内会が見守り活動を行っています。さらに、学校や市などと協力して、通学路の危険な場所などをまとめた安全マップもつくって学校内に掲示しました。
地域一体となった動きもあるということなんですね。
そうなんです。スクールゾーンがある町内会の会長の田中誠一さんにも話を聞きました。
田中誠一さん
「道を広げるというわけにはいかないから、白線だけでも引いてくれというお願いだけしているんです。時間がかかると思うけど、子どもの安全・安心を守らなきゃいかんから」
町内会の会長が先頭に立って子どもたちの安全を考えてくれるというのは心強いですね。
実はですね、こういう方々が全国にいらっしゃいまして、毎朝、子どもたちの通学を見守っていただいているわけです。完全なボランティアで、雨の日も風の日も雪の日もやっていただいているので、こういう方々がいらっしゃらないと、もっと通学路は危険になっているんだと思いますね。
田中さんの話に出てきた白線のスペースは「路側帯」といいます。市によりますと車が通れる幅が確保されたうえでなければ「路側帯」を設けるのは難しいということでした。今回紹介したスクールゾーンも駅に通じる市道も、道幅が狭いため拡幅が必要になりますが、地域住民の合意も必要で、実現には時間がかかる見込みとなっています。
まちがどんどん大きくなっていく過程ですとか、古くからの住宅街だと難しいですよね。
例えば、都市計画で決定している道路ですらまだ全部は完成していないので、それ以外の道路を広げてほしいという希望があっても、かなり厳しいというのが現実だと思いますね。
そうはいっても、ふじみ野市の例でいうと町内会、それから地元の警察、さらに市が連携するという形はできていると言えるわけですよね?
そうですね。
久保田さんがリーダーとなって取り組んでいることがあるそうですね。
「通学路VisionZero(ビジョンゼロ)」を提唱しています。これは、交通事故で亡くなる人をゼロにしようというビジョンで、まず通学路からゼロにしようという運動をやっているんですね。一番大事なのは、住民やPTAの方、学校関係者、警察、市役所など、このことに関わる方に集まっていただいて、議論をしてできることをしっかりやっていただくことを提唱しているわけです。
久保田さんは、各地の町内会や地域をまわったり、ワークショップを開いたりする活動もされているんですよね。
その通りです。いろんなところで、今申し上げた形で集まって、みなさんでフラットな議論をしていただいて、良い答えを導くことができるように、ワークショップ形式で議論を重ねているところです。
そこに住む住民の熱意はそれぞれ濃淡がありそうですね。
それが大きいですね。やはり、みなさんが熱心であればあるほど実現に向かって到達しやすいですね。
久保田教授によると、狭い道を安全にするためには複数の対策があり、ほかの県で実践されている取り組みもあるといいます。
スピードを落としてもらう
時速30キロ以内であれば、万が一ひかれても命は助かる可能性も
物理的に車の進入を防ぐ
地中に埋め込んだポールが通行禁止時間帯に道路上に伸びる装置も
速度を落とす方法もいろいろありまして、2016年に国がガイドラインを作ってくれました。新しいツールも今後は検討していただきたいなと思っています。
海老原記者が取材したふじみ野市の現場でも人工的な障害物を置こうという話はあったんですか?
ふじみ野市の現場でも、道路の真ん中に人工的な障害物を置いて、車が通れないようにしようというアイディアもありましたが、毎朝、保護者や地域住民が対応するのは難しい、誰が置くのかということになりまして、この話も棚上げになりました。
子どもたちの通学路の安全を確保しようという意識をみなさんにもってもらうためには、どんなことを心がけたらいいんでしょうか。
これまでの通学路対策が2択だったんですね。1つは道路を広げる対応、2つ目は注意して走りなさいという看板を立てるんです。私が強調したいのは、3つ目の選択肢ができたということです。車の進入を防ぐポールなどのツールができましたので、地域のみなさんで議論していただくと前向きな結論が出やすいと思っています。
京都府亀岡市の事故ですとか、記憶に新しいところでは、千葉県八街市で子どもたちの列に車が突っ込んだという例もありましたね。そのつど、国からは通学路を点検するようにといった指示があったんでしょうか。
まさに亀岡の事故をきっかけに全国で通学路の点検というのがすべての学校で行われるようになったんですね。点検の結果、すべての問題のある場所で対策が終わったんです。ただ、数年後にもう1度再点検をしたら、またいっぱい危ないところが出た。対策をよくみると看板を立てたということなんです。これをいくら繰り返しても根本的な対策にはならないと思っていまして、第3の選択肢を含めた議論を各地域で強くお願いしたい。
最後に、痛ましい子どもの交通死亡事故を起こさないために久保田さんからメッセージはありますか?
子どもが外に出る時に「車に気をつけなさい」と言わなくていい社会を早くつくりたいというのが私の強い願望です。関係者のみなさんは同じ思いであると思いますので、その思いを共有していただいて、前に進めていただきたいというのが強い思いです。