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インドにシナモン香る狭山茶を 留学生のアイデアで商品開発

  • 2023年03月20日

海外での和食人気にあわせて日本茶の輸出は増加傾向です。
こうした中、埼玉県特産の狭山茶を、紅茶の産地・インドに売り込もうというプロジェクトが始まっています。商品化にはインド人留学生のアイデアが生かされました。

さいたま局 記者/藤井美沙紀

シナモン×ほうじ茶 狭山茶の試飲会

2月下旬、東京都・吉祥寺で、インド出身の人たちが集まって狭山茶の試飲会が開かれました。

「普通のほうじ茶もいいけど、このお茶も好きです」

「コップを近づけると、自然とお茶が香ってきますね」

カップの中はほうじ茶。シナモンの甘い香りが漂います。
シナモンの香りをつけた狭山茶のほうじ茶です。
インド人留学生、アビシェーク・グプタさんのアイデアで作られました。

アビシェーク・グプタさん
「お茶は私の趣味です。日本に来てから両親の次に恋しかったのが、お茶です」

留学生×伝統産業 知識や経験生かして海外販路を

狭山茶とインドを結びつけたのは、留学生を支援する東京の企業「YOMOYAMA」を設立した、鈴木豊史さんと坪井久人さんです。
母国ではエリートが多い留学生の知識や経験を、日本の伝統産業と結びつけて海外に売り込んでいこうと、新たな企業を立ち上げました。

プロジェクトの第1弾として選んだのが、狭山茶です。
狭山茶の魅力を海外に発信したいと考えていた入間市の茶農家・的場龍太郎さんと一緒に取り組むことになりました。

留学生支援する企業 YOMOYAMA 坪井久人さん
「留学生は非常に優秀な上に、わざわざ日本を選んで来ている人たちなので、日本の伝統産業に関わってもらえれば新しいものが生まれると思いました。企業が東京を拠点にしているので、狭山茶の生産地であれば足を運びやすかったというのもあります」

プロジェクトには、ブラジルやモンゴル、トルコなど6か国の留学生7人がインターンとして参加しました。
実際に的場さんの工房を訪れ、特徴や製法、生産者の思いなどを学びました。
その上で「自分の国で狭山茶を売る方法」を、それぞれ考えました。

インド人×狭山茶 アイデアを商品に

グプタさんはこのうちの1人で、8年前に来日し、東京大学大学院で太陽光発電などの研究をしています。
インドでは「チャイ」と呼ばれるミルクティーが一般的ですが、グプタさんは留学を機に、他の国のお茶にも興味を持つようになり、プロジェクトに参加しました。 

グプタさん
「日本で暮らすうちに、世界のお茶を飲むようになり、チャイ以外にもさまざまなお茶があると知りました。自分にとって、プロジェクトは素晴らしい機会でした」

インドではスパイスを入れたチャイがよく飲まれていることから、グプタさんは「シナモンで香りをつけたほうじ茶」を提案しました。

ほうじ茶の香ばしくすっきりとした味とシナモンの甘い香りが、インドの人たちに受け入れられやすいと考えたのです。
グプタさんは茶農家の的場さんたちと、味や香り、ばい煎の度合いなどについて、議論と試作を重ねた末、去年11月、商品が完成しました。

狭山茶農家 的場龍太郎さん
「日本人が感じているお茶の味と、海外の方が飲んだときの味の感じ方が違うのだなと思うと、やはりお茶の味とか香りというのも、常識とか、固定概念にとらわれずに、相手がどう感じているか、もう一度見つめ直すきっかけになっていると思います」

グプタさん
「狭山茶は葉が厚いので、おいしい味を引き出すのが難しい。でもそこが興味深いと思いました。これから先、他の場所へ行っても、日本でお茶を、『ジャパニーズ・インディアン』なものを作ったと語れます」

留学生×伝統産業 ほかの国にも展開を

完成した「シナモン香るほうじ茶」はオンラインで販売が始まっていて、今後は、インドでの本格的な販売に向けた準備を進めることにしています。
東京での試飲会では、インドの人たちからさまざまな意見が寄せられました。

「シナモンの香りは、すごくすっきりしていました」

「バランスをとらないといけません。ほうじ茶の風味が消えていて、シナモンが強いと感じます」

グプタさん
「お茶を改良したり、広く販売するための参考になるコメントをたくさんもらいました。今後も議論を重ねて、どんな改良ができるか検討していきたい」

プロジェクトでは、こうした留学生との連携を、和菓子や工芸品など、ほかの伝統産業にも広げようとしています。

留学生支援する企業 坪井久人さん
「留学生の方に日本のことをちゃんと体験してもらったりとか、理解してもらう機会を作っていければと思います。いろいろな可能性があるので、インドを深掘りしながら、ほかの国も試していく。そんな展開ができたら楽しいと思います」

留学生×日本のビジネス 活躍の場を

今回のプロジェクトは、留学生に協力してもらって海外に日本の伝統産業を売り込んでいこうというものですが、一方で「留学生に日本のビジネスを知ってもらう」というねらいもありました。

卒業後も日本で働くことを希望する留学生は多いものの、日本学生支援機構によりますと、日本国内で就職する割合は全体の30%程度にとどまっているということです。
ことばの問題や就職に関する情報の入手、さらに、一斉に企業の採用活動が行われる日本独特の就職活動などが、留学生の就職を難しくしているといいます。

グプタさんも日本で研究を続けたいと考えていますが、大学ではほとんど英語しか使っておらず、「日本語や、日本の就職活動の仕組みが十分に理解できていないことが、ハードルになっていると感じる」と話していました。

留学生支援する企業 鈴木豊史さん
「留学生にとってはインターンシップなどの機会も限られるため、少しでも日本のビジネスに触れて、今後に役立ててもらいたい」

取材後記

さまざまな相乗効果を狙って立ち上げられた、今回のプロジェクト。
ちょっとした工夫で、周りにいる人材とつながり、需要にこたえる魅力的な商品を生み出そうという視点に、将来性を感じました。
新たなビジネスチャンスが、日本の伝統産業にもたらされることに期待したいと思います。

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