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埼玉スタジアムに復興芝生 東日本大震災被災の宮城県で栽培

  • 2023年03月14日

国内有数のサッカースタジアム、埼玉スタジアムの芝生が約20年ぶりに新しくなりました。使われたのは、東日本大震災で被災した宮城県の農地で育った「復興芝生」です。

国内有数のサッカースタジアム 初めての芝生張り替え

さいたま市緑区にある埼玉スタジアムは、2002年のワールドカップ日韓大会のために建設された収容人数6万4000人あまりの日本最大のサッカー専用スタジアムです。
J1、浦和レッズのホームスタジアムで、Jリーグ公式戦や日本代表戦などが数多く開催されてきました。

しかし、オープンから20年以上がたち、ピッチは水はけが悪くなってきたうえに、たび重なる補修で平らでなくなり、芝生の状態も悪くなっていました。
このままでは選手がけがをするリスクもあるため、去年11月からオープン以来、初めてとなる芝生の張り替えなどの工事が行われました。

工事中の埼玉スタジアム(2022年12月)

工事は、はじめに、これまで使われていた芝生をすべてはがしました。
ピッチの下には、寒い時期には温水を、暑い時期には冷水を流して、芝生の育成に適した温度を維持するためのパイプが張り巡らされています。
この「地温コントロールシステム」をすべて新しくしたほか、均等に水をまくため、新たにピッチ内にもスプリンクラーを設置しました。

工事中の埼玉スタジアム(2022年12月)

芝生の張り替えを巡っては…

埼玉スタジアムの改修工事は、当初、1年前の2021年冬から2022年春に行われる予定でした。
しかし、日本サッカー協会が、その期間に行われるワールドカップカタール大会に向けたアジア最終予選の会場として使いたいと埼玉県に要望しました。
県はそれを受け入れて工事を1年延期し、2022年11月から翌年の2023年4月まで行われることになりました。

しかし、その後、浦和レッズが、アジアのサッカークラブの頂点を決めるACL=アジアチャンピオンズリーグの決勝に進んだことで、状況が変わります。
ACL決勝のホームゲームが延期後の工事期間中の、2023年2月に予定されていたからです。
レッズは、改修工事を再び変更するよう県に要望し、サポーターからもおよそ5万8000人分の署名が提出されました。

これに対し県は、再び変更すると、芝生の育成費用およそ1億5千万円や、工事の契約解除による損害賠償など多額の費用が生じるとレッズ側に回答。
レッズは「工期変更に要する費用がクラブで負担できる範囲を大幅に超えている」などとして、いったんは埼玉スタジアムでの開催を断念しました。

しかし、その後、大会を主催するAFC=アジアサッカー連盟が決勝の日程を2月から5月に変更。
結局、ACLの決勝は埼玉スタジアムで5月6日に開催されることになりました。

復興の象徴 東日本大震災の被災地で育てた「復興芝生」

埼玉スタジアムでは、ことし3月に入ってから新しい芝生を張る作業が行われました。
幅76センチ、長さ10メートルのロール状になった芝生がピッチに敷き詰められていきました。
この芝生は、東日本大震災の津波で被害を受けた宮城県山元町の農地で3年前から育てられた「復興芝生」です。

宮城県山元町

「復興芝生」は、震災からの復興の象徴にしようと、震災の翌年から地元の人たちが栽培を始めました。
津波で被害を受けたおよそ26ヘクタールの敷地で出荷先の要望に応じた芝を育てています。
2021年に東京オリンピック・サッカーの会場として使われた宮城県利府町の宮城スタジアムのほか、2019年のラグビーワールドカップの会場となった愛知県豊田市の豊田スタジアムにも使われています。

宮城県山元町で育てられた芝生

震災12年の前日に作業完了

震災から12年がたつ前日の3月10日、作業員が芝生をすきまや段差ができないよう手作業で丁寧に敷き詰め、埼玉スタジアムの芝生の張り替え作業は完了しました。

復興芝生を栽培する会社 大坪征一 社長
「感慨深いです。私だけではなく、作業員や陣頭指揮を取った人などみんなの汗と涙の結晶だと思います。選手に思う存分プレーしてもらい、私たちの努力が認められるような結果になれば、こんなにうれしいことはありません」

埼玉県公園スタジアム課 下川原優一 主幹
「思ったより天気も良く、工事は順調に進みました。これから20年以上使われる芝なので、被災された方の心の支えにもつながると思います。プレーの感動とともに、芝がしっかりとプレーを支えていることに感謝の念を持って、少しでも被災者の方の力になれたらと思います」

埼玉スタジアムのピッチに敷かれた「復興芝生」は、このあと1か月かけて水や肥料を与えて根付かせたあと、4月15日のJリーグ公式戦、浦和レッズ対コンサドーレ札幌の試合で初めて使われる予定です。

復興芝生を栽培する会社 大坪征一 社長
「現場で働いている人の中には、震災で自分の田畑が失われても復興のために何か手伝いたいと作業している人もいて、自分たちが育てた芝の上でプレーする選手を応援して涙を流す人もいます。これからも長く栽培を続けていきたいです」

スタジアムに足を運んだ際には、選手の気迫あふれるプレーだけでなく、そのプレーを足元から支える芝生にも、ぜひ注目してみてください。

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