NHKさいたま放送局では、子どもたちが直面する課題や困難について毎月ラジオで特集する「子どもプロジェクト」を展開しています。12月のテーマは「部活動の地域移行」。埼玉県ではどう進んでいるのでしょうか。県内の状況をよく知る2人をゲストに迎え、話を伺いました。2回に分けてお伝えします。
「ひるどき!さいたま~ず」 2022年12月16日放送
後左:アナウンサー/大野済也 後右:記者/永野麻衣
前左:JABA埼玉県野球協会/米田文彦常務理事 前右:埼玉県スポーツ協会/久保正美専務理事
平日に、学校の顧問の指導で行っている部活動について、休日は、地域のスポーツクラブなどで外部の指導者の元で行うという取り組みです。
長時間労働が問題になっている教員の働き方改革や、少子化で部員の数がそろわなくなっていることなどが背景にあり、国は、部活動を段階的に地域に移行する方針を示しています。
埼玉県では国のモデル事業として、令和3年度から白岡市とさいたま市、令和4年度から戸田市で試験的に実施されています。
今回は、部活動の地域移行に携わっている2人に話をお聞きしました。埼玉県の部活動地域移行推進委員会のコーディネーターで県スポーツ協会専務理事の久保正美さんと、さいたま市の中学校で指導者として派遣されているJABA埼玉県野球協会常務理事の米田文彦さんです。
部活動の地域移行は、教師にとっては負担が軽減され、子どもたちにとっては外部の指導者から競技の専門的な知識を得られるかもしれないということで、いいことずくめにも聞こえますが、久保さんはどう受け止めていますか。
部活動の地域移行の話は、現場にとってかなり突然な話でした。令和2年9月1日、学校の働き方改革を踏まえた部活動改革についてという事務連絡が都道府県や市町村に突然、通知がありました。
事務連絡だったんですね。
そうなんです。当時、私も埼玉県のスポーツ局に勤務しておりましたので、たいへん驚きました。学校や生徒、保護者など現場の声を聞かないままに、この方向性が示されたこと、その考え方の中心が教員の働き方改革、子どもが真ん中にいないなというようなことに大きな疑問をもったということです。
実は、令和4年6月には全国市長会からスポーツ庁に対して、課題が整理されないまま3年という期限を区切って地域移行を進めることに対し、懸念や心配の声が広がっているというような緊急意見書が提出されました。県内でも8月に市町村の教育委員会から県の教育委員会に要望書が提出されたところです。
米田さんは、さいたま市の公立中学校で令和3年から指導に入られているということですが、どうして始めようと思ったのですか。
もともとスポーツや勉強を通じた指導について興味があり、ネットで部活動の地域移行のことを知りました。これでスポーツ事業に貢献できると考え、私が所属する埼玉県野球協会で話し合い、ぜひやろうということになりました。そして、さいたま市教育委員会にお話をしたところ協力をいただけて、最初は、中学校5校の野球部に対して埼玉県野球協会から指導者を派遣したというのがきっかけです。
そのうちの1校について米田さんは指導者として行かれたということですね。
そうです。大宮国際中等教育学校の野球部に教えに行きました。
少し課題を整理して、この問題をみていこうと思います。地域移行を進めるにあたってまず課題となるのが、地域のスポーツクラブなど部活動を実際にしてくれる実施主体ですね。この受け皿の確保についてですが、久保さんはどのように見ていますか。
これまでの学校の部活動については学校の責任で実施をしています。地域のクラブ活動は、国のガイドラインによりますと、総合型地域スポーツクラブ、民間のスポーツクラブをはじめ、保護者会、同窓会が新たに設立する団体などが例にあがっています。それ以外にも市町村が主体となることも例示されておりますので、どんな団体でもよいということなんだと思います。
スポーツ少年団みたいなものも入ってくるんですか。
そうですね、スポーツ少年団も1つの受け皿として例にあげられていますね。
県内の運動部の部活動は一体、どのくらい活動しているんですか。
埼玉県内の中学校には約5500の運動部があります。約12万人の中学生が活動していて、地域移行の受け皿という意味からするとですね、さいたま市のような大きな都市部もありますけども、郡部、人口が減少しているようなところもありまして、なかなか受け皿となる団体やクラブ、あるいは指導者の方がいないという地域については、たいへん市町村が困っている状況かなと思います。
試験的に実施している自治体の指導者確保は
白岡市 令和3年度はPTAのOBなどでつくる団体に4か月間委託
令和4年度は民間企業に委託
戸田市 民間企業に委託
さいたま市 特定の団体に委託せず教育委員会が指導者を集めて研修 学校に派遣
自治体によっても進め方はさまざまなんですね。
学校教育からちょっと離れるというイメージですか。
ちょっと離れるじゃなくて、国が言っているのは、土日に行う地域クラブ活動、これは学校教育ではないと言い切ってます。実施主体となる団体については、学校教育ではない教育ですので、すべて、その責任をその団体が負うことになります。
そうすると責任も重くなりますね。
活動に必要な費用については原則、保護者の費用負担ということが国でも言われていて、そうすると、会費の集金や傷害保険、賠償責任保険などにも加入しなければいけなくて、それに加えて、どういう指導者に指導していただくか、指導者の選定、その方への研修、かなり大きな責任と業務があるととらえています。
部活動中にけがをしたらその時の保険はどうするのか、何か備品を壊してしまったらどうするのかという保険もあるということですね。
指導者として入った米田さんは、どんなことを学んで指導者として現場に入ったのですか。
さいたま市の場合ですが、市の教育委員会の担当者の方からオリエンテーションみたいな形で、例えば、子どもたちがけがをした時の対応の手順、その時に保護者にどうやって連絡するか、AEDの使い方と研修ですね。その時に、顧問の先生との顔合わせも最初にしますので、そうしたところの連絡のやりとり、校長先生の面接などを事前に行います。
さらに、さいたま市は「コーチング」という指導をうたっているんですが、具体的に言うと、子どもが自ら考えて進むようなところを指導として取り組ませるというような形で、その研修も事前に行いました。
さいたま市に関しては、指導員として手をあげる人はわりと多かったそうですね。
そうですね。野球5校については埼玉県野球協会で募集したのですが、すぐに5人は集まりました。
コーチングというのは、子どもたちとコミュニケーションをとりながら指導を進めていくんですよね。生徒たちの反応は最初はどのようで、どう変わっていきましたか。
まず信頼関係を子どもと築かないと会話にならないので、そこは強く意識をしました。子どもたちは、意外と指導者を見ているなというのが現場にいての強い実感なんですけど、この人がどういう指導をするのかなとか、自分のことを見てくれているのかなとか、子どもはけっこう見ているなという印象でした。そこはすごく気をつけながら、子どもたちと会話をして信頼関係を築くことを意識していました。
指導者をどう確保していけばいいのかという課題をみていきたいと思うんですが、米田さんの指導の様子について久保さんはどう感じましたか。
本当にすばらしいなと思いました。なんでわからないんだろうというような、コミュニケーションをとりながら指導をしている。本当に関心しました。
5人はすぐに集まったということは、野球、サッカー、バスケットボールあたり、いわばメジャーな種目ということになるんですけど、しかもさいたま市は都市部ですよね。そうでない場所で、競技としてはメジャーではないとなると指導者集めも大変ではないですか。
さいたま市でも野球以外の種目については少し集めるのに苦労があったと聞いていますけれど、郡部の中学校などにおいては、外部の方に指導してもらいたいと思ってもなかなか集まらないという声は聞いています。
野球以外についても指導者を集めたという米田さんはどうでしたか。
さいたま市スポーツ協会にお願いをさせていただいて、指導者を集めたんですが、バドミントン、陸上、バレーボール、剣道、ソフトボールなど、なかなか集まらなかったというのが実態でした。なんとか、最終的には集まったんですが、これをさいたま市内全部の運動部となると、これは大変だなということは実感しました。