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さいたま市ファミリーシップ制度 なぜ子どもに意思確認?

  • 2022年12月21日

「やっと息子と、家族と認めてもらえる」。
うれしくて、すぐに市役所の書類に目を通しました。
けれど、どうしても受け入れられない条件がありました。
証明書に名前を載せるため、毎年、子どもに意思を確認するよう求められたのです。
どうして、私たちだけ?

そう思った当事者が、今、声をあげています。

さいたま局記者 藤井美沙紀

同性カップルに生まれた子ども

取材に応じてくれたのは、さいたま市に住む同性カップルの、チエさん(56)とカオリさん(43)(いずれも仮名)です。
10年ほど前から一緒に暮らしています。
6年前には、カオリさんが知人の男性から精子提供をうけた末、待望の赤ちゃんを授かりました。

カオリさん

「かけがえのないものですよね。いることで3人のつながりだったり、そういうことを感じさせてくれることが本当にありがたい」

チエさん

「自分にとっては、親にさせてくれているというか、自分自身の人間力を高めてもらえている存在かなという思いはあります」

生まれた男の子は5歳になりましたが、チエさんとの間には戸籍上、親子関係がありません。

「例えば彼女(カオリさん)に何かが起きた場合は、戸籍上そういうつながりがないので、子どもを育てる監護権みたいなものが何もしなければ何もない」

家族関係を証明する「ファミリーシップ制度」

そんな2人が関心を持ったのが「ファミリーシップ制度」です。
性的マイノリティーの人たちのカップルなどを公的な関係と認める「パートナーシップ制度」をさらに一歩進め、一緒に暮らす子どもとの家族関係を証明する制度です。
法的な効力はありませんが、子どもを学校や保育園に迎えに行った際の引き渡しや、子どもが病気で病院にかかったときなどに、家族として周囲からの理解を得やすくなるとされています。
去年1月、兵庫県明石市でファミリーシップ制度が初めて導入され、その後、急速に全国に広がっています。

“家族と認めてほしい”けれど・・・

さいたま市役所

さいたま市も先月、「ファミリーシップ制度」を始めました。
パートナーシップの宣誓書の受領証に子どもの名前を記載する欄が設けられ、家族関係が認められることになったのです。

2人は、すぐに利用を検討しましたが、内容をみて戸惑いを感じました。
届け出を毎年行う必要があり、その際に子どもの意思の確認が必要とされていたからです。
ほかの家庭と同じように子どもに愛情をかけてきた2人には、受け入れがたかったといいます。

チエさん
「一般的な家族で『この家族でいいですか』と聞かないのに、なぜわれわれだけにこれを聞くんだろうか。『同性同士のカップルに育てられている子どもは嫌な気持ちになることが多いのではないか』という差別だと感じます」

なぜ子どもの意思確認 さいたま市は

さいたま市は、専門家とも協議したうえ、子どもの人権に配慮するため、里親制度も参考に子どもの意思を確認することにしたと説明しています。

さいたま市人権政策・男女共同参画課 新藤達也 課長
「成長するにあたってさまざまな人間関係が出てくるなかで、自分の家のこととか、お子さんもどうしてなんだろうとか、考えることは多くあると考えています。お子さんと一緒に話して絆が深まればいいなという期待もあって、年1回、そういう場を設けて届けてもらうことにしました」

「制度の改正を」市の担当者と意見交換 

12月中旬、チエさんたちは支援団体とともに、市の担当者と意見交換を行いました。
2人はこれまでも子どもに、家族の成り立ちについて理解できるよう努めてきました。
しかし、毎年、意思確認を行うことで、「自分の家族は普通ではない」と子どもが感じるのではないかという懸念を伝えました。

さいたま市のファミリーシップ制度は11月にスタートしてから、この時点で届け出をした人はいないということです。2人は、ほかの性的マイノリティーの人たちの声も伝え、同じような懸念を持っている人が多いと訴えました。

チエさん
「これから若い世代の人たちが、われわれと同じような子どもを持つ世代が、これじゃ申請しない方がいいと思わないように、同じ思いをしないような形に改正されていってほしい」

さいたま市人権政策・男女共同参画課 新藤達也 課長
「きょうの意見交換会を受けて、すぐに改正するとは今の段階では言えません。けれど、2度と変えないというわけではありません。制度全体を見直すタイミングは来ると思う」

専門家「新しい家族のあり方 国や都道府県でも検討を」

出典:みんなのパートナーシップ制度

支援団体などによりますと、性的マイノリティーのカップルなどの関係を認める「パートナーシップ制度」は全国で240以上の自治体で導入されています。さらに子どもとの関係を認める「ファミリーシップ制度」も、30を超える自治体で始まっているということです。

専門家は、さいたま市のファミリーシップ制度について、当事者から不満の声が上がっていること、そして、市が子どもの人権に配慮したとしていること、それぞれ理解できるとしています。そのうえで、新しい家族のあり方をどう位置づけるのか、国や都道府県といったレベルでも、議論を深めていくことが重要だとしています。

早稲田大学法学学術院 棚村政行 教授
「制度は全国的に広がりつつありますが、内容はさまざまで、自治体ごとに対応するには限界があります。子どもにとっても、当事者にとっても、利益になる仕組みを、きちんと国や広域自治体である都道府県が検討していくことが必要だと思います。当事者にも加わってもらって、議論と話し合いを繰り返し、どういう制度が一番いいだろうかということを考えていただきたい」

取材後記

取材を通じて印象的だったのは、当事者の家族も、さいたま市の担当者も、「子どもの思いに配慮してほしい」と訴えていたことです。
日本では、子どもがいて、性的マイノリティーであることを公にしている家族は少なく、子どもにどのような形で配慮するべきか、検討していくための事例も限られています。
また、こうした問題が、個別の自治体の判断に委ねられていることも、当事者にとっては納得しがたい理由の1つになっています。
専門家が指摘するように、今後、より大きな枠組みで議論が進み、性的マイノリティーの家族をめぐる制度が、誰にとっても受け入れられる内容になっていくことを、切に願います。

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