昨年の東京オリンピックではBMXと呼ばれる自転車に乗りアクロバチックな技を競うBMXフリースタイルが正式種目になり、注目を集めました。
一方、2014年の北京オリンピックから開催されていたBMXの競技があります。BMXレーシングです。こぶやカーブのあるコースを駆け抜け、順位を争うこの競技は、その激しさから「自転車の格闘技」と呼ばれています。
このBMXレーシングで世界を目指す、埼玉県本庄市の小学6年生、澤田茉奈さん。ことし行われた世界大会の年代別種目で優勝しました。オリンピックでの金メダルを目指す姿を取材しました。
さいたま放送局秩父支局/目崎和正
本庄市の小学校に通う澤田茉奈選手。ことし行われたBMX世界大会の年代別の種目で優勝。
さらに、国内で行われた公認レース7戦に出場し、すべて優勝しました。
武器は、力強いペダリング。こぶではスピードに乗ったジャンプで相手選手を引き離します。
目指すのはオリンピックの舞台です。
「金メダルを取れるようにレースで1位を取り続けたい」
澤田さんがBMXを始めたのは5歳の時。2人の兄たちと参加した体験会がきっかけでした。澤田さんのきょうだいがBMXに出会った当時、まだ国内での競技の認知度は低く、指導を受けられる機会も多くはありませんでした。
澤田さんきょうだいの指導をしてきたのは、母親の暢子さんと、父親の充弘さんです。
2人とも、BMXは初心者。本やインターネットで勉強した知識をもとに、子どもたちにアドバイスをします。
放課後の練習は母親の暢子さんが、土日のレース場での練習では父親の充弘さんが、それぞれコーチとなって子どもたちを指導しています。
「茉奈は物覚えが良い方ではないから反復練習が欠かせないんです。きょうだいのなかでは、家に帰ってからも、自転車に乗っている時間が一番長い」
時には厳しい指導にも応えてきた澤田さん。母親の暢子さんは、指導を通して子どもたちの成長も感じているといいます。
「これまではやっぱり私たちが言ったことをやっていたんですが、最近は初めての会場でも『ここ跳べそうだから、跳んでみる』と自分から言うようになりました。チャレンジしてみたいと言ってくれるようになったのはすごくうれしいですね。世界大会に行ったりして、私たちも知らない世界を見せてもらっています。ありがたいですね」
澤田さんは、さらなるレベルアップを目指し、ことしからは専門的なトレーニングも取り入れました。現在は年代別のレースに出場していますが、17歳からは年上の世代にまじって、戦っていかなければなりません。
将来をみすえて、週に1回、トレーナーの指導を受けるため群馬県高崎市に通っています。バーベルやトレーニングマシンを使い、競技に必要な筋力をつけ、基礎体力を高めます。
通い続けて4か月、トレーナーの加田健二郎さんは、澤田さんの前向きな姿勢を評価します。
「レースのためならどんなつらいことでもやり抜こうという前向きな姿勢を崩さない子ですね。表情にはあまり出ませんが、練習であれだけ乗っているのに、いつも自転車をさわり続けている。行動を見ていると、本当に自転車が好きなことが伝わります」
大切にしているのは、故障しない体づくり。まだ成長途中である体に負担をかけすぎず、弱点を克服するためのトレーニングを行います。
「踏み込む力がまだまだ足りていないので、今は体幹の強化に努めています」
10月後半の週末。澤田さんは家族で、茨城県ひたちなか市のレース場にいました。3週間後に、ここで行われる国内大会の今シーズンの最終戦に向けて、練習するためです。
澤田さんがこのコースのポイントと考えていたのが、2つ目のカーブを曲がった先にある大きなこぶでのジャンプでした。
昨年、澤田さんは練習中に、このこぶでのジャンプに失敗し、肩の骨を骨折していたのです。
何度も、カーブでの走行から、こぶのジャンプを練習しますが、当初、ジャンプに勢いが足りません。転倒を恐れ、ふみきりのスピードが足りませんでした。父親の充弘さんがしったします。
「こいで、こいで!前に。もっと遠くまで跳ぼうと思わないと。ギリギリを跳ぼうとしてはダメだ」
カーブを抜けたところにある連続したこぶ。最初のこぶをジャンプで飛び越える際に、スピードが足りないと、次のこぶの上に落ち、うまく着地できず、転倒してしまいます。
着地地点が次のこぶを飛び越えたところになるよう、長いジャンプが必要となるのです。このためには、スピード、踏み切るタイミングの技術、そして最後は跳びきる勇気が試されます。
澤田さんは何度も練習を繰り返した末、ようやく感触がつかめてきたようでした。
「きょう練習したジャンプをレース中に跳んで、できるだけ他の選手をひき離してトップでゴールしたい」
11月6日、国内公認レースの最終戦が行われました。
女子11歳・12歳のクラスに出場した澤田さんは午前中に行われた予選の3レースをすべて1位で通過し、午後の決勝に進みました。
しかし、この予選での走りでは、父親の充弘さんは、重要なポイントのこぶでのジャンプのスピードが、まだ足りないと感じていました。「今シーズン最高の走りをしてこい」、父親からの激励を胸に、澤田さんは決勝のレースに臨みました。
そして、決勝のレース澤田さんはいつものようにスタートから抜け出しました。
そして課題のこぶの手前ではさらに加速してジャンプ。距離のあるジャンプで見事に2つめのこぶも跳び越えました。後続をひき離し、トップでゴールしました。
表彰式では、全日本BMX連盟の年間優秀賞も獲得し、澤田選手は2つのトロフィーを抱え、笑顔を見せていました。
「ジャンプを跳びきる事が目標だったので、それが達成できて良かったです」
表彰式の後、澤田さんは食べたいものとして「あそこに売っているイチゴ飴とクレープが食べたい」と話し、小学生らしい一面をのぞかせていました。