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メタバースで不登校児を支援 その狙いは 埼玉・戸田市

  • 2022年10月19日

全国で年々増え続ける、子どもたちの不登校。
コロナ禍で、人との交流が少なくなったことなどが背景にあるとされています。
そうしたなか、埼玉県戸田市は、インターネット上の仮想空間=メタバースを活用した新たな対策を始めることになりました。
「メタバース登校」とも呼ばれる、その内容とは?そして、狙いとは?
取り組みの最前線を追うと、意外な効果も見えてきました。

さいたま局/藤井美沙紀

注目の“メタバース登校”とは?

不登校の小中学生への“学習支援”が行われているという、東京の認定NPO法人の事務所です。

明るく整理されていますが、部屋のなかには大人しかいません…。それもそのはず、子どもたちがいるのは、ネット上の仮想空間、「メタバース」です。

画像提供:認定NPO法人カタリバ

パソコンの画面をのぞくと、テレビゲームのような世界が広がっています。そのキャラクター1人1人が、どこかに実在する子どもたちや講師のスタッフの分身「アバター」です。

アバターをどんなデザインにするかは、色や形を組み合わせて300通り以上のパターンから決められます。連れて歩くペットも選べます。なかには、ドローンなんて斬新な選択肢も。

子どもはこのアバターを使って、メタバースの世界にある、教室や会議室、それにリビングルームなどを、好きなように行き来することができます。
この、アバターで教室に入ると…。

画像提供:認定NPO法人カタリバ

オンライン通話が始まり、スタッフや、他の子どもたちとやりとりしながら、学習することができます。

内容は、国語・算数といった基礎科目からプログラミングまで多岐にわたっています。形式は、グループワークが多く、子どもたちが元気よく発表する声が行き交います。

その様子はさながら、未来の教室。ただ、画面にうつるメタバースの世界は、一昔前のロールプレイングゲームのような、大人には多少なつかしい気持ちも想起させます。 

戸田市「家に留まる子にも居場所を」

このサービスに注目したのが、埼玉県戸田市です。

校舎内に設けられた不登校児専用の部屋「ぱれっとルーム」

学校のなかに不登校児専用の部屋を設けるなど、これまでも対策に力を入れてきました。
しかし一方で、学校や市の教育委員会の施設に来られない子どもたちのことは、なかなか把握できずにいました。

戸田市立新曽小学校 加藤貴嗣 校長
「家族以外とは会いたくないというお子さんもいたりするんですね。学校からの手が、なかなかうまくつながらない」

家に留まる子どもたちに、どうしたら居場所を提供し、つながることができるのか。
戸田市は、メタバースでの学習支援に可能性を見いだしました。
この秋から、校長が認めれば、メタバースでの活動を出席扱いにすることにしたのです。

戸田市立教育センター 杉森雅之 所長
「学びに触れるとか、人間関係を作るというところにすごく大きな意味を感じています。
将来の社会的自立につながっていけばいいなという風に考えています」

東京の認定NPO法人が提供するこちらのサービス。1年前に始まったばかりですが、利用者は現在、自治体から紹介のあった人を中心に、全国ですでに90人を超えています。
また、戸田市の他にも、試行段階のものを含め、5つの自治体と連携を進めているということです。
団体では認知度を高め、自治体との連携をさらに広げたいとしています。

認定NPO法人カタリバ オンライン不登校支援プログラム 瀬川知孝さん
「楽しそうにしている子どもたちの姿を見て『やっと居場所が見つかった』と喜んでくださる方もいます。メタバースを活用した不登校児支援が、当たり前の選択肢として、今後広がっていったらいいなと思っています」

使い心地は?“すいちゃん”にきいてみた

広がりを見せる、メタバースでの学習支援。

すでにサービスを利用している子どもたちは、その使い心地をどう感じているのでしょうか?
千葉県の小学5年生に話をきくことができました。

千葉県の小学5年生“すいちゃん”

メタバースの世界での名前は“すいちゃん”。本人が自分で決めました。
水色や、水の中の生き物が好きで、「水」という漢字の音読みからとったそうです。
すいちゃんは、人が多い場所が苦手で、2年前から学校には行っていませんが、メタバースは安心して利用できるといいます。

すいちゃん
「オンラインなので、密集しているという、不思議な感覚がなくて。気軽におしゃべりできたり、気軽にきけたり、そういうのが、私の思う学校とメタバースの違い」

父親によりますと、すいちゃんは以前は受け身で、一日中ネット上の動画などを見てぼんやり過ごしていたといいます。
父親はメタバースでの学習支援を受けるようになって変わったと話しています。

父親とすいちゃん

すいちゃんの父親
「自分で考えるとか、自分で動くとか、ちゃんと何か自分の気持ちを伝えるとか。そういったことは、メタバースでの学習支援をうけて身についてきたことではないかなと」

さらに、すいちゃんへのインタビューを進めると、意外な効果もあることが分かってきました。メタバースで交流のある友達と実際に会ってみたいか、それともオンラインのままのほうがいいか、聞いたときです。
すいちゃんは、「どっちとも思っていて」と前置きした上で、こう話してくれました。

すいちゃん
「仲良くなって、実際に会って、いろんな遊びをしたり、たとえばオンラインではできない鬼ごっことか、オンラインではできないいろんなことをして遊びたいなと思います」

すいちゃんは他にも、メタバースで知り合った友達には、好きなアイドルなどの“推し”がいる人がたくさんいて、とても印象的だと話してくれました。

その様子からは、メタバースの世界のその先にいる、現実の友達への関心や興味を高めていることが伺えました。

効果的な指導へ「緊密な連携が不可欠」

新型コロナウイルスの流行で、オンライン通話を活用した学習は、この1、2年ほどで子どもたちにとっても身近なものになりました。
そうしたなか、なぜ今、メタバースでの学習が注目されているのでしょうか。
不登校児の支援対策に詳しい専門家は、メタバースでのサービスが広がる背景に、仮想空間をほかの人と共有できる安心感があるのではと指摘します。 

東北大学教育学部 後藤武俊 准教授
「通常のオンライン授業だと、目的を達成したらお互いに顔を見続けているのが不自然な感じになります。けれども、メタバースで自分のアバターをどこか好きなところに置いておくと、何もしていなくても、他の人と同じ空間を共有している感覚が得られるのではないかと思います」

その上で、効果的な指導につなげるためには、行政と支援団体との緊密な連携が不可欠だと話します。

東北大学教育学部 後藤武俊 准教授
「不登校になったきっかけや、改善が見られたタイミングなど、履歴をきちんと積み上げていく。そして、学校に戻れるようだったら、学校の先生がそれを踏まえて指導できるようにするとか、つどつど対応を検討していく。情報の管理は公的なところでしっかり行っていくことが大切です」

戸田市は、このサービスを活用する際には、子ども1人1人にあった支援計画や実施報告書をNPOに提出してもらうことで、効果的な支援につなげたいとしています。
また、こうしたメタバースでの学習支援をきっかけに、まずは不登校の子どもたちに、周りの人たちとつながる一歩を踏み出してもらいたい。その上で、最終的には社会的な自立を促していきたいとしています。

取材後記

授業は学校の教室で受けるものでしたが、新型コロナウイルスの流行を経て、大きく様変わりし、今、新たな選択肢が生まれています。
1人でも多くの不登校の子どもたちが、自分にあった“学びの場”を見つけられるよう、そして、社会とつながるきっかけを得られるよう、願います。 

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