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男性警察官の育休増加 新たな効果も生む埼玉県警の支援制度

  • 2022年10月03日

“男性の育休取得率を3年後までに30%に”
政府のこの目標を、埼玉県警は独自の支援制度を取り入れたことですでにクリア。さらに、新たな効果も生まれているといいます。

(さいたま局 記者/小野匠哉)

激務の警察官がイクメンに

埼玉県内の警察署に勤務する近江陽一郎巡査部長(33)は、ことし7月に長女が生まれるのに合わせて、2か月の育休を取得しました。

近江 巡査部長
「かわいいですよよね。自分の分身が小さくなって生まれてきて、泣いたりもするんですけど、おむつを取り替えたりお風呂に入れたりした時に、気持ちよさそうな顔をして、『いーっ』て笑うんですよ」

近江さんは、刑事課で殺人事件や児童虐待などの捜査に当たってきました。刑事の仕事は長時間勤務もある“激務”です。24時間、犯罪の発生に備え、気持ちが休まる暇も無かったと言います。

近江 巡査部長
「不眠不休で休む暇もなく、ごはんを食べる時間もないくらい忙しい日もあったんですね。育休はどこかちょっと申し訳ないなという気持ちもあったんですけども」

そんな近江さんが、なぜ育休を取ることができたのでしょうか。

独自の支援制度で育休急増

その理由が、警察署に勤務する男性警察官を対象に、去年10月に導入された支援制度です。

支援制度のチラシ

これまで警察署の男性警察官が育児休業を取得した場合、そのまま欠員が出ていました。

男性の多くは取得する期間が1か月ほどと短く、人事異動での調整が難しかったのです。職場に遠慮し、育休を希望しづらい状況になっていました。そこで、新たに本部から警察署に応援を派遣する仕組みを作りました。

警察署は、欠員を出さずに済むため、子どもを持つ男性警察官の育休の取得が増加。今年度は、7月の時点で30%を超え、前の年度の同じ時期より10ポイント近く上回りました。政府が、男性の取得率を3年後までに全国で30%とする目標を掲げる中、埼玉県警は早くも到達したことになります。埼玉県警では、この制度が始まる前も上司から育休を勧める取り組みをしていたため、年々増えてはいましたが、さらに促進された形です。

心おきなく育休に

育休を取ろうか悩んだ近江さんも、この支援制度があることを知りました。上司も快く後押しをしてくれたそうです。

近江 巡査部長
「上司は『おおいいじゃん取れ取れ』、『逆に今この時期ちゃんと奥さんを支えてやれ』、それはお前しかできないから、こっちのことは気にしなくていいから』と言ってくれました」

育休のおかげで育児に全力投球できるようになった近江さんは、長女の夜泣きで睡眠不足の妻が日中に休めるようミルク作りやおむつの交換、それに料理など、家事全般をこなします。

一緒に子育てを経験することで妻が何に困っているか、どんなことをしてほしいのか体で覚えたといいます。一方、妻の芽衣さんは、初めての子育てで不安も多い中、夫の存在は大きいと言います。

妻 芽衣さん
「すごく助かってます。不安になった時とかにすぐに相談できたりとか、育休を取ってもらってよかったです」

近江 巡査部長
「生まれたばかりの自分の子どもが成長していく姿を見られるのは一生のうちでも今しかない。育児に100%向き合える環境をいただけていることは本当にありがたい」

支援制度は人材育成にも

支援制度は人材育成にもつながっています。近江さんが不在となった警察署のようすを見てみましょう。
警察署には、近江さんが育休を取ったことで、本部からパトロール専門の警察官が派遣されていました。警察署の警察官とペアを組み、パトロールする際のコツなど専門知識を指導していました。

手前が本部から応援にきた黒澤巡査部長
黒澤
巡査部長

コンビニやディスカウントショップとか不自然にぽつんと止まっていたり、出入り口から離れて止まっていたりする車は声をかけてみよう

警察署の警察官にとって、スキルを向上させる良い機会になっていました。

「着眼点など、我々のよく気づけない場所を教えていただけるので非常に勉強になる」

効果は、これだけにとどまりません。この制度の特徴は、本部からの応援が、パトロールを行う地域課に派遣されることです。

これにより、地域課は1人増えます。

増えた分は、玉突きで欠員が出た課を穴埋めします。

今回は、近江さんが所属する刑事課に地域課の警察官が配属されました。近江さんの代わりに刑事課で勤務している轟巡査長です。

轟巡査長は、過去に刑事の経験がありますが、ブランクの間に仕事の進め方が変わっていたため、刺激になっているといいます。

轟慎也 巡査長
「ふだんできない仕事をやらせてもらえるので今後の自分の糧になる」

埼玉県警は、警察署の警察官に普段と違う職場で働いてもらうことで、2つの効果を狙っています。1つは、経験したことのない部署の仕事に触れることで、早いうちに適性を判断できることです。もう1つは、あらかじめ経験を積んでおくことで、その後の人事異動で正式に配属になった場合、即戦力としての活躍が期待できることです。
近江さんの上司は、この制度に可能性を感じているといいます。

近江さんの上司 池田昇平  刑事課長代理
「警察署全体の負担が軽減されるのは大きなポイントです。付加価値として、スキルアップにつながる非常にいい施策だなと実感しています」

制度の改善と意識改革で育休促進を

制度の導入から1年たち、利用する男性警察官も増えていますが、応援を出す本部の要員にも限りがあるため、希望に応じられないケースもあったということです。このため、ことしの秋の人事異動で、派遣元となるパトロール専門の部署「自動車警ら隊」の警察官を増員したということです。さらに、より利用しやすくなるよう、本部の支援が受けられる育休の条件を、原則2か月以上から1か月に緩和したということです。
こうした改善を図る一方で、警察署ごとに取得率に偏りがあるほか、「仕事が最優先だ」などと育休に対して否定的な意見もあり、意識改革が必要だということです。

埼玉県警察本部警務課 落合勇太 課長補佐
「育休の必要性を職員全員がまだ認識できていないのが現状です。より制度を使いやすくし、育休を取るのが当たり前の雰囲気になるよう取り組んでいきたい」

改善の余地が残されているものの、支援制度がうまく機能しはじめた埼玉県警。欠員のカバーと人材育成を組み合わせたこの取り組みは、日本で育休が広がるヒントになるかもしれません。

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