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訪問診療・介護現場の暴力やハラスメントどう防ぐ 埼玉県

  • 2022年09月22日

“利用者や家族などから暴力やハラスメントを受けた”埼玉県が、在宅医療や介護に従事する人たちに行ったアンケート調査で、回答した人の半数がそう答えました。現場の実態と対策を取材しました。

(さいたま局 記者/永野麻衣)

信頼関係で成り立つ現場

さいたま市の訪問看護ステーションの所長で看護師の平井直子さんは、自宅での療養を希望する利用者の看護にあたっています。

取材したこの日は、市内の80代の男性を訪ね、健康状態をチェックしていました。

利用者の男性
「病院にいると、なんか囲まれているような気がするんだよね。それなら、自分で気楽にのほほんとしていた方がいいかなと。その分、自宅に来てくれる看護師さんに世話になっているけど、看護師さんは『それが私たちの仕事ですから』と言ってくれるから安心しているんですよ。ありがたいことです」

平井さんは、利用者や家族の価値観などを理解し、時間をかけて信頼関係を築くよう心がけていて、自宅で利用者に寄り添う訪問看護にやりがいを感じています。

一方で、苦労もあるといいます。平井さんは、1人で訪問することが多いうえ密室での看護になりやすく、安全面で不安を抱えています。
過去には行った先で暴言を浴びせられたこともあるということです。

平井さん
「人と人なので、うまくコミュニケーションがはかれなかったりとか、自分を受け入れてもらえないという場面は必ずあるんですね。同じようにお伝えしても受け止め方は人それぞれで、理解していただけなくて暴言を受けたこともありますし、少し身の危険を感じる経験は正直ありました」

「暴力やハラスメントあった」アンケートで半数が回答

埼玉県内では、ことし1月にふじみ野市で訪問診療のため女性の住宅を訪れた医師が、息子に散弾銃で殺害され、2人がけがをする人質立てこもり事件が起きました。警察によりますと、息子は医師など7人を呼び出し、死後1日以上が経過した母親に心臓マッサージをするよう求めたものの、蘇生できないと説明され、散弾銃で立て続けに襲ったということです。
この事件を受けて、県は、ことし3月から7月にかけてインターネットを通じてアンケート調査を行い、県内の医師や看護師、ホームヘルパーなど、あわせて665人から回答がありました。

その結果、過去に患者や利用者、家族などから暴力やハラスメントを受けた経験があると回答したのは337人と、50.7%にのぼりました。内容を複数回答でたずねたところ、次のようになりました。

・脅迫を含む精神的な暴力 73.3%
・セクシュアルハラスメント 39.5%
・身体的な暴力 28.2%

具体的に、次のようなケースがあったということです。

・物でたたかれた
・胸ぐらをつかまれた
・唾を吐かれた
・髪の毛を引っ張られた
・包丁で威圧された
・利用料の請求をめぐり家族から恫喝された
・性的な話をされた

暴力やハラスメントを受けた相手は、複数回答で、患者や利用者が76%と最も多く、家族が40.1%でした。
また、暴力により生命の危険を感じたことがあると答えた人も11.3%にのぼりました。

深刻な実態が明らかになりましたが、一方で、今回のアンケートは患者や利用者の半数が暴力やハラスメントを行っていたことを表すものではないという点に注意が必要です。

包丁で頭にけが

訪問先で危害を受けた経験をしたという人に話を聞くことができました。大畑みえ子さんは、病院で看護師長などを務めたあと、訪問看護師として5年ほど在宅医療に携わりました。

当時、認知症の男性の利用者が病院に行くことになり、医師の指示で付き添おうとしたときのことです。男性の妻が「女と一緒に出かけるのね」と怒り出し、男性と口論の末、台所から包丁を持ち出しました。とっさに止めに入った大畑さんは頭を切られ、軽いけがをしたということです。

利用者との信頼関係を築けば築くほど家族から思わぬ感情を抱かれてしまうこともある。大畑さんは、対応の難しさを感じたといいます。

大畑さん
「利用者に入り込みすぎず、かといって離れすぎないようにする、適切な距離感が難しいと感じます。1人で対応が厳しいときは2人で訪問したり最悪の場合は訪問しないという判断をしたりしないと看護師を守ることはできないと思います」

暴力やハラスメントどう防ぐ

現場からは、対策の強化を求める声があがっています。

平井直子さんが所長を務める、さいたま市の訪問看護ステーションでは、あらかじめ利用者に対して、ハラスメントなどの背信行為があった場合は、自分たちの側から契約の解除ができることを説明するようにしています。また、随時スタッフの相談を受けるようにしているほか、状況を見て複数で訪問したり、訪問するメンバーを入れ替えたりしてチームで対応するようにしているということです。また、平井さん自身、訪問先では、玄関の鍵をかけないようにしているほか、入り口に近い方に座るようにしているということですが、対策の強化の必要性を訴えています。

平井さん
「暴力やハラスメントをどういうふうに防止したらいいか、みんなで考えていく必要があります。世の中に、ハラスメントは許されないという風潮が浸透してほしいと思います」

県も対策に乗り出す

県も対策に乗り出すことにしています。
県は、ふじみ野市の事件やアンケート調査などの結果を受けて、在宅医療や介護に従事する人たちの安全確保に向けた対策を進める考えを明らかにしました。具体的には、暴力やハラスメントに関する専用の相談窓口を設置するほか、警備会社と契約したり複数で訪問したりするための経費を補助することにしています。

大野知事
「ふじみ野市で極めて痛ましい事件が起きたことは痛恨の極みだ。アンケートをとり、在宅医療や介護の従事者全体に対して安全対策を講じなければならないと痛感した。可能なかぎり、すべてのハラスメントをなくし人の命が奪われることがないようにしていきたい」

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