こちらの紅茶。作ったのは埼玉県立狭山工業高校の生徒たちです。狭山茶の産地として知られる埼玉県狭山市の高校生たちが、海外でも評価される質の高い紅茶を目指しています。
でも、なぜ農業高校ではなく工業高校が紅茶を作るのでしょうか。
(さいたま放送局所沢支局 高本純一)
狭山工業高校では、5年前から電子機械科の3年生が「課題研究」の授業で紅茶作りに取り組んでいて、茶摘みから加工、パック詰めまで行っています。
いま目指しているのはフランス・パリで行われる日本茶のコンクール「ジャパニーズ・ティー・セレクション・パリ」での入賞です。
フランス人の舌に合うような紅茶を作りたいです。さらに、みんなにもおいしいと思ってもらえるような紅茶を作りたいです
紅茶作りは最初はいまいちピンときませんでしたが、やってみると楽しいので、いまはとても楽しく取り組んでいます
狭山工業高校はことし4月で創立60年。即戦力として活躍する技術者を育成してきましたが、近年は定員割れが続いています。
工業高校が紅茶作りに取り組む狙いについて、指導する原嶌茂樹教諭は学校の魅力を高めることだといいます。
原嶌茂樹 教諭
「工業高校でも、こういった変わったことに取り組んでいるということで、目を向けてもらいたいと思っています。さらに農業も工業につながっていることを生徒たちにわかってもらって、地元を盛り上げていきたいと思っています」
狭山工業高校は地元で「狭工」と呼ばれています。
狭工が作る紅茶なので「狭紅茶」と名付けました。
ことしの紅茶作りは5月から始まりました。地元農家の協力で、生徒たちは近くの県立入間わかくさ高等特別支援学校の生徒とともに、およそ7キロの新茶を収穫しました。
茶農家 横田貴弘さん
「工業高校生が農業、お茶と関わってくれることをうれしく思っています。狭山工業高校の知名度はもちろん、狭山茶の知名度も上げられたらいいなと思って取り組んでいます。紅茶は香りが重要視されるので、香り高い、色も美しい紅茶を作ってもらいたいと思っています」
収穫した茶葉を紅茶にするには、乾燥や発酵などの過程を経ます。ここに工業高校ならではの技が生かされています。
摘み取った茶葉は、その日のうちに乾燥させながら萎(しお)れさせます。この「萎凋(いちょう)」という工程に使われる装置は生徒の手作りです。
一晩かけて風を送り続けますが、まんべんなく風が当たるよう工夫をしているといいます。
生徒
「風をこの板に当てて、まんべんなく風がいくように調整していますが、その微調整が結構難しい。後ろの方に風はきましたが手前に風がこなくなったので、中に入っている板自体を手前に動かしたところです」
翌日には、この茶葉をていねいに手もみします。このあとの発酵を促すための過程です。
茶農家の横田さんから指導を受けながらていねいに手もみしました。
手もみを終えた茶葉は発酵させる機械へ入れます。この機械も生徒たちが作りました。温度と湿度を一定にすることで茶葉の発酵を促します。
発酵機にはコンピューターで温度と湿度を自動制御するプログラムを設定しています。
温度28度、湿度100%に近い状態で茶葉を発酵させ、香りを引き出します。
生徒
「温度が低ければヒーターがついて、温度が高くなったら自動で制御されてファンが回って温度を下げる機械になります」
茶葉の状態を確認しながら発酵機から取り出すタイミングを見計らいます。
この日は1時間半ほど発酵させました。
発酵機から取り出すと紅茶独特の香りが教室中に広がりました。
すげぇ!ちゃんと紅茶の香り
フランスのコンクールには、おととしから出品し、去年は入賞まであと一歩でした。
初の入賞へ、ことしの紅茶に期待がかかっています。
できたばかりの紅茶は、地元の商店街のイベントで地元の人たちに味わってもらいました。
あたたかいと、より香りが伝わってくるような気がします
すごくいい香りだし、色もいい色ですね。おいしかった
新狭山北口商店会 田口博章会長
「おいしいです。大変誇りに思います。狭山茶を広めてもらうという意味でも、地元の高校生が勉強して、加工機を開発していて、とてもいい取り組みだと思います」
自分たちで作った紅茶なので、『おいしい』という声を聞くことができて、本当にうれしいです
みんなで作ってよかったなと思いました。自分でも大変飲みやすい紅茶だと思っています
原嶌茂樹 教諭
「多くの人から、『おいしい』という声や、『こんな紅茶があるんですね』と驚いてもらい、うれしく思いますし、楽しさを感じています。ぜひ多くの人にこの楽しさを分けて楽しい学校にしていきたいと思います。また、紅茶はすばらしいものができましたので、フランスのコンクールではぜひ入賞目指したいと思います」
日本茶の消費は減少傾向が続いています。狭山茶の産地では、香りや味を際立たせたティーバッグを開発したり、消費者に茶畑を訪れてもらうための取り組みを進めたり、なんとかお茶に親しんでもらおうと、さまざまな試みが行われています。フランスでのコンクールは10月から審査が始まります。「狭紅茶」が入賞すれば狭山茶の知名度も上がり、注目してもらうきっかけになるかもしれません。
発酵機から出した時に教室中に広がった香りは格別でした。コンクールでのよい結果を期待したいと思います。