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おしゃれをバリアフリーに 埼玉県上尾市

  • 2022年03月07日

目の不自由な人にもおしゃれを楽しんでほしいー。埼玉県上尾市の佐藤優子さんは、視覚障害者向けの出張型のネイルサロンを4年前に始めました。「おしゃれは障害者の社会進出を手助けする」と話す佐藤さんの取り組みを岩崎愛キャスターが取材しました。

「綺麗に(爪が)伸びていますね」

先月、佐藤さんが訪れたのは、東京・新宿区に住む塩屋さん(86歳)の自宅です。塩屋さんは、40代の頃から、病気のため徐々に視力が失われ、目が全く見えなくなりました。視覚障害者向けのイベントで佐藤さんと知り合ったのをきっかけに、1か月に1回、ネイルを楽しんでいます。

塩屋さんは、最近、出かけた場所やその日の服装などの話をしながら、佐藤さんとネイルの色やデザインを決め、爪にマニキュアを施してもらいました。「自分がおしゃれになっていくと感じることで気分が高まっていくんです」と塩屋さんは嬉しそうに話してくれました。

「外出するときでも張りが出ますよね。指先を動かすのがとても楽しみです。皆さんとお話をしていても、いろいろ言ってくださる方が多いので会話も弾みます。この間も駅の窓口で切符を出したときに、駅員から“爪がきれいですね”と言われたんです。」(塩屋さん)

佐藤さんが出張サロンを始めたのは、高齢者向けの介護施設でのネイルのボランティアがきっかけでした。お年寄りがマニュキュアを喜ぶ姿を見て、おしゃれは年齢や身体に障害があるなしに関係なく、すべての人を幸せにすると感じたのです。

「そもそも目が見えない人がなぜネイルをするのってよく聞かれるんですが、確かに健常者と呼ばれる人からすれば、不思議なことだと思うんですね。でも、おしゃれをしたいと思っている視覚障害者の方は本当にたくさんいらっしゃるので、そういう疑問が持たれることのない社会にしたいなって思ったんです。」(佐藤さん)

声で届けるファッション雑誌

視覚障害者におしゃれをより身近に感じてもらおうと、佐藤さんが始めたもう1つの取り組みが、ファッション雑誌を声で読み上げる“音声番組”です。20代~60代の女性向けのあわせて10の雑誌の内容をみずから録音して週に2回、配信しています。

目の不自由な人は、自分が着ている服の色やデザイン、それに、サイズのフィット感が他人にどんな印象を与えるのかわからないため、ファッションにこだわることが億劫になりがちです。なかには自分で服を選ぶのをあきらめて、店のマネキンが着ているコーディネート一式をまとめて購入する人もいると言います。

佐藤さんは単に雑誌の文章を読み上げるのではなく、視覚障害者がイメージしやすいようにさまざまな工夫をしています。例えば、雑誌の表紙を飾るモデルの年齢やプロフィールを丁寧に説明することで、この雑誌がどんな年代のどんなタイプの女性をターゲットにしているのか具体的に伝えるようにしています。また、服のデザインは、目の不自由な人が日常生活で触れたことがあるものに例えて表現するなど、あの手この手で、流行の洋服や髪型、アクセサリーの情報を発信しています。

「実はファッションや身だしなみは、社会に出ていくにはとても必要な部分なんですね。会社に行けば、同僚や上司、取引先がいますし、出かける場所や状況によって服装を合わせることが、まずは入り口になります。でも、視覚障害者の方は目で見て確認できないので、そういった見本にできる部分をなんとか伝えてあげたいなと思って始めました。」(佐藤さん)

おしゃれで雇用の創出も

佐藤さんは、目が不自由な人の仕事の選択肢も広げたいと考えています。全盲の中野萌絵香さんはおしゃれが大好きな大学4年生です。目の不自由な人の強みである“指先の感覚”を活かし、クラフトバンドと呼ばれる紙でできた紐でアクセサリーや籠を作って販売することを佐藤さんに提案しました。

先月、都内の商業施設で作品の販売会を開いたところ、2日間で24個、あわせて25000円以上を売り上げることができました。中野さんは「今は100円ショップでなんでも気軽に買える時代ですけれど、私たちの手作りの籠を喜んでくださるお客さまがたくさんいたので、やってよかったと思いました」と話してくれました。

「視覚障害者の仕事の選択肢はすごく少ないので、まずは、目が見えないからできないとか、目が見えないから必要ないという社会の固定観念や先入観を取り除くことが、新たな可能性を広げることに繋がると思っています。私たちが仕組みをつくったり、工夫したりすることで、視覚障害があってもいろいろな仕事ができる、販売の仕事ができるんだということを知ってほしいなと思っています。」(佐藤さん)

キャスターからひと言

佐藤さんの視覚障害者向けの出張型のネイルサロンは、コロナ禍の今でも毎月10件程度の予約が入るそうです。佐藤さんとコミュニケーションをとりながら自分のイメージどおりのネイルを心の中で思い描いている方たちの表情が、とても印象的でした。

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