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終末期患者 “最後”の願いをかなえる

  • 2022年01月11日

もし、余命があとわずかと宣告されたら、あなたならどこへ行きたいですか?
さいたま市には、ターミナルケアを受けている患者を希望する場所へ車で送迎するボランティア活動を続けている団体があります。
(さいたま放送局キャスター 岩﨑 愛)

2年ぶりの再会

「お母さん、みっちゃんだよ。覚えている? みっちゃんが来たよ」

東京・新宿区に住む江口美千子さん(61歳)です。今月3日、静岡県東伊豆町の熱川温泉病院に入院している母親のサカヱさん(88歳)と2年ぶりの面会を果たしました。江口さんは、去年、胃癌が見つかり、余命わずかと宣告されていました。病気になる前は、夫の徹さんと一緒に毎月、母親のもとを訪ねていたといいます。

新型コロナウイルス感染防止のため、面会できる時間は20分しかありません。母親のサカヱさんは、パーキンソン病のため、ほとんど寝たきりの状態です。それでも美千子さんの呼びかけに、うっすらと目を開けて応えました。

「最後になるかどうかはわからないけれど、こうした機会を妻に与えることができて、本当によかったと思います。」病室の外で妻を出迎えた夫の徹さんはこう話しました。「なかなか母親に会えなかったから、会うことで妻が元気になってくれればいいと思います。」

願いのくるま

美千子さんの願いをかなえたのは、さいたま市中央区にある一般社団法人「願いのくるま」です。美千子さんのために介護用のタクシーをチャーターし、看護師も同乗して、移動中の体調管理を行いました。また、面会の手配や主治医の許可などもボランティアで行っています。スタッフのきめ細かいフォローのおかげで、美千子さんは東京から静岡まで往復8時間ほどの長旅を無事、終えることができました。

「願いのくるま」は、事故や災害で損害を受けた車などの買い取りを行っている企業の「タウ」が運営しています。ヨーロッパには終末期の患者の願いをかなえるボランティアがいることを知った名誉会長の原田眞さんが、日本でも同じような活動を広げたいと4年前に立ち上げました。これまで41人の患者の願いをかなえました。

「私たちのビジネスの裏には、心を痛めたりや経済的な損失を被ったりした方がたくさんいらっしゃいます。終末期の患者の願いをかなえる活動に携わることができれば、社員みんながより優しい心になれるんじゃないかという気がして、是非、やりたいと思うようになりました。」
(原田さん)

活動に携わるメンバーは現在7人、普段は会社で広報や販売などの仕事をしています。なかには、この活動を知って転職してきた看護師の女性もいます。また、メンバー以外の社員でも、希望すれば参加することができます。社内では活動に備えてAEDの講習も行われています。

広報部に所属する臺麻理紗さんは「願いのくるま」が立ち上がったときからのメンバーです。自宅で一緒に過ごしてきた祖父を介護してきた経験から、活動の趣旨に共感して参加しました。

「利用者一人一人にドラマがあって、その素晴らしい瞬間に立ち会える喜びが、やりがいになっています。今まで一度も大変だと思ったことはないですね。」
(臺さん)

“最後の願い”

美千子さんは母親と面会した6日後に家族にみとられながら亡くなりました。夫の徹さんによると、美千子さんは帰宅後、2,3日は疲れがたまっているようでしたが、最後となった旅の様子を娘に楽し気に話していたと言います。

「まさか、こんなに早く亡くなるとは思っていなかったので、『願いのくるま』のおかげで母親に会うことができて本当によかったです。スタッフの皆さまには感謝の気持ちしかありません。旅から帰って以来、食事がとれない日が続いてましたが、亡くなる前、妻が大好きなショートケーキを半分食べて喜んでくれた姿が今でも忘れられません。」
(徹さん)

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