「1日15分以上のウォーキングのあと牛乳をごくり」
これだけで熱中症になりにくい体になるってご存じですか?カギは、体内の熱を外に逃がすために必要な血液の量を増やすこと。いったいどういうことなのでしょうか。専門家に聞きました。
教えてくださるのは、高齢者の健康づくりを研究し続けている信州大学医学部の能勢博 特任教授です。
能勢博 特任教授
「熱中症にかかりやすい人は、体の中でできる熱を外に逃しにくい人。皮膚の血流を増やしたり、汗をたくさんかいたりすることで、熱を体の外に逃がせるのですが、そのメカニズムが衰えると熱中症になりやすくなります」
大事なのは、汗をかきやすい体をつくって体の熱を外に逃がすこと。そのカギを握っているのが血液の量なんです。
「汗腺は血液を材料にして汗を作ります。汗腺にたくさんの血液がいけばいくほど汗をかきやすい。血液量が多い人は体温調節が非常に優れていると言うことになります。逆に血液の量が少ないと、汗腺に汗をかく材料を与えることができないため、熱中症になりやすくなります」
そこで先生が勧める血液量を増やす方法は…?
「ややきつい運動をしたあとに、コップ1~2杯の牛乳を飲む」
ややきつい運動と言っても、早歩きでウォーキングする程度でOK。
通勤や通学・お買い物時間などを利用するのもおすすめです。汗ばむ程度の早歩きで1日15分以上歩くのが目安です。先生によるとバスに乗り遅れまいと早足でバス停に向かうくらいの早さとのこと!
能勢博 特任教授
「ややきつい運動をすると肝臓の中で血液を増やしたいというメカニズムが働き始めます」
もともと肝臓は血液を作り出すのに不可欠なアルブミンを合成して血管に放出しています。運動をして汗をかくと、肝臓は、減ってしまった血液を増やそうと、急ピッチでアルブミンの合成を始めます。この時、アルブミンを合成するたんぱく質が必要になるのです。
そのたんぱく質を補給するのに最適なのが牛乳です。
運動後30分がアルブミン合成が活発になるゴールデンタイム。このタイミングで飲むのがおすすめです。牛乳以外でも、チーズ・ヨーグルトなどを糖分と一緒に摂取すれば、同じ効果が得られます。目安は、乳たんぱく質10g・糖質20g~30gです。
すると、アルブミンの量が飛躍的にアップして、血液量が増えるそうなんです。
先生の実験によると、これを週に4日、2週間以上続けると血液量は若い人で200ml、高齢者でも100ml増加します。
それにより、汗のかきやすさを示す「発汗速度」が大幅に上昇。体温調節の機能が向上して熱中症になりにくい体になるという結果が出ています。
実際に能勢先生の指導のもと、この「運動+牛乳」を続けている方にうかがってみました。
始めて2年になります。以前は運動もあまりしなくて、汗をかくこともありませんでした。汗をかくようになってからは50代の頃よりも体が軽く、肌つやも良くなりました。
続けて4年です。暑い日は1日に2度下着を替えることもあるほど汗をかくようになりました。健康診断も全く異常なし。むしろ以前より良くなっていますよ。
能勢博 特任教授
「熱中症予防のためにスポーツドリンクを飲みなさいとよく言われると思います。これはいわば “守り” の対策。ややきつい運動のあと牛乳を飲むことは、熱中症に強い体を作る “攻め” の予防法なんです。コロナで外出しづらいとは思いますが、公園などのオープンスペースでウォーキングをして、そのあとに牛乳をコップ一杯飲んでもらうことでずいぶん効果がありますので、ぜひやっていただきたいと思います」
ふだん、運動をしていない人や、体力に自信のない人は、15分以上歩き続けるのではなく、途中でゆっくり歩く時間を挟むなど、無理のない運動をしてください。