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川崎 工場夜景にコロナ禍での希望を見いだす家族

  • 2021年1月25日

夕闇を走る遊覧船の手すりから身を乗り出す女の子、視線の先にはモクモクと煙を上げる工場の姿があります。「約束の川崎工場夜景」と名付けられたこの写真、ウィズコロナの新しい生活の中にあっても気持ちが上向きになる写真とエピソードを紹介していくNHKのキャンペーン「#見上げてごらん」に寄せられた1枚です。写真の背景にいったいどんな約束があったのでしょうか。送ってくれたご家族にリモート取材でお話を聞きました。
(横浜局/勝田真季)

工場夜景を家族で見つめる幸せ

この写真を投稿してくれたのは、川崎市の中西真希さんです。夫の雅樹さんと3人のお子さんの5人で暮らしています。京浜工業地帯の製鉄所で働いているという雅樹さん。家族の工場夜景好きは雅樹さんの影響かと思いきや、最初にとりこになったのは真希さんだったそうです。

中西さん一家 右から母・真希さん 長男・功樹(こうき)君(9)
長女・まつりちゃん(7) 次男・橙里(とうり)君(5) 父・雅樹さん

川崎市で生まれ育ち、地元が大好きな真希さん。市内の観光スポットめぐりをよくしていましたが、京浜工業地帯のことは、街の産業であることしか知りませんでした。しかし子どもが生まれると、臨海部の公園に出かけるようになります。5年ほど前から散歩がてら、子どもたちと近所の工場夜景を見に行くようになり、次第にその美しさにひかれていったといいます。夕暮れ時にともる明かりを見ながら、夫の雅樹さんがそこから見える自分の勤め先のことを子どもたちに話すひとときがとても幸せな時間に感じられ、今では「いい工場夜景スポットがある」と聞けば、家族を連れて自転車などで見に行くほどです。

中でも、真希さんにとって特別の楽しみは、工場夜景を屋形船で楽しむツアーに参加することです。

屋形船から見た川崎の工場夜景(写真提供:川崎市)

屋形船に乗ると、工場が近くから眺められるのでより迫力があること、そして何より、「実際の工場夜景と川面に映る夜景の明かりとで輝きを2倍楽しめる!」ことが魅力なのだそうです。年に2回は乗りに行き、季節による表情の違いも楽しんでいます。冬は空気が澄んで、いちばんおすすめとのことです。ただ、この船は小学生以下は乗船できないため、真希さんだけの楽しみになっていました。

長男が屋形船を体験

この屋形船で楽しむ工場夜景ツアーが家族の行事となったのは2年前のこと。小学校に入学し、乗船できる年齢になった長男・功樹君を、夏休みの自由研究につながればと、誘ったのがきっかけでした。

はじめての屋形船 スタッフのはんてんを借りてポーズ

その夏の自由研究として功樹君が作ったのが、ペットボトルと粘土を使った石油工場の模型です。屋形船から自分で撮った写真とともに提出しました。「(図工は苦手だけど)これは結構いい出来だと思う!」と功樹くん。3年生になったいまも、修正を加えながら大事に飾っています。

功樹君がいまも大切にしている
手づくりの石油工場の模型

それ以来、真希さんとたびたび屋形船に乗るようになった功樹くんのことをうらやましがったのが妹のまつりちゃんです。
「私も行きたい」
でも、乗船の条件は小学生以上。
「1年生になったらまつりも行こうね」
それが親子の約束になりました。

いつになったら船に乗れるの?

ところが、まつりちゃんが幼稚園卒業を間近に控えた去年3月、国内で新型コロナウイルスの感染が広がります。
卒園式も小学校の入学式も規模を縮小して行われたものの、その後の緊急事態宣言で学校は休校になりました。6月にようやく登校できるようになりましたが、放課後はほとんど自宅で過ごし、友達と遊ぶことも、家族で出かけることもめっきり減ってしまいます。

3密の回避が求められ、屋形船の運行も当面の間、中止となりました。
家で過ごすまつりちゃんに「いつになったら行けるの?」と聞かれても、真希さんは答えることができませんでした。

真希さん
「感染が拡大して、約束をかなえてあげることができなかった。いつまでこういう感じなのかなって考えていました」

この光はなくならない 工場夜景に励まされる日々

そうした不安定な日々の中でも、散歩で見る工場夜景の明かりは変わらずともり続けていました。
「コロナで仕事を失う人も多い中、自分は恵まれている」
高炉で働く夫の雅樹さんは、日々現場に向かっていきます。コロナの前も後も、止まることなく動き続ける工場。そこには、どこかの誰かのために働き続ける人たちがいる。真希さんは、何度も見てきた工場夜景の美しさの中に、力強さを感じるようになったといいます。

真希さん
「自分に対しても頑張れって言ってくれるような明かりだなと思ったので、今までよりもすごく強い印象を感じました。この光はなくならないから、また(ツアーが)再開されたら行こうねって」

念願の夜景に出会えた娘は

小学校への入学から7か月が経ちました。
まつりちゃんは、11月になってようやく、父が働く工場の夜景を船から見ることができました。

この日、水面を渡る風は冷たかったにもかかわらず、何度も何度もデッキに出ては、うれしそうに工場夜景を眺めていたそうです。

真希さん
「(新型コロナの影響で)今までと違う形で始まった娘の小学校生活を、工場の光が導いてくれるような、すごく希望にあふれているような気がしました。これから子どもたちの未来が、明るくあってほしいなと思います」

船から見た工場をクレヨンで描くまつりちゃん

はじめてのツアーを終え、「今度 お友達と乗るとき、あそこがパパの会社だよって教えてあげたい」と話したまつりちゃん。ようやく果たせた「工場夜景の約束」です。

いつか全員で 家族の新しい約束

今も、感染対策から、自宅で過ごすことの多い中西さん一家。しかし、当初抱えていた大きな不安はありません。子どもたちはそれぞれ家での楽しみ方を見つけて過ごしています。長男の功樹くんは、漢字検定や算数検定に挑戦。まつりちゃんたちも、それぞれワークブックなどに取り組んでいます。家族で過ごす時間も増えました。たこ焼き器を買って、家族で一緒にたこ焼きを作ったり、シューマイを作ったり…新たに出来た楽しみです。

そんな中西さん一家の今の夢を聞いてみると…
「家族全員で屋形船に乗りたい!」
意外にも、家族全員で乗ったことはまだないそうです。というのも、幼稚園に通う橙里君が参加できないので、ツアーの日は夫の雅樹さんとふたりでお留守番なのだとか。

次の夢がかなうのは橙里君が小学生になる1年後

製鉄所で働く雅樹さんは、これまで工場夜景を ”夜間作業に手元を明るくする照明” でしかないと思っていたそうですが、「ツアーで工場夜景を見たら、心境が変わるかな?」と楽しみにしている様子です。

新型コロナの影響で、生活が一変した方は多いと思います。そうした中でも、前向きに過ごす中西さん一家を、川崎のシンボル、工場夜景が支えていました。

  • 勝田真季

    横浜局 ディレクター

    勝田真季

    生まれも育ちも川崎市で、川崎の話題には熱が入りがち。3歳の息子と市内の公園めぐりをするのが趣味。今回の取材相手・中西真希さんに教えてもらった“工場夜景が一望できる公園”に、いつか行ってみたい。

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