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元なでしこジャパン・永里優季 男子チーム移籍に込めた思いとは?

  • 2020年10月13日

先月10日、サッカー女子・元日本代表の永里優季選手の入団会見が行われました。今回、永里選手が移籍したのは、出身地の厚木市にある神奈川県2部の男子クラブチーム「はやぶさイレブン」です。 日本サッカー協会によると、プロの女子サッカー選手が男子のチームに登録されるのは、今回が初めてのことです。なぜ移籍を決断したのか、その背景を聞きました。

(首都圏局/半田紗英子ディレクター)

男子チームというよりも「より高いレベル」にチャレンジしたい

Q:男子チームでプレーしたいという思いは、いつ頃からあったのでしょうか。

A:ちょうど10年ぐらい前に海外へ移籍していろいろな国でプレーすることで、世界のレベルを知っていって、もっと高いレベルってどこだろう、というふうに考えるようになりました。そうなってくるとやっぱり、男子の中でやるということかな、と。女子よりフィジカルスピードが速い中で、自分がどれだけできるのか試せる場がそこぐらいしか思いつかなかったので。具体的に考え始めたのは、本当に5~6年くらい前からです。


Q:5~6年前から意識されていたのですね。では、なぜこのタイミングでの移籍を決断したのでしょうか。

A:一番は、コロナで(所属していた)アメリカのリーグがすごく短い期間で終わってしまって。どこか安全な場所、あまりコロナの影響を受けないところでプレーしたいなと思って、今回、地元の厚木でプレーしていく選択をしました。(はやぶさイレブンに)兄がいたので、このタイミングで男子にチャレンジしてみるのもありかなと思って提案させていただきました。本当にいろんなタイミングが重なったおかげで、この決断をすることができたなと思います。

海外での経験を通じて見つけた新しい選択肢

Q:永里選手は、自身のSNSやYouTubeでも「女子選手の置かれた環境を変えなくてはならない」とメッセージを発信されていますが、幼少期から女子選手の環境の悪さを感じる瞬間はあったのでしょうか。

A:中学校に上がったら、男子と女子は分かれるというのが当たり前の認識でした。「それが当然の流れ」というふうに育ってきたので、そこに対して違和感や疑問を持つことはありませんでした。

でも、海外でさまざまな価値観に触れていく中で、いろいろなことの壁があまりない文化に触れるようになっていって…。もちろん生物学的な差があるので、どうしても(男女を)分けなくてはならない部分もあるとは思うのですが、本当にその壁を超えられるような選手なら男性の中でプレーしてもいいんじゃないか、というふうに思えるようになっていきました。


Q:「本当にその壁を超えられるような選手」とは具体的にはどのような選手なのでしょうか。

A:なんだろう…。どうしても多くの人が、フィジカル面での差というものにフォーカスしがちだと思うんです。でも、いろいろな世界を見て、女子サッカー選手でも男子より技術であったり、判断力であったり、戦術的な部分ですごくレベルの高い選手っていうのはいると感じました。そういった部分で、男子の中で勝負できる能力を持つ選手って世界でもっとたくさんいると思うんですよ。世界の選手たちの場合は、男子の中でやるっていう選択をしていないだけで。
わたしはただ単純に、自分を試してみたいという思いで男子の中でやることを選んでいるので、本当に選択肢の一つだとしか捉えていません。


Q:試合において、永里選手自身はどのように“戦える”とお考えですか。

A:(男子の)試合を何試合か見て、この激しいフィジカルコンタクトの中、スピードも速い中で、どうやって自分の良さを出していけばいいんだろうという部分は、今、すごくイメージしています。彼らにあって私にないものもあるし、私にあって彼らにないものもたぶんあると思いますし。
そこは、ジェンダーという差で見るのではなく一つの多様性として見て、チームとして補っていく。私自身がそういうスタンスでこのチームにいることがまずベースにあって、チームメイトの彼らがそれを受け入れてくれれば、お互いに学びあって刺激しあって、チームにとってプラスになるものが生まれていくんじゃないかというふうには考えています。

コロナをきっかけに“アスリートの価値”について考えさせられた

Q:永里さんが今回の挑戦をすることの意味は何なんでしょうか。

A:スポーツ選手っていうのは勝ち負けを提供できるだけではなくて、それ以外の価値を提供していかないといけないと私は思っています。(そうしないと)ここから先、スポーツの価値はどんどん下がっていってしまうんじゃないかなと。

(今回のコロナ感染拡大で)やっぱり最初に活動を休止させられたのが、スポーツやエンタメ業界の人たちだったと思うんです。その期間で、わたし自身もプレーすること以外で価値を提供していかなければいけない時間を2か月間ぐらい過ごして…。すごく考えさせられた時期でした。

サッカー人生があったから、今の自分自身の価値が出来上がっています。けれども、その価値を自分のものだけにしておくのかと言ったら、それはきっとスポーツ選手の価値ではないと思うんです。スポーツ選手がやってきたことはたぶん誰しもが経験できることではないですし、いろいろな方に「感動をもらった」「勇気をもらった」と言ってもらえることだけが私たちの仕事ではないですから。

これはスポーツ選手に限らずすべての人に言えることだと思いますが、それぞれの選手(人)が「自分が社会に何を貢献できるか」、もっと考えていかないといけないと思います。そういったところで(自分が)価値を提供できる、していけるっていうのも実感として湧いたので。

だから、これからはスポーツや競技だけをやるのではなく2本でも3本でもいろんな軸で動いていくことがすごく求められてくるのかなって。他の分野で自分が活動していくことで自分の幅も広げていけますし、やっぱり引退した後のキャリアの方が長いので。

女子サッカー界も、社会も変わっていく必要がある

Q:今回の挑戦が、どのような影響を及ぼすことを期待されていますか。

A:まだまだ女性が、男性社会で実力を認められて活躍していく場は少ないです。やりたいことができるのが男性しかいない場所で、挑戦をできない人もたくさんいると思います。そういった方たちに向けて届けたいという思いはあります。

今回の移籍は、クラブ(はやぶさイレブン)が私の挑戦を受け入れてくれたこともあって実現しました。まだまだ日本でもそうですし、世界的に見ても、社会や会社がチャレンジを積極的に受け入れて、やりたいことに挑戦させてあげる、実現させてあげるという多様性の部分はまだまだ足りないところだと思います。
サッカーで言ったら、女子が男子の中でプレーすることが認められていない国もあったりして、そうした中で、苦しんでいる女子選手もいるので、この動き(移籍)がきっかけとなって、世界のそういった環境も変わっていけばいいなというふうには思っています。


Q:サッカー界の、というよりは社会全体へ向けた思いの方が強いのでしょうか。

A:両方あります。女子サッカーも、もっともっとレベルアップをしていってほしいです。あとは今、男の子の中で頑張っている女の子たちに、なでしこリーグや海外を目指す選手がいてもいいですし、もう一つの選択肢として、自分が育った地域(の男子チーム)でプレーできる機会があってもいいよね、というところはひとつメッセージとして残せる部分であると思います。

Q:今回の移籍の先に見据えているものはありますか。

A:この移籍は始まったばかりですし、まだ私自身も現在地をわかっていない状況なので、次のことはなかなか具体的にイメージしづらい段階です。自分には何ができて、何ができなくてというところを知っていくと、たぶん、次にできることが見えてくると思うので、まずは目の前のこと、短期的にできることにフォーカスを当てていくことが必要かなと思っています。

インタビューを終えて

なぜ、男子チームに移籍するのか。永里選手に話を聞いて感じたのは、「自分の実力ならもっとレベルの高い環境で戦える」「自分の可能性を試したい」というまっすぐな思いが、性別の壁を越えた挑戦の起爆剤になっているということです。
純粋に、恐れずに、より高い環境を求めてやまない永里選手の挑戦から、男女間の格差が大きいといわれる日本のスポーツ界や現代社会が変わっていく可能性を感じました。

動画

  • 半田紗英子

    首都圏局

    半田紗英子

    2020年入局の新人ディレクター。ジェンダー問題に関心あり。

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