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  • 2024年5月15日

先生の給与 上乗せ分を月給の10%以上引き上げ方針 勤務間インターバルも 東京都内の小学校は…

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教員の給与のあり方や働き方改革を議論してきた文部科学省の中教審の特別部会。

残業代を支払わない代わりに支給する上乗せ分を月給の4%から10%以上に引き上げることなどを提言する審議結果をまとめました。また、新たに11時間の「勤務間インターバル」の導入も盛り込まれました。

働き方改革に取り組んできた東京都内の小学校では、給与の上乗せ分を月給の10%以上に引き上げる提言に歓迎の声も聞かれた一方、さらなる業務の削減が必要だという声が聞かれました。

「働き方改革・処遇改善」審議結果まとまる

文部科学省の中教審=中央教育審議会の特別部会は、去年6月から教員の働き方改革や処遇改善を議論していて、5月13日に審議結果をまとめました。

この中では、公立学校の教員の給与について、「給特法」という法律で残業代を支払わない代わりに支給されている上乗せ分を、50年余り前の月の残業時間およそ8時間分に相当する月給の4%から、少なくとも10%以上に引き上げるべきだとしています。

これには「給特法」の改正が必要で、仮に10%であれば追加の公費負担は2100億円となるということですが、実現すれば半世紀ぶりの引き上げとなります。

一方、“定額働かせ放題”とも言われてきた、勤務時間に応じた残業代が支払われない枠組みは残るため、先月、素案が示された際も教員などから長時間労働の抑制につながらないとして、抜本的見直しを求める声もあがっていました。

こうした中、13日のまとめには教員の健康確保策として11時間を目安とした「勤務間インターバル」の導入が新たに盛り込まれました。勤務の終業から次の始業までのインターバルを守るため、自宅への業務の持ち帰りを避けることも求めています。

このほか▽「教諭」と「主幹教諭」の間に「教諭」より給与の高い中堅ポストを創設することや、▽学級担任への手当の加算や管理職手当の改善をすること、▽教科担任制を現在の小学5、6年生から3、4年生に広げることや、▽支援スタッフの配置の充実も素案どおり提言しています。

13日の「審議のまとめ」を受け、文部科学省は、今後具体的な取り組みを検討することにしていますが、長時間労働の解消をどう実現していくかが課題となります。

「審議のまとめ」 その詳細は…

今回の「審議のまとめ」には、教員の働き方改革や処遇改善について、さまざまな内容が盛り込まれました。

~教員の働き方改革は~
働き方改革については目標を設定すべきだとした上で、▼残業時間が「過労死ライン」と言われる月80時間を超える教員をゼロにすることを最優先とし、▼全ての教員が、国が残業の上限としている月45時間以内となることを目標として、▼将来的には残業時間の平均が月20時間程度になることを目指し、それ以降も見直しを継続すべきだとしています。

また、▼校長など管理職が働き方改革に向けてマネジメント能力を発揮することや、そのための管理職のサポート体制の整備が重要だとしているほか、▼取り組みには教育委員会や学校の間で差があるとして、業務量や改善に向けた進捗状況をすべての教育委員会が公表する仕組みの検討が必要だとしています。加えて▽学校と保護者間の連絡手段を原則としてデジタル化することもあげています。

~学校の体制の充実は~
指導や運営の体制については、▼ほとんどの教科を1人で教えている小学校の学級担任の受け持ち授業数を減らすため、教科ごとに専門の教員が指導する「教科担任制」を現在の小学5、6年生から3、4年生にも広げるとしています。

▼また新卒の教員は学級担任ではなく教科担任にするなどして若手を支援する例もあるとし、いずれも教員の定数改善が必要だとしています。

ほかにも、▼急増する不登校の児童や生徒をきめ細かく支援するため、生徒指導専任の教員や養護教諭の配置の充実のほか、▼教員業務支援員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの支援スタッフの配置の充実が必要だとしています。

~処遇の改善は~
上乗せ分の引き上げ以外にも、勤務状況に応じた処遇に向けては▼「教諭」と「主幹教諭」の間に学校内外との連携や若手教員のサポートを行う中堅ポストを設け、給与体系にも新たな級を創設して「教諭」より高い給与にすることや、▼保護者の相談対応などに取り組んでいるとして学級担任の手当を新たに加算すること、▼管理職の適切な学校運営が必要だとして管理職手当を改善することも盛り込んでいます。

“時間管理の必要性が改めて強調”

また公立学校の教員には、原則残業を命じないとされている点が追加で明記され、時間管理の必要性が改めて強調されました。
 

現在の制度では、給特法や政令によって公立学校の教員には原則残業を命じないとされていて、管理職が残業を命じられるのは▼実習、▼学校行事、▼職員会議、▼災害など非常時の「超勤4項目」と呼ばれる臨時、もしくは緊急のやむを得ない業務に限るとされています。

これ以外は、教員の判断による「自発的」な勤務として扱われてきました。

一方、2022年度の月の教員の残業時間の平均は▼小学校でおよそ41時間、▼中学校でおよそ58時間で、そもそもの業務量が多すぎるという声が現場の教員などから上がっていました。

特別部会の委員からも前回示された素案に対し、「本来は勤務時間内で授業準備などの業務を終わらせられる体制が必要だ」とか「自発的とは言えない業務で残業をする状況はなくすべきだ」といった指摘が出ていました。

今回のまとめでは、新たに残業を命じないという原則が追加で明記された上で、「管理職から命じられて行う業務ではなくても、時間を管理することが学校の働き方改革を進める出発点であり必要不可欠だ」として、時間管理の必要性が改めて強調されました。

東京都内の小学校では…

働き方改革に取り組んできた東京・新宿区の西新宿小学校では、教員の負担軽減のため、▼休み時間の見守りに保護者に加わってもらい、▽開校時間以外は学校の外線電話を自動音声にしたほか、▼夏休みの宿題を原則なくすなど取り組みを進めてきました。

それでも、朝7時前に出勤し、夜9時ごろに退勤する教員もいて「勤務間インターバル」を11時間とれていない状況があるといいます。

5月13日も午前7時ごろには7人の教員が出勤し、授業に向けた教材研究や今月予定している運動会の準備、プリントの採点などをしたあと登校してきた子どもたちを迎えていました。

5年生を担任する女性の教員
「引き上げは正直、ありがたい。やることもどんどん増えて、10年前とぜんぜん違う状況で教員不足の問題もあるので引き上げは当然だと感じる。業務を切るのは難しいが自分でもメリハリをつけて働かなくてはと思う」

5年生を担任する男性の教員
「引き上げてほしいが10%で解決というのは違うと思う。睡眠時間が取れずに悪循環になるときもあり、勤務間インターバルが11時間以上あったら子どもにも明るく元気に過ごせると思うが、やることが多く現状では難しいと思う」

長井満敏 校長
「上乗せ分が増えることは歓迎できるが、適切かというと時間外労働として10%分よりもっと働いている感覚だ。仕事の総量は変わらない上、休職者や産休育休の教員の代替も見つからない状況では、提言の実効性がなくなってしまうので、国としてケアやバックアップをしてほしい。社会や保護者の学校に対する期待はどんどん高くなっており、社会全体で教育にお金をかけていくというコンセンサスを得ていく必要があるのではないか」

「審議のまとめ」を受けて教員などは…

中教審の特別部会の「審議のまとめ」を受け、教員や専門家などが文部科学省で会見し、上乗せ分の引き上げだけでは長時間労働の解消にはつながらないと訴えました。

会見したのは、勤務時間に応じた残業代が支払われない「給特法」の枠組みの抜本的な見直しを求め、署名や要望書を文部科学省に提出してきた教員や専門家、それに労働問題に詳しい弁護士などです。このうち、岐阜県の県立高校に勤める西村祐二教諭は、次のように話しました。

西村祐二 教諭
「公立学校にも『勤務間インターバル』の道を開いたことは評価できるが、残業代を支払わない『給特法』の仕組みについて議論が尽くされないまま上乗せ分を引き上げるだけの小幅な見直しにとどまっており審議をやり直してほしい。これでは残業は減らず、自分自身も今後教職を続けられるか真剣に考えてしまった。今回の提言の効果検証を行い、議論を継続してほしい」

また「日本労働弁護団」の竹村和也事務局長は、次のように指摘しました。

竹村和也 事務局長
「今回のまとめでは残業代の支払いをしないことを正当化できる論拠は示されていない。教員の業務は専門性や特殊性があり勤務時間を切り分けられないとしているが、専門性がある他の職業でも労働時間の管理はされていて、私立学校の教員などは時間に応じた残業代が支払われており、全く根拠になっていない」

愛知工業大学の中嶋哲彦教授は、次のように話しました。

愛知工業大学 中嶋哲彦 教授
「今回やるべきことは教員を増やして1人あたりの負担を減らすことだったが、長時間勤務をなくすための仕組みを作ることなく、教育委員会や学校に工夫で乗り越えるよう求める内容になっている。業務量が多すぎるという問題に答えを出していない」

“具体的な工程表などを示す責任がある”

教員の働き方改革に詳しい東京大学の小川正人名誉教授は、実現に向けて具体的な見通しを示すよう指摘しています。

教員の給与の上乗せ分を引き上げることについて、次のように指摘しています。

東京大学 小川正人 名誉教授
「給与は上がらないよりは少しでも上がった方がよいが、時間外勤務20時間に相当する10%では、教員の実際の勤務からすると不十分だ。月20時間まで減らせなければ、これまでどおり“ただ働き”という状況が続くことになる。時間外勤務が一定以上を超えたら振り替え休暇とするなど制度的な工夫や運用を考える必要がある」

新たに健康確保策として盛り込まれた勤務間インターバルについては、「11時間の勤務間インターバルは月100時間の時間外を容認するもので、評価には慎重にならざるを得ない。そもそも今の教員スタッフでは11時間の勤務間インターバルは無理で、働く時間に制約をかけた分の勤務を担う代替の教員を増やすといった条件整備を国や都道府県がしなければ、前に進められないのではないか」と話しています。

その上で、長時間労働の解消に向けて、次のように指摘しています。

「授業準備など本来的業務の時間外が増えているので、本来は教員の数を大幅に増やし教員1人あたりの業務量を減らすのが筋だが、子どもが減る中で政府や財務省は慎重で難しい。今回の『審議のまとめ』では、予算や人をどれだけ増やせるかという制約があるなかで、文部科学省が今やれることは書き込まれた印象だが、問題はどこまで、いつまでに実現できるかで、文部科学省は具体的な工程表や予算確保の見通しを社会に示す責任がある」

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