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SLIM(スリム)月面着陸 1月20日未明に挑戦 JAXA無人探査機 日本初の成功に期待高まる

  • 2024年1月19日

日本初の月面着陸を目指しているJAXA=宇宙航空研究開発機構の無人探査機「SLIM」(スリム)。あす、1月20日未明に月面への着陸に挑戦します。

成功すれば日本で初めてです。
世界でも旧ソビエト、アメリカ、中国、インドに続き5か国目になります。

月をめぐる宇宙開発競争が国際的に激しくなるなか、日本が存在感を示せるか注目されます。

月面着陸に挑戦 成功すれば日本初

JAXAの無人探査機「SLIM」は、去年(2023)9月に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、4か月ほどかけておよそ38万キロ離れた月に向かって飛行を続けてきました。

今回「SLIM」は、着陸予定地点と着陸した場所との距離の誤差を100メートル以内にとどめる「ピンポイント」での着陸を目指していて、これまでの各国の探査機では誤差が数キロ単位だったことからはるかに高い精度となります。

月をめぐっては、アメリカが主導してアポロ計画以来半世紀ぶりに人類を月面に着陸させる「アルテミス計画」が進められているほか、民間でも着陸船の打ち上げが行われるなど、国際競争が激しくなっていて、今回、日本が高い精度での月面着陸を成功させ、存在感を示せるか注目されます。

着陸スケジュール

「SLIM」は、月面への精密な着陸技術の実証を主な目的としています。

高さおよそ2.4メートル、燃料を除いた重さがおよそ200キロで、デジタルカメラなどで人の顔を認識するのに使われる「画像認識」の技術を応用することで、月面のクレーターなど地形情報を識別し、目標地点に誤差100メートル以内で着陸することを目指しています。

19日午後10時40分頃に軌道を変更したあと、20日午前0時頃から着陸に向けて降下を開始し、およそ20分かけて着陸する計画です。

降下を開始する時のスピードは、航空機の7倍にもあたる時速およそ6400キロに達し、進行方向と逆に噴射することで急激に減速しながら、およそ800キロ先にある着陸地点を目指す予定です。

着陸予定地点までは、搭載しているカメラで撮影した月面の画像をもとにクレーターの形などを抽出し地図のデータと照合します。

そして、機体の位置を推定してずれなど修正し、より正確に着陸できるよう制御しながら着陸予定地点に近づいていきます。

着陸予定地点の上空に近づくと、高度およそ7キロから高度や障害物などを確認しながらさらに降下し、月面に近づくと小型ロボット2機を分離してから着陸する計画です。

JAXAによりますと、月面着陸の成否は20日の明け方までに明らかになるものの、誤差100メートル以内での「ピンポイント着陸」に成功したかどうかは、データを精査した上でおよそ1か月後に発表されるということです。

着陸はあえて“倒れ込む”

月面にはクレーターなどが存在し、地形が複雑なところもあります。

傾斜地や凹凸が激しい場所では着陸の難易度が高くなるため、各国のこれまでの探査機や着陸船は障害物が少ない平坦な場所に着陸することが一般的でしたが、今回「SLIM」の着陸予定地点は、「SHIOLI」と呼ばれるクレーターの付近で、斜度がおよそ15度の傾斜地です。

斜面への着陸にあたり、倒れ込みながら着陸する「2段階着陸方式」と呼ばれる新しい技術で挑むことにしています。

「2段階着陸方式」では、衝撃吸収材を装着した5本の短い脚を使います。
機体を前に傾けながらこのうち1本の主脚をまず月面に接地させ、倒れ込んだ機体を残りの4本の補助脚で安定させるという方法で、傾斜地でも安全に着陸できるようにしています。

JAXA開発責任者 月面着陸に挑むことについて

「SLIM」が月面着陸に挑むことについてJAXAの開発責任者、坂井真一郎プロジェクトマネージャに聞きました。

月には、大気がほとんどないことから、着地の衝撃を和らげるには、ガスを噴射し速度を落とす必要があるなど、着陸が難しいとされています。

さらに、坂井プロジェクトマネージャは、小惑星などと比べて大きな重力があり引き寄せられるため、一度降下を始めるとやり直しが難しいと説明しました。

その上で「これまでもシミュレーションするなどし考え尽くしているが、本当に見落としはないのか今でも考える。着陸までの最後20分はわれわれにとっては長くて短い20分になると思う」と話しました。

「SLIM」は、当初の計画から今回の着陸挑戦までおよそ20年かかり、途中、搭載するロケットが小型ロケット「イプシロン」から大型ロケット「H2A」に変わるなど計画の変更も余儀なくされました。

これまでの開発を振り返り、「ロケットが変わることに伴って、SLIMの見直しが必要になるなど検討に時間がかかり、前に進んでいるような気がしなかったこともあったが、技術的な課題を1つ1つ乗り越えてここまでたどり着いた」とした上で、「SLIMで実証する『ピンポイント』での着陸は、これから月や天体の探査で、かならず必要になる技術だと感じている。各国が月に向かうなかで成功させ、日本やJAXAとしてこの技術を確立することがわれわれの使命だ。色々な人の思いを月まで届けてほしい」と期待を語りました。

月の起源探る探査

着陸後、SLIMは、月の起源を探る探査も行う予定です。

探査の鍵を握るのはJAXAや立命館大学、会津大学などのチームが開発した「マルチバンドカメラ」と呼ばれる重さ4キロほどの特殊なカメラです。

「SLIM」に搭載された「マルチバンドカメラ」には、10種類の特殊なフィルターが装着されていて、反射した光の波長を解析することで、鉱物の種類や成分がわかります。

月の誕生については、地球に別の天体が衝突したことがきっかけで、およそ46億年前にできたとする「ジャイアントインパクト説」が有力とされていて、衝突によって地球のマントル=岩石の層などが周囲に飛び散り、月がつくられたと考えられています。

今回、着陸を予定しているエリアには、かつて月の内部にあった鉱物の一種「カンラン石(せき)」が地表に露出しているとみられ、月のマントルの成分が地球と似ていることが確認されれば、「ジャイアントインパクト説」を裏付ける証拠の1つとなるということです。

太陽の熱で月の表面温度が上がるとカメラが使用できなくなるため、着陸後測定できるのは数日間に限られる見込みです。

限られた時間内でのスムーズな運用が鍵となることから、去年(2023)11月には滋賀県でカメラの運用を模擬した訓練が行われました。

訓練では、同じタイプのカメラを動かし、撮影する範囲を変える手順のほか、カメラで撮影したデータをもとに遠隔で明るさなどを調整する訓練をしていました。

立命館大学宇宙地球探査研究センター 佐伯和人センター長
「月の起源などをめぐってはさまざまな説があるものの、人類はこれまで月のマントルを観測したことなく、明らかになっていないことが多かった。探査結果は、月や地球の起源を考える多くの研究者のモデルに大きな影響を与える」

SLIM搭載のカメラレンズ 開発の光学機器メーカーも期待

「SLIM」に搭載されたカメラのレンズを開発した長野県諏訪市の光学機器メーカーは、日本初の月面着陸成功に期待を寄せています。

計画に携わっている諏訪市の光学機器メーカーは、「SLIM」に搭載されるカメラのレンズを6年かけて開発しました。

新たに開発されたレンズは、目標地点まで誤差100メートル以内のピンポイントで着陸するために欠かせないカメラや反射光から月の組成を調べるためのカメラに使われています。

最大の特徴は耐久性で、真空状態や月面着陸の振動などにも影響を受けることがないほか、長時間、宇宙空間の放射線にさらされてもレンズが変色しないため、高精度で高精細の映像を捉えることができるということです。

このほか、これまでの実験で蓄積してきた10年間分のデータをもとに、反射した光の波長をとらえて鉱物の種類を調べる10種類の特殊なフィルターも開発しました。

プロジェクトリーダー 関根一秀さん
「レンズが劣化したり壊れたりせず、無事にミッションを果たして、『月の起源』の解明に役立ってほしい」

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