俳優でエンターテイナーの井上順さん(75歳)。
当時、流行したグループサウンズ「ザ・スパイダース」に16歳で参加し、堺正章さんと共にボーカルをつとめ人気を博しました。
バラエティーや歌番組でも幅広く活躍し、NHK大河ドラマや数々の映画にも出演。
そんな井上さんは渋谷生まれ渋谷育ち渋谷在住。
東急百貨店本店の閉店を前に、通い続けたなじみの書店や花屋を訪れ、思い出のエピソード、閉店後の再開発跡地へのメッセージを得意のダジャレを交えて語りました。
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Bunkamuraで取材を受ける井上順さん
渋谷に生まれ育ち、渋谷区の名誉区民でもある井上さん。
“地元”渋谷のひとつのシンボルだった東急百貨店本店の閉店を惜しんでいます。
井上さん
「最低、週2回は来て、本当に楽しませてもらったね。目をつぶっても案内できるよ。自分の家と変わりないかな。いわゆる“デパ地下”でぬか漬けのおしんこを食べて栄養をとったね。
夜は屋上のビアガーデン。開放的な気分で最高だったな。僕の生活はデパートがなかったら成立していないよ」
総菜売り場で体ができているのですね?
元気なのはデパ地下のおかげだよ(笑)。
きょうは僕が癒やされてきた店を案内するよ!
50代からとくに読書が好きになったという井上順さん
自称“本好き”を公言する井上さん。まず、案内してくれたのは7階の書店でした。
たくさん本がありますね。
ねえ、もうこの本ともお別れですよ。
いっぱいこの棚に、本があっ“たな”
棚に「たな」をかけたわけですね。
説明してくれてありがとう!
井上さん
「昔みたいに忙しいわけじゃないから、すてきな本を読んで少し大人の世界に入っていったのかな。海外のミステリー小説が好きでね。
夜、寝る前に読んで目がショボショボな状態になるまで我慢するから、結構、寝不足かな。いろいろな本に巡りあえて、世界を広げてもらい、僕にとって大事な時間だった」
この書店をきっかけに思いもしない“出会い”があったといいます。
2016年に放送されたNHKの大河ドラマ「真田丸」。
主人公を堺雅人さんが演じ、脚本を三谷幸喜さんがつとめました。
井上さんは織田有楽斎役として出演。
この役、実はこの書店で“出演交渉”が行われたといいます。
井上さん
「三谷幸喜さんと偶然、ばったり会ってね。『順さん、ちょうどいま役を探しているよ』と言われてさ。役をもらったときは本当に驚いたな。
本を買うだけではなくて、いろいろな人の出会いに恵まれたのも良い思い出だね。『鎌倉殿の13人』のときも三谷さんに会ったから、『スケジュール空けているよ!』って伝えたけど、それっきりだったね(笑)」
次に訪れたのは地下1階の花屋。
人知れず通い、花が大好きだったという母・美代子さんの遺影に供えるために、たえず購入していたといいます。
どんな花を供えていますか?
白いゆり。カサブランカだね。
なぜですか?
映画『カサブランカ』を見て、母が自分で自分のことを出演していたイングリッド・バーグマンに似ているって言っていたんだ(笑)
僕が「確かに似ているね」って言うと怒ってね。
「違うわよ。彼女が私に似ているの」って。まいっちゃったよ。
順さんもすてきですよね。
ある日、母が健在なときに、カサブランカの花束を持っていったら、
「順、そんなに買っちゃって“かさばらんか”ってね」※ダジャレ
本当ですか!?そのユーモアはお母さん譲りだったんですね。
井上さん
「おちゃめな母だったね。母と一緒にいると常に笑顔、笑顔、笑顔。
家族はいつも楽しい空気に包まれていて、僕は知らない間に、ほほえみは人を和ませてくれることを教わった。母からもらった一番の宝物だね。
成功者ってどんな人か考えたときに、僕のなかでは母のように笑顔をおくれる人が一番の成功者だと思う」
半世紀を超える歴史に幕を下ろす「東急百貨店本店」の閉店。
地元・渋谷で進む100年に一度と言われる再開発について、井上さんは日々、刻々と変わる街並を楽しんでいきたいといいます。
井上さん
「人生って人だけでなく、物や建物、時代背景、何気なく自分の“そば”にあるものから教わることって多い。僕は“渋谷”や“デパート”にたくさん楽しませてもらって感謝、感謝だよね。
新しくなる施設にも、ここに来ただけで知らない世界が見られて、喜びを与えてくれることを願っているよ」
これまで、もう十分に楽しませてもらったから、サンキューベリーマッチじゃ足りないね。トウキューベリーマッチだよ。※ダジャレ
3以上ですね。456789、10…。
そのとおり!
本当に感謝ですよ。
改めて、東急ベリーマッチ!
笑顔でピースサインの井上順さん
取材スタッフに「順さんでいいよ」と気さくに語りかける井上さん。
ロケの合間にファンや地元“渋谷”の住民に声をかけられると笑顔で応じ、甘い歌声も披露していました。
そんな優しさでロケは終始、和やかなムードに包まれました。
順さんが住んでいる渋谷には、明るく楽しい未来が待っているように思えました。
「順」なだけに「順調」に? ※ダジャレ
(聞き手 村上由利子アナウンサー・取材撮影 伊津見総一郎)
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