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中央道 笹子トンネル事故10年 インフラ老朽化対策をどう進める

  • 2022年12月2日

中央自動車道の笹子トンネルの天井板が崩落し9人が死亡した事故から10年が経ちました。事故で道路インフラの老朽化対策の重要性が浮き彫りになりましたが、補修が必要とされながら対策が行われていないトンネルや橋は全国でおよそ3万7000か所にのぼっています。道路インフラの安全をいかに確保していくか、最新の技術開発や専門家の見方です。

笹子トンネル事故 “点検・維持管理の不十分さ”

2012年12月2日、山梨県大月市の中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落して3台の車が下敷きになり、9人が死亡し3人がけがをしました。

事故はコンクリート製の天井板がおよそ140メートルにわたって崩落したものです。原因は天井板を支えるボルトの強度不足とされ、「点検や維持管理の不十分さ」が指摘され、道路インフラの老朽化対策の重要性が浮き彫りになりになりました。

点検 劣化度合いで4段階に分類

事故を受けて、国は、自治体などの管理者に対して橋やトンネルの5年に一度の点検に加え、実際に間近で見て点検することを初めて義務化しました。
点検では、橋やトンネルを劣化などの度合いによって4段階で分類し、このうち、区分3は「早期に補修が必要」、区分4は「緊急に補修が必要」とされます。

補修必要でも対策なし 橋やトンネル3万7000か所

国土交通省によりますと、この義務化を受けて2022年3月末までに、全国に73万あまりある橋やトンネルのほぼすべてで点検が完了しました。
その結果、損傷が大きく5年以内に対策が必要とされたインフラは、橋が6万1407か所、トンネルが3873か所あったということです。
一方、このうち補修が行われていないインフラは、橋では58%にあたる3万5765か所、トンネルでは30%の1144か所にのぼっています。

予算や人員 補修が必要でも年間対応数には限界

点検で「補修などが必要」とされたものの、これまでどおり利用されている橋もあります。

山梨県山梨市牧丘町窪平にある全長およそ30メートルの「琴川橋」は、内部の鋼材が露出し、腐食が進む老朽化が確認され、2015年と2020年の2回の点検による分類はいずれも「早期に措置が必要」とされる区分3でした。住民が生活道路として使う橋ですが、補修する時期は決まっていません。

また、山梨市三富上釜口にある全長およそ40メートルの「青笹橋」は、「緊急の措置が必要」とされる区分4で、通行止めが続いています。市によりますと、利用頻度の高い橋から優先的に補修を行う必要があるとして、いまのところ補修する予定はないということです。

山梨市建設課土木担当 丸山勝之副主幹
「予算や人員などに余裕はなく、優先順位をつけて対応しています。年間に対応できる橋は限られるなかで、順番に対応していくしかなく歯がゆい思いです」

最新の技術で膨大な点検を効率的に

一方で、膨大な数に上る点検を効率的に行う技術もこの10年で進歩してきました。笹子トンネルの事故をきっかけに理化学研究所などのチームは、最新のデジタル技術の活用によるより効率的な点検について研究を重ねてきました。

走行中の車から壁や天井の大部分を撮影し、AIによる解析と専門家による目視によって、検査すべき箇所を割り出します。また、特殊なレーザーを照射し、損傷や空洞といった壁内部の劣化も発見できるということです。
熟練技術者の「人の感覚」に代わるこの新たな検査技術は2年後の実用化を目指しています。

研究実用化の責任者 木暮繁さん
「デジタル化するということが非常に大きなポイントになります。開発者にはこれまで4日かかったのを1日で済ませるというパフォーマンスを目標にしてもらっています事故を教訓に前に進んでいきたい」

専門家 インフラ補修に優先順位を

データに基づくインフラの維持管理のあり方を研究し、国の有識者会議のメンバーも務める東京大学の長井宏平准教授は、利用頻度などを総合的に検討し、補修を行うインフラに優先順位をつける「トリアージ」を行っていく必要があると強調します。

東京大学 長井宏平准教授
「人口減少や予算不足などから、将来的にわたってすべての橋などのインフラを管理し、補修し続けるのは難しい。トリアージで、優先順位をつけて、早く補修を実行していかないと笹子トンネル事故のような大きな事故が再び起きる危険性もある」

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