首都圏ネットワーク

11月10日放送
シリーズ「がんと生きる」(4)認知症とがん 併発の課題とは

社会部 村堀 等
社会部
村堀 等
認知症は、65歳以上のおよそ15%が発症すると言われていますが、さらにがんを併発すると、その治療などにさまざまな課題があることが明らかになってきました。
認知症とがんに苦しむ患者・家族と、医療機関の取り組みを取材しました。
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茨城県阿見町に住む、山口政春さん(79)です。
妻の嘉子さん(75)は6年前に認知症を発症し、家事をすることができなくなりました。
朝ごはんを支度中の政春さんに「朝ごはんの支度は、全部ご主人がされるんですか」と尋ねると、「全部。大変ですよね。前の晩にあした何を食べさせるか考えながら買い物に行ったり」と、その苦労を話してくれました。
去年5月、突然、胸の痛みを訴えた嘉子さん。
乳がんが見つかり、左胸の腫瘍をすべて摘出しました。
それまで体の異変を訴えることはなかったと言います。
その当時のことを山口さんは「それこそ『まさか』っていうかね、『どうなることやら』のひと言ですね」と振り返っています。
嘉子さんは定期的に通院しながら、がんの再発を抑える薬を飲んでいます。
山口さんは、薬を渡すとき、処方された通りに飲めるように細心の注意を払っています。
「薬を朝昼晩、まとめて出していたけど、認知症のスイッチが入ると全部一気に飲んでしまう。だから隠してて、朝に出したりとか。大変ですよ、薬の管理も」。
山口さんは、認知症の症状が進めば、がんに対するケアがさらに難しくなるのではないかと不安を感じています。

「再発するっていうのが常に頭にあります。そうなったらどうするんだろう。うちのやつよりは早く死ぬわけにはいかないと。妻を送ってからね。でないと逝けない」。
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夫婦がともに認知症を患っている場合、事態はより深刻です。
叔父をがんで亡くした、伊藤和直さん(68)です。
叔父の犬飼伸彦さん(享年88)を、おととし12月に前立腺がんで亡くしました。
子どもがなく、夫婦2人暮らしだった犬飼さん。
突然倒れたときにはすでに、がんが胸や腰などに転移していたと言います。
伊藤さんは、そのときの様子を「相当進行した状態だったというのが、あとで分かりました。膀胱(ぼうこう)のところを前立腺がんが埋めてしまっていて、だからおしっこが出なくなってしまってた」と話します。
おいの伊藤さんは、犬飼さんの見舞いに行ったときに、初めて叔父と叔母の2人とも認知症を患っていたことを知りました。
叔母の二三子さんは、その後認知症が進み、介護施設で暮らしています。
伊藤さんは、2人がともに認知症を発症することがなければ、がんの治療が手遅れにならなかったのではないかと考えています。
「前立腺がんがこんな進行した状態で見つかることは、ほとんどないと思いますので、それはちょっと残念だったのかなと思います」。
国立がん研究センター東病院です。
専門の医師は、体の異変を訴えるのが難しい認知症の特徴が、がんの発見の遅れにつながっていると指摘しています。
精神腫瘍科長の小川朝生医師は「体調がなにかおかしいけれども、そのおかしさがご自身でつかまえられなかったり、言葉にならないということがあります。結果としては病状がかなり厳しい状況になって気づかれるということが増えることもあります」と話しています。
がん患者が認知症を併発した場合、専門の病院に入院していても治療は簡単ではありません。
この病院では、患者ががんであることを忘れて、点滴や輸血の管などを引き抜いてしまったり、治療を拒否したりするケースも相次いでいるということです。
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こうした患者に適切に対応するため、がんの治療にあたる医師と、認知症に詳しい精神科医などの連携に力を入れています。
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緩和ケア担当医が「発作的に意識障害があるなかで、起きると『痛い』というような感じにはなってきているようです」と報告すると、精神科医は「できることを同時にやって、意識を下げるようなもの、薬は、もしかしたら控えておいて」とアドバイスします。
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さらに、薬剤師や看護師などへの講習会も開いています。
小川医師はこの中で「認知症の人っていうのは、痛みをうまく表現することができない方が多いです」と説明していました。
がんと認知症に携わる医療関係者の取り組みが始まっています。
小川医師は「がんと認知症って、もう別々の疾患というイメージですので、両者が重なるというのがなかなか想像しにくいというのが、この問題が進みにくい面があると思います。総合的にどう対応するかという目線が重要になっていくと思います」と指摘しています。
取材にあたった社会部の村堀等記者は、認知症とがんの併発という深刻な問題について次のように話しています。

「がんの発見が遅れるとか治療が難しくなるという問題のほかに、さらにもうひとつ、どのような治療を受けるのか本人の意向を確認するのが難しいという問題もあるんです。認知症は症状が進むと理解力や判断力といった力が低下して、自分の考えを相手に伝えることが難しくなります。このため本人の意向を確認できないまま、代わりに家族が判断するというケースも少なくありません。

本来、どのような治療を選択するかは本人に決める権利があります。専門の医師は、認知症の患者が残したメモや周りの証言などをもとに、できる限り本人の望みに添うような配慮が必要だとしています。
認知症とがんの対策については、ようやく一部の医療機関で取り組みが始まったという状況です。これまでがんと認知症は、それぞれの対策が別々に進められてきました。そのため、併発することで起きるさまざまな問題にどう対応するのかは、これからの大きな課題だと思います。

この問題は、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年にかけて急速に深刻化していくのは確実な状況です。喫緊の課題として、取り組みを強めていく必要があると思います」。

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