首都圏ネットワーク

9月26日放送
70年目の憲法〜いま暮らしの中で(1)行き詰まる奨学金制度〜

社会部 荒川 真帆
社会部
荒川 真帆
憲法はことし11月に、公布から70年を迎えます。
憲法は暮らしのさまざまなルールの大もととなるもので、私たちの権利を支えるものでもあります。

9月26日に開会した国会では、憲法改正をめぐる議論が再開される見通しです。
この70年間、私たちを取り巻く生活環境は大きく変わりました。
私たちの今の暮らしと憲法の関わりを見つめ直します。
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1回目は奨学金がテーマです。
奨学金は、経済的に苦しい家庭の子供がお金を借りて大学などに進学できるようにする制度です。
この制度を保障しているのが憲法26条です。
「すべての国民は(中略)ひとしく教育を受ける権利を有する」と記されています。

奨学金制度は、戦後日本の高等教育を支えてきました。
しかし今、その奨学金の返済に苦しむ人が急増するなど、制度の行き詰まりが問題となっています。
憲法が保障する「教育を受ける権利」。
それを実現するはずの奨学金制度に今、何が起きているのか、取材しました。
横浜市で開かれた奨学金の説明会です。
多くの高校生や保護者が足を運んでいました。
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参加した女子高校生は「親にいろいろお金の面で迷惑をかけないようにと思って、少しでも」と話し、別の女子高校生の母親は「母子家庭なんですけど、収入が明らかに低いので、手持ちのお金だけでは足りない」と打ち明けます。
大学の授業料は値上がりを続け、現在、国立でも年間およそ54万円。
30年前のおよそ2倍です。
その一方、家計の収入は伸び悩み、奨学金を利用する学生は年々増加。
今や大学生の2人に1人が利用しています。
関西の私立大学に通う中野裕己さんです。
この4年間、奨学金を借りて大学で学んでいます。
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現在、1人暮らしをしていますが、母子家庭のため家計は厳しく家からの仕送りはありません。
中野さんは奨学金の書類を示しながら「これが企業からお借りしている分で、これが国からお借りしている分」と説明してくれました。
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中野さんは国と企業、さらに大学からの奨学金を利用しています。
合計は年間157万円。
これに対し授業料や家賃など年間の支出は190万円にも上ります。
中野さんは「負担として大きいのが授業料ですね。年間120万円くらいかかってくるので」と話します。
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奨学金だけでは生活費が賄えず、ラーメン店と居酒屋のアルバイトを掛け持ちする日々。
深夜まで働き続け、体調も崩しました。
勉強の時間も確保できず、退学を考えた時期もあったと言います。
中野さんの借り入れ額は、教育ローンをあわせるとすでに500万円近くに上ります。
小学校の教師になる夢を持っていますが、卒業後に返済ができるのか、不安が募るばかりです。
中野さんは「大学に通えることができたのは奨学金のおかげだと思いますし、その部分ではすごく感謝しているんですけど、勉強がおろそかになってしまうっていう、その矛盾で苦しんだことがあります。働いて返していかないといけないという点では、すごいプレッシャーを感じていますし、自分がちゃんと払っていけるのかなという不安もずっとある」と、苦しい胸の内を明かします。
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就職ができても、奨学金を返済できないケースも増えています。
この都内のNPOのもとには、ここ数年、奨学金の返済に悩む20代や30代の若者から相談が急増しているといいます。
背景の一つが、非正規雇用の増加です。
その数は現在全体の4割近くを占めています。
平均の給与もこの20年ほどで50万円減っています。
奨学金は戦後長く、憲法が保障する「教育を受ける権利」を実現してきました。
しかし雇用形態の大きな変化により、その維持が難しくなっています。
NPO法人の渡辺寛人さんは「正社員になったとしても手取り12万円、13万円で働いている若者が非常に多くいますので、働きながら返済するというのが非常に困難な若者が増大しています」と指摘しています。
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奨学金を貸し出す日本学生支援機構です。
今、返済が滞っている奨学金の回収業務を強化しています。
かつて奨学金を借りていた人に電話をかけ「現在お仕事をされているか、どうかですね。今の状況はどうですか、お仕事の方は」と尋ねます。
理由は奨学金に充てる資金が不足しつつあるからです。
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奨学金の延滞者は、昨年度32万8000人。
その額はおよそ880億円に上ります。
現在、機構では回収業務を他の会社に依頼。
さらに裁判所に督促の申し立ても行っています。
これについて機構は、今の制度を続けるための苦肉の策だと話しています。
遠藤勝裕理事長は「奨学金の仕組みは、卒業した人たちが一生懸命返してくれる返還金が全体の7割の財源になっている。限られた財源と制度の中で、一人一人の困った人にどう目配りするか、これが難しいですね」と話しています。
取材にあたった社会部の荒川真帆記者は、次のように話しています。
「奨学金制度の行き詰まりの原因として、日本の社会や家庭の変化に加え、日本では教育支出は私的なものという考え方が根強いことが挙げられます。日本の教育に関する公的な支出は、欧米諸国と比べて少なく、OECDに加盟している国の中で最低の水準です。
憲法だけでなく教育基本法でも保障してきた奨学金制度ですが、専門家は時代に合わなくなっているのではないかと指摘しています。
教育社会学が専門の日本大学の広田照幸教授は『敗戦直後で貧しく格差もある中で、教育の機会の均等を掲げてスタートしたのが、日本国憲法です。経済状況がずっと良い状態であれば、貸与型で後の人生で返していくという見通しが持てますが、経済が低成長で、しかも雇用・労働市場が必ずしも皆に長期の見込みを保障しない。制度がだんだんと状況の変化に対応できなくなっている』と話しています。
今、与野党を超えて、返済の必要のない『給付型』の奨学金制度を来年度導入することを目指しています。高等教育であっても公的支援の拡充は世界的な流れになっていて、憲法が保障する『教育を受ける権利』を支えるためにも、一刻も早く奨学金の問題を解決することが急がれていると思います」。

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