首都圏ネットワーク

8月15日放送
男性不妊 精子の質の低下を防げ

首都圏放送センター 安田 哲郎 写真
首都圏放送センター
安田 哲郎

WHO=世界保健機関によりますと、実は不妊の原因の半数は男性側にある「男性不妊」といわれています。そこで注目されているのが、「精子の質」です。
精子はさまざまな要因で動きが悪くなったり、中に含まれているDNAが傷ついたりするなど「質が低下」し、それが原因で不妊を招くことが分かってきたんです。
どのような治療が必要なのか、取材しました。

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さいたま市に住む岩渕智宏さんは、結婚後なかなか子どもができず、2年前、夫婦で地元の不妊治療クリニックを受診しました。
検査の結果、原因は智宏さんにあることが分かりました。精子の質の目安となる「運動率」は、23%と正常値の半分ほどでした。
医師には自然妊娠は難しいといわれました。
智宏さんは「私自身精力はあったので、とんでもない、精子は元気なんだろうと思っていたんですけどね、まさか自分自身がこういう結果だったとは、本当に驚きでした」と検査結果を語っていました。

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その後、夫婦は医師の薦めで体外受精に臨みました。
まず、妻から28個の卵子が採取されました。
しかし、受精卵がうまく育たず、1つも子宮に戻せませんでした。
妻は20代と若く、卵子には問題がないことから、「精子の質が低下」していることが原因の1つと考えられたのです。
「はじめに第一報を聞いたときは、子どもがつくれないのかなというショックがありましたね」と智宏さんは話します。

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これと同様の問題を抱えた患者は少なくありません。
埼玉県越谷市にある獨協医科大学越谷病院の男性不妊の外来です。
患者の多くに「精子の質の低下」の症状がみられます。

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実は精子は、細胞を傷つける活性酸素や熱に弱く、そうしたダメージを受けると中に含まれるDNAを損傷してしまうことが最新の研究で分かってきたのです。
そうした「精子の質の低下」の大きな要因となっている症状があります。
それは精巣の静脈に異常が発生する「精索静脈瘤」です。

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これは精巣から腎臓へ通じる静脈が、弁の機能不全で逆流してしまうもので、血が滞り静脈の一部がこぶのように膨らみます。
精巣に老廃物が流れ込むことに加え、温度も上昇。
これによって、精子を作り出す機能や、精子そのものの質が低下してしまうとされています。
不妊で悩む男性の3割から4割にみられる症状です。

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症状の改善に有効なのは手術で、静脈を切断したり、ふさいだりして血液の逆流を止めます。
患者のおよそ半数に効果があるといいます。

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国内有数の手術数を誇る獨協医科大学越谷病院の男性不妊専門医の岡田弘医師です。
岡田医師のデータでは、この手術によって比較的症状が重い患者を中心に精子のDNAの損傷率が減少。精子の質に改善がみられました。
岡田医師は「精子の質が問われる今の現状を考えると、もう少し精索静脈瘤の手術が盛んに行われてもいいんじゃないかなという風に考えています」と話しています。

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しかし、去年の手術件数は全国でおよそ500件に過ぎません。
原因は医師不足です。日本生殖医学会によると、男性不妊の専門医は全国に僅か41人。婦人科医の10分の1です。
首都圏でも茨城や群馬など専門医が1人もいない地域があります。
そんななか、不妊に悩んでいた岩渕さん夫婦は、地元のクリニックから岡田医師の病院を紹介され、診察を受けることができました。
そこで夫の智宏さんに「精索静脈瘤」が見つかったため、手術を薦められたのです。

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手術から1年後、かつて23%だった精子の運動率は67%に上昇しました。
そして今年に入り、妻の麻衣子さんは自然妊娠しました。
麻衣子さんは「私も最初信じられなくて、検査薬を何回もしました」と話し、智宏さんも「今までのお互いの努力が報われたのかなと、非常にうれしかったですね」と喜びを語っています。

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この手術が男性不妊の有効な解決策の1つだと考える岡田医師は、「適切な治療ないし適切な診療が行われることで、より子どもができてくる確率は上がってくると思っています」と語り、今後、専門医をさらに増やすなど医療体制の充実に力を入れるべきだとしています。

男性不妊の専門医が、なぜこれだけ不足しているかというと、これまで日本では「不妊は女性の問題」という考え方が広くあり、治療も女性中心に行われてきたことが背景にあるということです。
しかし、最近では「精子の質」を改善する治療を評価する婦人科医も増えており、男性不妊の専門医との連携を模索する動きが出てきています。
今回紹介した「精索静脈瘤」の治療ですが、専門医によりますと、手術の効果があらわれるかどうか分かるまでに、3か月から1年ほど時間がかかるため、女性側の年齢が高い場合などには先に「体外受精」を行う事もあるということです。

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