子どもたちが大好きな「おすし」を通して、命の大切さを伝える写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』が話題です。
作者は、東京で少し変わったすし店を営んでいる岡田大介さん。本に込めた思いを取材しました。
絵本は、おすし屋さんに子どもたちがやってくるところから始まります。「このニョロニョロしたのたべられるの?」と不思議そうにアナゴや魚を眺める子どもたち。するとおすし屋さんは子どもたちに、魚の特徴を説明しながらおすしをつくっていきます。
食べることは、生きものの命をいただくということ―。
「おすし」が作られる過程を通して命の大切さを伝えるストーリーが評判となり、日本絵本賞も受賞しました。
この絵本を書いた、岡田大介(おかだ・だいすけ)さんの店を訪ねました。
岡田さんの店の特徴は、自分で魚を釣り、さらに、釣った時の映像を見せながら握ること。
岡田さん
「生き物が食べ物になるまでのこの全行程を理解していただいてから食べると、同じおすしでも、違った感覚で食べられると思います」
岡田さん
「おすしは食べ物ではあるのですけれど、元々は全部「命」だったと気付いた時があった。生き物を食べて自分たちは生きているということ、釣ってきた魚がすしになるまでを体験していただくと、納得いただけるかなと」
岡田さんはすし職人として修業を積むなかで、魚を「食材」としてしか見ていないのではないか、それでは本当の「おいしさ」にたどりつけないのではないか、と考えるようになりました。そこで、漁に同行したりスキューバダイビングで魚を観察したりと、模索を始めました。すると魚がどのように生きているのか、その命の尊さを実感するようになったといいます。
「生きものをいただいている」。そのことを、自分のすしを通して伝えたいと考えるようになりました。
岡田さんは、各地の小学校などで、釣った魚がどうやってすしになるかを分かりやすく伝えるワークショップを開催。徐々に、岡田さんの思いに共感の輪が広がっていきました。
そして、さらに多くの人に伝えたいと考えついたのが、絵本でした。
7月。絵本を読んで興味をもってくれた知り合いの親子を誘い、釣った魚がすしになるまでを体験してもらうことにしました。
小学4年生のゆうさんと父親です。なんと、ゆうさんは魚が大の苦手。
魚嫌いのゆうさんに、魚への興味をもってもらえるのでしょうか。
この日狙うのはカワハギ。
生きているカワハギを見て、最初は怖がってばかりのゆうさん。
触ってみる?
いや無理
それでも開始から3時間が経つと、ようやく念願のカワハギを釣りあげました!
自分で釣ったカワハギを手に持ったゆうさんは…
お~ジョボジョボする。オスだ!第一号
「魚、好きになりそう?」と聞いてみると。
見た目はいけるけど、味は分からない…
岡田さんはここからが腕の見せどころ。職人姿になって、釣った魚をさばいていきます。
生きものが食べものになる過程を知ってもらうため、包丁でしめるところも見てもらいます。
なんか、ちょっと残酷…
岡田さんは、カワハギのことをもっと知ってもらいたいと特徴や骨のつくりを話しながら、おろしていきます。
岡田さんの話を聞くうちに、ゆうさんは段々と魚に興味を持ち始めました。
カワハギの刺身を食べてみると。
思ったより、魚臭くない
臭くないよね。臭くなければいけるってことなんだ!おいしい?
いける
「生きていたものをいただくのは、どう思う?」と聞いてみると
死んでいく感じ、罪悪感残るけれど…それはそれで、ありがたく感じる
おいしい、おいしくないってことだけじゃなく、生き物のことや世の中のことなどに興味をもってくれるのがうれしい。食べもののことを深く知る、命のことを知るみたいなことができるのがありがたい
岡田さんは、こうした体験を通して、多くの人たちに命の大切さを伝えていきたいと考えています。
岡田さん
「おすしという食べ物を入り口にして、お魚、命のことを感じていただけると、楽しく、きれいに、魚のことを見られて、おいしく食べられる。今後もいろいろな場所で、こういう活動をしていきたいと思っています」
<紹介した本>
『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』
文:おかだ だいすけ / 写真:遠藤 宏 / 出版社:岩崎書店