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テーマはつながり!葉室麟から小野寺史宜まで 中江有里のブックレビュー

  • 2022年6月13日

葉室麟、最後のエッセイ集。
能楽師である著者初のファンタジー小説。
住む場所も年齢も違う二人の母が忌憚なく語り合う、往復書簡。
朝の満員電車に乗り合わせた7人の奇跡、連作短編集。
「美しい」を父娘で探す、13の対話。

人と人、時間、記憶。つながりは偶然ではなく必然。そんな本を紹介します。

【番組で紹介した本】

『読書の森で寝転んで』
著者:葉室 麟
出版社:文春文庫

Yuri’s Point
50歳を過ぎて時代小説家としてデビューした葉室麟さん、最後のエッセイ集。葉室さんを時代小説家へと導いた本の書評や随筆、小説講座など、様々な媒体に書かれていた作品を一冊にまとめることで“葉室ワールド”がつながる。長く本を愛してこられ、作家となっても読者であった著者の、本への思いが、つまっている。作家として創作する際、歴史上の人物の偉業よりも、生き方に光を当ててこられた葉室さんの姿勢に胸打たれた。

『魔法のほね』
著者:安田 登
出版社:亜紀書房

Yuri’s Point
能楽師である著者の、初のファンタジー小説、児童文学。小学5年の「たつき」は、謎めいた骨董店で「オラクル・ボーン」=「魔法のほね」と呼ばれる板を手に入れる。そこに刻まれた古代文字を読み解いていくと、思いがけない展開が待っていた。たつきと、その仲間たちが、時空を超えて冒険する物語。作中にある、「不安になるということは、何かを変えなければならないというメッセージ」この言葉は、子どもだけでなく、大人にも響く。現代と過去、時空を超えた神秘に、つながりを感じる物語。

『ははとははの往復書簡』
著者:長島有里枝、山野アンダーソン陽子
出版社:晶文社

Yuri’s Point
スウェーデンに暮らすガラス作家と、日本に住む写真家の書簡集。住む場所も年齢も違う2人が同じ“母”という立場で、お互いの経験や、悩み葛藤などを忌憚なく語り合う。家庭内の家事の配分や、スウェーデンではこどものしつけという理由で叩かないこと、国やパーソナリティ、お互いのパートナーの得意不得意など、答えが出にくい生活習慣の違いをつづる2人。読みながら、自分の育った家庭環境や、時代、現在の家庭のあり方を振り返った。共感だけでなく、認め合うこと、自分の考えを話すこと。どれも1人ではできない。2人が交わす言葉の優しさと深さを感じた。

『奇跡集』
著者:小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
出版社:集英社

7人の登場人物に起きた小さな奇跡を、それぞれの視点から描いた、連作短編小説。舞台は、満員の朝の快速電車。次の駅まで15分間止まらない同じ電車の同じ車両に、たまたま乗り合わせた見しらぬ人たち。そのとき小さな事件が起きるが…。

Yuri’s Point
たまたま同じ電車に乗り合わせただけだが、何か事件が起こると途端に、運命共同体になる。偶然同じ時間・同じ場所にいるということも奇跡だし、さらには日本・地球という乗り物に、同じ時代に存在している、という「つながり」の中で生きていることも奇跡。ひとつひとつの奇跡は、起こるべくして起こることもあるし、自分で起こすこともできる。奇跡のつながりが、人生になる。

『美しいってなんだろう?』
著者:矢萩多聞、つた
出版社:世界思想社

「美しいってなんだろう?」と、8歳の娘からの問いかけから始まった、父と娘の13の対話。父が「美しい」と感じる原風景を手紙のようにつづり、それに娘が応じた、2年半にわたる共作。

Yuri’s Point
著者が装丁家ということもあり、本のつくりがとても凝っている。世の中が「美しさの価値がある」と思うものと、人それぞれが「美しい」と思うものとは、ちょっと違う。ダイヤモンドは高級で美しいが、そういう美しさではなく、見てきた景色や、経験、そういう「美しさ」を書いている。実際に、親が子どもだった頃のことを聞く機会は多くない。「美しいってなんだろう?」という問いかけによって、お父さんからいろんなことを聞き、その思い出に入っていける娘。父娘のやり取りが美しい1冊。


【案内人】
☆女優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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