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五木寛之さん流“人生後半を豊かに生きるヒント”

  • 2022年5月11日

作家、五木寛之さん。1966年『さらばモスクワ愚連隊』でデビュー以降、『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞を受賞。『青春の門』『親鸞』『大河の一滴』など多くの作品を発表。
今年発表したエッセイ『捨てない生きかた』は、10万部のセールスを記録する大ヒットとなっています。
なぜ今、五木さんのライフスタイルが注目されているのでしょうか?
人生百年時代。“人生後半を豊かに生きるヒント”を、キーワードを手掛かりにお話を聞きました。

コロナ禍で生活スタイルが激変!?

今秋に90歳を迎える五木さんですが本当にお元気!その秘訣は?2つのキーワードでひも解きます。

五木:60年くらい夜型の生活だったんです。目を覚ますのが夕方の5時か6時、寝るのが朝方5時6時、そんな暮らしでした。色んな先輩たちから「朝日を浴びないとビタミンDができないよ」と言われたりもしましたが、「大丈夫、朝日を浴びて寝ていますから」なんて言ってごまかしていたんです。
ところがこの2~3年コロナ禍を過ごして、どういう訳か急に夜12時ごろになると眠くなって、朝は7時頃に目を覚ますというように逆転したんですよね。

80代後半になって朝方に切り替えるのはすごいですね。

五木:たぶん世の中の動きだと思うんです。夜に街に出てもやっているお店がほとんどないでしょ。昔は、深夜映画、深夜喫茶などあってね。夜の12時くらいから出かけていたんですよね。
「書を捨てよ、町へ出よう」(編集者注:寺山修司の代表作のタイトル)という感じだったんですね。

55.5

なんの数字ですか?

五木:「五木」だけに、ゲン担ぎというか数合わせなんですが、ついつい「5」という数字を選んでしまう。「55.5」これは僕の理想の体重です。学生時代に55キロだったので、できるだけそれを維持しようと思っています。

今でも?

五木:寝る前と起きたときに楽しんで体重を計っていますけどね。でもそれだけですよ。

食事は?

五木:56キロを超えると食べる量を減らすとか、40キロ台になったら逆に増やすとか。気をつけるというより道楽ですね。

本のタイトル“捨てない生きかた”とは?

五木:ぼくは無精なんです。国内外“断捨離”ブームの中で、「捨てない」というテーマはバッシングを受けるのではと心配していましたが、これが意外に共感してくださる方が多くて、面白いと思っています。

なぜ、捨てなくてもいいのでしょう?

五木:物を捨てるのは、ものすごく努力とエネルギが―がいります。「捨てなきゃ」と思いながら達成できずに、プレッシャーに感じている人もたくさんいるのではないでしょうか。
そんな人への「捨てなくてもいいんじゃない?それなりになんとかなるよ」という受け身のメッセージだったんですが、意外な反響があったのでびっくりしました。

捨てずにそのままとっておくことによるメリットは?

五木:世の中の人々の不安ごとは、3つの「K」だと思うんです。
昔の「3K」というと「汚い」「きつい」「危険」でしたが、いまの「3K」は「健康」「経済」「孤独」。「健康」や「経済」は思うに任せることはできないものですが、少なくとも「孤独」ということに関して言うと、明日のこと、前ばかり見るのではなく、過去を振り返って昔のことを回想するということが、実はすごく大事なことなのではないかと思うようになりました。
ステイホームで家にひとりで居ても、50~60年前のことをいろいろ思い出したりしていると、孤独ではない感じがしたんです。その「思い出」を引き出すためには、何かきっかけが必要です。そのことを「依代(よりしろ)」といいます。

思い出すきっかけになるものが、捨てないものの中にあると?

五木:ちょっとした、一見どうでもいいようなものを見ることで、回想の“かけら”が出てきます。その糸口を引っ張っていくと、次第に昔の日々がよみがえってくるのが面白い。「これはやっぱり捨てないで大事に取っておいた方がいいな」と思って、結果“ゴミ屋敷の住民”みたいな暮らしをしています(笑)。

「下山」は成熟のときであり、人生の本質を知る時期

普通、登山は登りを頑張ってしまうが、下山が大事?

五木:ぼくは、登山は「下山」に極まると思う。急な山道を登っていくときは必死で登っているから、ほとんど後ろを振り返る余地もないですが、頂上を極めてからゆっくりと下山していく過程において「遠くの方に雲が見えるな」とか「こんなところに鉄道が走っている」など、ゆったりと周りを見渡せる。そんな中で自分の中の来し方行く末というものを振り返って考えながら安全にスムーズに下山していく。これは登山の醍醐味だと思うんです。

モノは「記憶」を呼び覚ます装置 “依代”

五木:昔、喫茶店のマッチを集めたり、ワインのラベルを集めたりしている先輩たちがいたんです。「なんでこんなモノを集めているんだろう?」と思っていましたが、きっとひとつひとつに人それぞれの思い出があるんですね。あそこに旅行したときにこんな店があって、入ったらこういう人がいてこんな話をしたとか、そういう思い出が、モノを眺めているとスーッとほぐれるように記憶が広がっていくんです。

五木さんにとっての大事な“依代”もお持ちいただきました。

五木:部屋の隅に積み上げている帽子です。全部取っておいたら、こんなことになっちゃったんです。古いものだと50年くらい前のもあります。
外国を旅行するときなんかは帽子をかぶることが多くて、持参した本の表紙にも昔の写真を載せています。(編集者注:CD集『五木寛之作詞作品集 歌いながら歩いてきた 歌謡曲から童謡、CMソング、合唱曲まで』のブックレット(日本コロムビア))
30年くらい前にインドに旅行したときの写真です。普段の姿ではなく現地風にして、頭に帽子をかぶって、インドからブータンのほうに旅をしたんです。日差しのきついところですから帽子は助かりました。ブッダが説教したという霊鷲山(りょうじゅせん)という山に登ったときは風がすごく強くて、帽子が崖の上から飛んで落ちそうになったんですよ。必死に帽子を捕まえに行ったら自分が崖から落ちそうになったりしてね。帽子を見ていると、次から次へ当時の情景が浮かんでくるんです。

人づき合いは浅く、そして長く

人づき合いこそ深く、腹を割ってつき合うのだと思っていましたが?

五木:昔の本で「人と契らば、浅く契れ」という言葉を読んだ記憶があります。友情は油のように濃くて深いと意外にどこかで決裂しやすい。だから“水のように淡々と”がいいんです。1年に1回会うか会わないか、年に2~3回手紙をもらうくらいで60年程つき合いがある方が何人もいますが、できるだけ細く長く、淡いつき合いを心掛けています。今も、例えば初対面で挨拶して、この人とは気も話も合いそうだなと思ったりしたときは、割とそのあと距離を置いたりする傾向があります。

接近したい、近づきたいと思わないんですか?

五木:若いときはそういう時期もありましたが、いつしか、人間のつき合いが長く続くためには、水のように淡くつき合った方がいいなという風に感じるようになってきたんです。

人との縁も捨てない 仕事も捨てない

五木:小説を書く前に、テレビやラジオの仕事を長くやっていました。井上ひさしさんが「ひょっこりひょうたん島」、野坂昭如さんが子ども番組を作っていて、僕も放送作家として「夜のステレオ」という音楽番組をやっていました。そのときの新人アナウンサーが下重暁子さんという時代です。
そのあと作家になったからラジオの仕事は辞めるのではなくて、「ずっと仕事は捨てない」というつもりで、いまも「ラジオ深夜便」に出演しています。(編集者注:「ラジオ深夜便」出演(2005年~現在))
夏が来たからそれまで着ていたTシャツを捨てる、とかそんな話ではなく、そこを入り口にしてもうちょっと深いところで「捨てる」「捨てない」を考えてみたいと思ったのが、今回の本を著したきっかけです。
例えば、いまのウクライナの情勢を見ると、自分の国を捨てないために戦っています。僕は戦後、外地(現在の北朝鮮)から引き揚げてきたんですが、正式な引き揚げではなく「脱北」という形で抜け出してきました。その時の自分は“難民”ではなく“棄民”=「国に捨てられた」という感覚でした。そうした経験も経て、「仕事も捨てない」「故郷も捨てない」「国も捨てない」「人々も捨てない」…そういう「捨てない生きかた」というのが、ひょっとしたらあるんじゃないかと考えています。

まもなく60歳… “下山”に差し掛かる世代へのメッセージをお願いします。

五木:「前ばかり見ない」ということが大事です。だれでも最期は往生します。確実にゴールは来るので、そのことは放っておいてもちゃんとできるから心配ない。むしろ過去のことに思いを向けて、生きかたとか自分の暮らしかた、そういう世界に、「モノ」を“依代”にしてじっくり浸ることで、「孤独」から脱出することができるのではないかと思います。思い出はすごく大事だと思いますよ。


【ゲスト】五木寛之さん(作家)

1932年福岡県生まれ。朝鮮半島で幼少期を送り、1947年引き揚げ。1952年早稲田大学ロシア文学科入学。1957年中退後、編集者、ルポライターを経て、1966年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、1967年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、1976年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。代表作に『風の王国』『親鸞』『大河の一滴』など多数。

『捨てない生きかた』
著者:五木寛之
出版社:マガジンハウス新書

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