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小澤征爾 家族の物語ほか5冊 中江有里のブックレビュー

  • 2022年5月9日

ソウル一角のあるアパートで暮らす女性たちの物語。
「はやく」と「ゆっくり」の間にはさまれた子どもの心を描いた絵本。
自身の家族についてのノンフィクション。
50歳、独身、団地に暮らす幼なじみの2人の日常。
家族だからこそ語れる、小澤征爾の音楽、人間、ほんとうのこと。

家族のような結びつきでなくても、何か共通のものがある人たちがゆるくつながっている…。そんな人と人とのつながりが感じられる5冊をご紹介。

【番組で紹介した本】

『あのこは美人』
 著者:フランシス・チャ
 訳 :北田絵里子
 出版社:早川書房

Yuri’s Point
ソウル一角のあるアパートで暮らす女性たちの物語。
学歴や容姿、さまざまな価値観に揺さぶられながら、厳しい現代社会を生きる女性たちは、家族のように一つ屋根の下で暮らしています。美容整形大国である韓国における見た目へのコンプレックスや拘りが描かれるが、容姿によって社会に分断されてきた多くの女性たちの代弁者とも思える。
読みながら相手のつらい気持ちは共感できても、つらさはその人だけのものでもある。どんなに親しい間柄でも相手の心を知ることはできないからこそ、その心を想像して、お互いを支えあえるようになるのではないかと感じた。

『「はやく」と「ゆっくり」』
文:張輝誠
絵:許匡匡
訳:一青妙
出版社:光村教育図書

Yuri’s Point
台湾の翻訳絵本。親に「はやく」と急かされる子どもが主人公。 対して、祖父母は「ゆっくり」とこどもに語り掛ける。「はやく」と「ゆっくり」に挟まれる子どもの目線でその心が描かれている。きっとお子さんのいる家庭では「はやく」と言わなければいけない場面があり、決してそのことを否定しているわけではなく、「ゆっくり」と言える祖父母の言うことも理解できる。「はやく」と「ゆっくり」の間で、子どもがある答えを見つける。似たような経験がある保護者とお子さんにおすすめ。

『家族』
著者:村井理子
出版社:亜紀書房

Yuri’s Point
翻訳家の村井さん自身のご家族について書いたノンフィクション。以前「兄の終い」という東北で亡くなった疎遠の兄についての本を出されたが、本作は父、母、そして兄と過ごしてきた日々と確執、一瞬の幸せの後に訪れる裏切り、絶望など、家族に対する複雑な感情が描かれる。ひとりひとりは愛情深かったのに、うまくかみ合わなかったり、それぞれが抱えていた病に的確な治療を施せなかった家族。両親と兄を看取り、ひとりになってしまった著者が邂逅するある家族の姿。自分の家族ではないのに、身につまされた。

『小澤征爾、兄弟と語る 音楽、人間、ほんとうのこと』
著者:小澤俊夫・小澤征爾・小澤幹雄
出版社:岩波書店

60年以上にわたり世界を舞台に活躍してきた、クラシック音楽界の巨匠、小澤征爾。中国に生まれ、引き揚げ後の貧しい暮らしと音楽武者修行を経て、多くの人に支えられ、切り開いた人生の記録。昔ばなし研究者の兄・俊夫とエッセイストでタレントの弟・幹雄が、ともにふりかえる。

Yuri’s Point
まさに小澤家のファミリーヒストリーだが、兄弟と語るというのがポイント。おそらく他の人が書いたら小澤征爾さんが出会った音楽家の話が中心になると思う。でもこの本は違う。昔家にいたお手伝いさんの話から世界的な音楽家の話まで、これまで征爾さんが出会った人たちすべてが並列で描かれている。実はそれが人生。有名な人との出会いだけが征爾さんを導いてきたわけではない。そのあたりの兄弟ならではの記憶が興味深い。

『団地のふたり』
著者:藤野千夜
出版社:U-NEXT

50歳、独身、幼なじみ。イラストレーターなのに現在はフリマアプリで生計を立てる奈津子と、非常勤講師の仕事で日々ストレスを抱えているノエチ。生家の団地に戻ってきた2人の、暑苦しくない、さらりとした友情を、ユーモラスに温かく描いた小説。

Yuri’s Point
人と人との繋がりが希薄になってきた中で生まれたフリマアプリが、実は人間の本当の欲求をあぶり出している。 一般的には売れそうにないものでも、フリマアプリは世界中にたったひとりそれを探している人がいればいい。人間関係も同じで、人は欲張りだからたくさんのものを欲しがるが、本当は、友達もパートナーも自分のことを本当にわかってくれる人がたったひとりいればいい。そんなことに気づける一冊。


【案内人】
☆女優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『トランスファー』(中央公論新社)、初めての翻訳絵本『みんなスーパーヒーロー』(平凡社)、『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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