1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. ひるまえほっと
  4. 林忠彦賞受賞写真集など3冊を紹介 中江有里のブックレビュー

林忠彦賞受賞写真集など3冊を紹介 中江有里のブックレビュー

  • 2022年3月10日

日常の閉塞感に幸せを感じられなくなった大人たちの物語。
林忠彦賞を受賞、コロナから東京五輪の2年間を追いかけた写真集。
「正しく想像する」とは?私たちがいかに他者の経験や情報を頼りに生きているか問う。

「自分のような誰か」によって、私は私を認識できている。そんな3冊をご紹介。

【番組で紹介した本】

『オオルリ流星群』
著者:伊与原新
出版社:KADOKAWA

Yuri’s Point
科学者としてのキャリアを生かした雄大な作風で知られる伊与原新の最新小説。
40代半ば、少しずつ人生の行き詰まりを感じ始めた主人公と、地元に暮らす高校時代の仲間たち。そこへ、28年ぶりに仲間の一人であるスイ子が戻ってくる。夢破れたスイ子とともに、仲間たちは手作りの天文台を建てるために再び集う。
冒頭に「幸せの総量には、上限がある。」とあるが、果たしてそうなのか?日常の閉そく感に幸福を感じられなくなった大人たちの物語。彼らが“美しい時間”と思っていた学生時代に起きたことの謎が、時を経て解き明かされていく。夜空のように壮大で静かな空気を感じる。

 

『東京二〇二〇、二〇二一。』
著者:初沢亜利
出版社:徳間書店

<紹介した作品>

Yuri’s Point
コロナ禍に入った2020年、1年遅れの東京五輪が開催された2021年。東京の人々や光景を映し出した一冊。
感染者が多数出たダイヤモンドプリンセス号やマスク姿の大群、撮影時期や場所を照らし合わせながら「この時こういうことがあった」と記憶を振り返ったり、オリンピックにまつわる光景もまた歴史的な場面の連続だったと感じたり。今見ることができる貴重な記憶であり、10年後20年後、さらにその先になって見直したい記録がまとまった写真集。

 

『他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学』
著者:磯野真穂
出版社:集英社新書

人類学者が医学的観点からひもとき、現代社会を生きる人間のあり方を根源から問う一冊。
人が生まれ、死んでいく過程で発生する、病気やリスク。私たちがいかに、他者の経験や情報をたよりに生きているか、様々な角度から論じる。

Yuri’s Point
予防医学が進み「この病気になるとこういう症状になる」ということがある程度分かるようになった。しかしあくまでそれは、他人の経験。病気になったときも、医師から説明される言葉で、体の中で起こっていることを想像する。自分のことさえ、それまでの「他人」の経験に基づかないと理解できない。
新型コロナウイルスがいったいどんなものなのか想像もつかなかった2年前、有名人の死の情報通してその怖さを実感した人も多い。「他者」の経験によって、まだ感染していない私は想像の中で怖がっている。それが自分にとって正しいかは誰にも分からない、ということに、改めて気づかされた。


【案内人】
☆女優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『トランスファー』(中央公論新社)、初めての翻訳絵本『みんなスーパーヒーロー』(平凡社)、『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

ページトップに戻る