松戸市は高度経済成長期に都心のベッドタウンとして発展したため、築年数の古い家やマンションが数多くあります。
いま、そうした都心近くの通勤圏内の物件に移住することで、夢を実現しようという動きが広がっています。
松戸駅のほど近く、細い路地を進んだ先に週末だけオープンする焼き菓子店があります。店内はアンティーク雑貨や四季折々の草花がデコレーションされています。
店主の服部千賀子さん。4年前に神奈川県川崎市から松戸市に移り住み、自分の店を持ちたいという夢をかなえました。
夫の暁文さん。普段は新宿で働くサラリーマンですが、週末はお菓子のパッケージをデザインするなど千賀子さんをサポートします。
充実感はとてもあります。たくさんのお客様が、わざわざ足を運んできていただいて夢が実現した感じです。
主婦の千賀子さんが店を持ったきっかけは、かつて夫の仕事の関係で移り住んだフィンランドです。古い文化を大切にする伝統的な暮らしに魅せられ「いつかは北欧の趣きを感じられる店を開きたい」という夢が芽生えたのです。
しかし、帰国した夫婦は2人の子どもを授かり、仕事と育児に追われる忙しい毎日を過ごすことに。夢は遠のいていきました。
ところが5年前、たまたま見つけた松戸の物件は相場の半額で、しかも改装自由。「これなら今の暮らしを続けながら店が持てる」と、胸が躍りました。
初めてみたときにここにしよう、2人とも「ここいいね」となって。
もし失敗してうまく行かなくても、またやりなおせばいいかというか、無かったことにすればいいかなと思えるくらいの負担、リスクかなと思っていました。
物件を貸し出していたのは、松戸で不動産の賃貸やコンサルティングを手がける会社でした。代表の寺井元一さんは、新たに店を始めようとする人を積極的に支援することで、街を活性化させる新規事業を立ち上げていました。
僕らは街の中身は最終的には人なんだろうと思っているので、どんな人が集まるかで街がどう変わっていくかも変わります。
クリエイティブ心みたいなことを持った人たちと出会いたいです。
貸し出すにあたって、寺井さんが夫婦に求めたのは開業する店の綿密な事業計画書でした。
どんな店にしたいのか、その基本コンセプト。そして店舗すみずみにいたるまでの改装計画。街に根付く店にするにはどうすべきか。夫婦とアイディアを練り上げます。
格安で物件を貸す代わりに、事業が黒字化すれば、売り上げの一部を受け取るという仕組みです。
松戸への移住を決心した夫婦。子供たちと一緒に店の改修のほとんどを自分たちで行いました。
1年後。老朽化した古い民家は、夫婦のこだわりが詰まった北欧風の店舗に生まれ変わりました。
店が開かれる週末。女性客を中心にたくさんの人がやってきます。千賀子さんが焼いたスイーツでもてなします。
ダメだったら、いつでも引き返せばいいと始めた「お試し移住」。千賀子さんの人生を、豊かなものへと変えていました。
いま形になって、こんなにたくさんの人に来ていただけるのが本当に信じられないくらいです。
地元に愛されるお店に成長させていけたらいいかな、と思っています。