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「自然共生サイト」って? “生物多様性”保全に取り組む企業の狙いは 千葉

  • 2023年10月27日

さまざまな生物が暮らす豊かな森林や池。

ことし10月、国はこうした生物多様性が保たれている全国の土地122か所を「自然共生サイト」として、初めて認定しました。

認定は、土地の所有者からの申請を元に行われましたが、実は申請の半数以上が民間企業からでした。なぜ企業が生態系の保全に乗り出しているのか、現場を取材しました。

(千葉放送局記者・荻原芽生)

初認定「自然共生サイト」とは

「自然共生サイト」は、2030年までに国土の陸・海それぞれ30%で生態系を保全する「30by30」という国際目標を達成するため、国が新たに始めた制度です。

あと7年で国土の保全地域を30%まで高めるには、国立公園などの公的な保護区だけでは不可能です。

このため、希少な動植物が生息していたり、動物の越冬や繁殖の場になったりしている土地を認定し、企業や個人を「生物多様性の保全」に巻き込んでいこうというのが、「自然共生サイト」の狙いです。

初めての認定では、北海道から九州までの広い範囲で、緑地やビオトープなどが認定されました。

NEC事業所内で“生態系保全”

「自然共生サイト」に認定された1つ、千葉県我孫子市にあるNECの事業所の敷地を訪ねました。

自然共生サイトに認定されたNECの「四ツ池」

IT技術に関する研究が行われている事業所のすぐ脇に、「四ツ池」と呼ばれる4つの池があります。源流は湧き水で、敷地の広さは約4haに及びます。

池には、清流の宝石とも言われる「カワセミ」や、絶滅のおそれがある「オオモノサシトンボ」などが生息しています。

オオモノサシトンボ(撮影:為貝和弘さん)

そして、周辺の水系では問題となっているブルーギルやザリガニなど、外来種の駆除に取り組んでいます。地域のボランティアと連携し、トンボやゼニタナゴなどの在来種を保全しています。

地域のNPO法人と連携した保全活動

なぜNECが保全活動に?

なぜ、電子機器の製造やIT技術の開発に取り組む企業が、生態系の保全に乗り出しているのか。そこには、自然が損なわれることに伴う事業へのリスクと、国際的な潮流があります。

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近年、世界各地では豊かな森林や水環境が急速に失われ、水や食料の不足、災害リスクの増大といった、社会経済への影響も懸念されています。

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企業が自然とどう関わり、リスクと機会をどう見積もっているのかは、将来を見越した投資を集める上で、重要性を増しているといます。

NEC 環境品質統括部 金成かほりさん

企業が自然資本や生物多様性に対してどういう行動をとっているのか、情報開示を求める投資家の動きが世界的に広がっています。

企業として対応を始めていかなければ、国際的なビジネスに影響が出てしまうような状況です。

企業の自然環境に関する情報開示は、「TNFD(ティー・エヌ・エフ・ディー)」と呼ばれる国際基準に沿って行われます。これに賛同している企業は、国内で100社、世界では1000社を超えていて、関心が高まっています。

NECは今年7月、「TNFD」に沿ったレポートを国内のIT企業として初めて公表しました。

レポートでは、地下水を利用している工場などで、干ばつや土壌汚染などがどのようなリスクになるのか分析した上で、生態系の保全が広がることで自社のデジタル技術を生かす機会が増えると予測しました。

その上で、「自然共生サイト」での保全活動を、自社と自然が関わる象徴的な取り組みとして位置づけています。

NEC 環境品質統括部 金成かほりさん

レポートを公開したことで、金融機関などから反響があり、投資の拡大に期待できそうです。

「TNFDレポート」では「四ツ池」での保全活動の情報を開示していますが、国から「自然共生サイト」として認定してもらったことで、投資家などから明確な形で評価してもらえるようになり、企業価値を高める1つに繋がっています。

ゼネコンが“里山の自然”再生

「自然共生サイト」を、別の形で生かしている企業も訪ねました。

千葉県印西市にある「竹中工務店」の研究所です。「調の森」と呼ばれる約1haの敷地が認定されました。

もともとは更地でしたが、4年前から、北総地域の里山でみられる草花や木を取り入れ、多様な生態系を育んでいます。

ここでは、希少な「タチフウロ」という花や、「ガシャモク」という水草などが見られます。

タチフウロ

“生態系保全”で差別化を

しかし、ただ自然を保全しているわけではありません。

ここでは、どのような野鳥が、どういった環境に飛来するのかについて研究が行われています。

野鳥を撮影するセンサーカメラ

飛来する野鳥の種類や数は、自然の豊かさの指標ともされます。

ヤマガラ

野鳥が生息するには、木の実や昆虫などの餌が豊富にあることや、安全に羽根を休めたり水浴びしたりする居心地の良い環境があること、それに、繁殖(営巣)に適した環境があることなどが必要です。

ジョウビタキ

研究所では、木が密集している森林と、木が少ないエリア、木が全くない野原の3つの異なる環境を整え、飛来してくる野鳥の種類をモニタリングしています。

こうした研究の成果は、ゼネコンとしての技術力向上に大きく関わっているということです。

竹中工務店 技術研究所 三輪隆さん

これまでビルのオープンスペースなどの「緑地」は、見た目がきれいであることが最も重要だったのですが、近年は世界的な潮流から、生物多様性への貢献が求められるようになっています。

このため、研究所で生物多様性を保全しながら、「緑地」の設計に生かせるような研究を行っています。

生物多様性などへの「解決力」というのが、いまは競争の中心軸になってきています。私たちの「自然共生サイト」は、本業と密接に結びついた技術力を高める研究の場になっています。

専門家「自然保護の変革期」

自然保護に長年関わってきた専門家は、近年、大きな潮流の変化を感じるといいます。

京都大学 森本幸裕 名誉教授

これまで自然保護は行政やボランティアが担ってきて、お金や経済に結びつかないものでした。しかし、いまや企業も生態系保全を考えないと、国際的に事業を展開できない状況になっています。

「自然共生サイト」への認定を、投資の動機づけとして企業に活用してもらうことで、国土の30%を保全する「30by30」の目標達成に近づくと思います。

取材後記

今回取材で訪れたところは、いずれも一見、企業の敷地内かどうか分からないほど自然があふれていました。そして、取材を通して企業の価値観が変化してきていることを実感しました。

ふだん生活している中で生態系の危機を感じることはなかなかありませんが、企業の姿勢や国際的な動きを見ながら、今後も取材を続けていきます。

  • 荻原芽生

    千葉放送局記者

    荻原芽生

    趣味は登山。高山植物が好きです。ことしは雷鳥に遭遇できました。

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