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金属スクラップヤード 千葉県の規制条例が成立 騒音・悪臭・火災などの改善は

  • 2023年10月11日

千葉県内に全国最多の300か所以上ある「金属スクラップヤード」。金属やプラスチックなどのスクラップを保管している施設で、周辺では騒音や振動、悪臭、油の流出などがたびたび問題になっています。

千葉県議会では、「金属スクラップヤード」を規制する条例が成立全国の都道府県では初めてとなります。条例は問題解決につながるのか、先行して条例が施行された千葉市の現場などからお伝えします。

(千葉放送局記者・木原規衣、渡辺佑捺)

「金属スクラップヤード」規制条例が成立

10月11日に閉会した千葉県議会。「金属スクラップヤード規制条例」が、全会一致で可決・成立しました。全国の都道府県では初めてとなります。

条例案の採決の様子(10月11日)
ラッカ星人

どんな条例ができたの?

木原記者

条例の最も大きなポイントは、「金属スクラップヤード」を新たに設置する場合、県の許可が必要になることで、「許可制」は「届け出制」より厳しく、罰則も設けられているよ。

このほか、次の内容が盛り込まれているよ。

●新規設置の許可申請前に住民説明会を開催すること

●崩落や火災を防ぐため、保管物の高さなどの基準を守ること

●ヤードの現場責任者を設置すること

●保管基準を守る義務に違反した場合には変更命令、安全に支障が生じている場合には措置命令を出す

●県が定期的に立ち入り検査を行う

●無許可での営業、命令に違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金

●届け出の義務に違反した場合は30万円以下の罰金

●既存の事業者には規定にあわせるまで1年間の経過措置を設け許可の取得を求める

「金属スクラップヤード」の問題とは

ラッカ星人

そもそも「金属スクラップヤード」ってどういうものなの?

木原記者

金属や使用済みプラスチックなどを含むスクラップを保管している施設だよ。

自動車部品を解体する施設も「ヤード」と呼ばれるんだけど、今回問題になっているのは、金属やプラスチックなどが混ざったスクラップを扱う施設のことだよ。

ラッカ星人

何が問題になっているの?

木原記者

周囲の環境への影響が問題になっているんだ。

千葉県にある「金属スクラップヤード」のうち、約3分の1にあたる100か所以上で、部品を解体する際の騒音振動悪臭油の汚染、高積みによる崩落のおそれ火災などが報告されているんだよ。

金属スクラップが高積みされたヤード(写真提供:千葉市)
ラッカ星人

それは良くないね…「金属スクラップヤード」って、千葉県にどれくらいあるの?

木原記者

全国に808か所(2021年8月時点)あるんだけど、このうち千葉県内には300か所以上が確認されていて、都道府県別で最も多いんだ。

千葉県は、コンビナートや港が近いためスクラップの購入や売却がしやすいほか、土地価格が比較的安いことが背景にあると言われているよ。

ラッカ星人

問題は何とかならないの?

木原記者

なかなか難しいみたいなの。

県は条例制定に向けて、地域から生活影響の報告があった116か所を調査したの。そうしたら、全体の8割近くが外国人による経営で、住民が改善を求めても言葉の壁があって伝わらないという問題も出ているよ。

ラッカ星人

そういう経緯で条例ができたってこと?

木原記者

そうよ。でも、「金属スクラップヤード」で扱っているものは「有価物」「再生資源」だというのが規制を難しくしているの。

「廃棄物」であれば廃棄物処理法で規制できるんだけど、「有価物」「再生資源」は規制できないので、新たな条例を作る必要があったんだよ。

先行して条例施行 千葉市では

ラッカ星人

千葉県の条例は都道府県では初めてということだけど、市町村では制定しているところもあるの?

木原記者

そうだよ。「金属スクラップヤード」が数多くある千葉市では、2021年11月にヤードの「許可制」を定めた条例を全国で初めて施行したんだ。

県条例は千葉市条例を参考にしてつくられていて、県内では、このほかに袖ケ浦市も2023年4月から条例を施行しているよ。

千葉市では、条例の施行後に住民説明会が4回開かれて、新たに設置されたのは3か所だけと少なくなっているよ。

条例に基づく立ち入り調査の様子(写真提供:千葉市)
ラッカ星人

規制がうまくいっているということなのかな?

木原記者

千葉市の条例では、住居から100メートル離すという立地基準があるため、住宅地に近いヤードの建設計画がなくなった事例もあるらしいんだ。

各地の「金属スクラップヤード」には、市などによる立ち入り検査や指導が毎日のように行われ、住民からの苦情は減っているみたいだよ。

条例に基づく立ち入り検査の様子(写真提供:千葉市)
ラッカ星人

千葉市の条例がうまくいったなら、千葉県の条例もうまくいくのかな?

木原記者

そうなるといいんだけど、課題もあることも分かってきたよ。

千葉市の条例が成立してから2年がたった中で、効果がどうなのか確かめるために市内の「金属スクラップヤード」近くの複数の住民に話を聞いてみたの。

すると、トラブルは収まっていなくて、住民がいまも騒音などに頭を悩ませている地域があったんだ。

ラッカ星人

どうして条例で取り締まることができないの?

木原記者

条例では、スクラップの保管方法が主に規制されているんだ。

生活への影響に関しては、「騒音又は振動が発生する場合、生活環境の保全上支障が生じないよう必要な措置を講ずること」とされているけど、具体的な規制の基準は示されていなくて、実際の規制はそれぞれの法令で行う必要があるんだよ。

例えば騒音は、条例とは別に「騒音規制法」で規制されていて、市はこの法律に基づく指導を続けているんだけど、なかなか改善されないんだって。

「金属スクラップヤード」を巡る問題は、騒音規制法のほかにも、都市計画法、消防法など、複数の法令にまたがっているんだ。

条例はそれぞれの規制を強化するものではないから、新しい条例ができたからといって、すぐに個別の問題が解決するわけじゃないんだよ。

ラッカ星人

でも、条例で新規設置には許可が必要になったんだよね。問題があるところは許可を出さなければいいんじゃないの?

木原記者

なかなか、そういうわけにもいかないんだ。

千葉市の条例では、都市計画法、建築基準法、森林法、農地法などのほかの法令に違反していたとしても、条例そのものに抵触していなければ許可を出すことになっているんだよ。

これについて千葉市は、「ヤードの運営者に事前協議を求めるなどして、法令違反がないように取り組んでいる」としています。

高積みが改善されたヤードの様子(写真提供:千葉市)
ラッカ星人

行政も手が出しにくいんだね…。

木原記者

とは言っても、市の指導で防音壁や防音シートを設置したところもあるし、条例によって行政がヤードに指導を行うきっかけができたというのは大事だと思うよ。

市が指導しても改善されない場合に出される「改善命令」も、これまでに1件出されて、すでに改善されているようだよ。

千葉市は、警察と合同で毎月立ち入り検査やパトロールを行っていて、監視や指導の徹底を図っているとしているよ。

県条例の課題 専門家は

条例制定の意義について、条例案の検討に関わった国立環境研究所の寺園淳・上級主席研究員に聞きました。

国立環境研究所
寺園淳
上級主席研究員

設置を許可制としたことで、新規設置の抑制を狙ったほか、金属スクラップの保管基準を設けたり、現場責任者の設置を求めたりしたことで、住民が感じている不安に対して一定の効果はあるはずです。

「有価物」であることから廃棄物の規制を逃れようとするヤードにも対応できるはずなので、ヤードを設置している側にも認識されるようしっかり周知されることが必要です。

条例制定後も騒音、振動、悪臭のような問題が解決しない場合は、県と市町村が連携して、規制対象の拡大や条例に基づく指導など必要な措置を取って対応する必要があるでしょう。

また、同じく条例案の検討に関わった、大正大学の岡山朋子教授にも聞きました。

大正大学
岡山朋子教授

求められているのは、ヤードを設置した責任者の顔が見えることだと思います。そのため、行政は条例で規定した住民説明会の実施などを後押しをしていくべきだと思います。

そして、まずは責任者に対し、早朝や深夜の操業は騒音の問題があることや、騒音は何デシベル以下が好ましいかなどを理解してもらうことが大事です。

条例制定も大きな一歩ですが、条例だけでなく、そのほかの法令も最大限に活用して、適切に操業されるよう県と自治体が連携して対応していくべきだと思います。

(2023年10月12日に一部の表現などを修正しました)

  • 木原規衣

    千葉放送局記者

    木原規衣

    2018年入局。8月から県政キャップ。

  • 渡辺佑捺

    千葉放送局記者

    渡辺佑捺

    2021年入局。8月から県政担当。

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